赤の女王
赤の女王? 誰も走り続けなどしない世界の中で、女王一人が走り続ける。孤独の赤の女王。吹き抜ける風も、時代の息吹も、走り続ける彼女に目もくれず、静寂と暗黙のうちに、東から西へと渡る日の元に、過ぎていくのだろう。──赤の女王。女王一人が走り続ける、誰にも目をくれず。孤高の赤の女王。
私たちは、彼女の悲哀の瞳を目にしただろうか、白いさざ波を立てて吹きすぎる時刻が、正午の鐘を鳴らす。置き去りにされた全ての者たちを残して、女王は走り続ける。それは一人だけの頌歌、葬送曲の一つの旋律でもある。空隙に、薄らぐ色の雲は落ちるだろう、留まり続けなかった者の声として。声のように。
赤の女王よ、赤の女王。誰も走り続けることなど、無い世界で。貴女一人が走り続ける。盲目の赤の女王。燈し火を揺らす風も、燭台に飾られた蝋燭も、迷い続ける貴女に目をくれず、ノクターンの響きの中で、東から西へと流れる月の下に、色づいていく。──赤の女王。女王一人が走り続ける、誰もが目をくれず。悲しき赤の女王……。孤高の。
ふと。──空隙に、薄らぐ
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