第34話 思わぬ誤算
目の前には海水のない大海原が広がっていた。深さは100m以上であり底は確認することは出来ない暗闇だ。目の前に突如現れた黒い大海原を見たミーチェは、シルバーの底知れぬ強さに世界の終焉を覚悟した。
「シルバー様、私たちはこの先をどのように進めばいいのでしょうか?」
シルバーによって消滅された森は、黒の大海原と化したので先を進むことが出来なくなってしまった。
「あ!どうしよう・・・」
シルバーは後先の事など何も考えていなかった。
「シルバー様、迂回するしか方法はありませんが、かなりの距離になりそうです」
「う・・・ごめん」
「いえ、気にしないでください。シィアン!シルバー様を乗せて異形の大地に向かうぞ」
「・・・」
「シィアン!何を気を失っているのだ。起きろ!」
「・・・あ・・あうううう」
シィアンは悪夢にうなされているような形相で呻き声をあげる。
「シィアン、起きろ!」
「はぁ!ミーチェ様・・・世界が滅亡しました」
「シィアン、何を寝ぼけている。世界の滅亡はまだ始まったばかりだ」
「・・・あ!!!森が・・・森が・・・」
「シルバー様が森を消滅させてくれたのだ。もう、混沌の魔獣を恐れる必要はなくなったのだ」
「あの凶悪な混沌の魔獣たちを一瞬で滅ぼしたのでしょうか?」
「目の前の黒の大海原を見ればわかるだろう。生き残った魔獣などいないはずだ」
「シルバー様に着いて行けば私達に未来はあるのでしょうか?獣人族の繁栄はあるのでしょうか?」
シィアンは絶望のまなこでミーチェに問いかける。
「それを決めるのは私達ではない」
「もう、無理です。ここで私を殺してください。私はついていけません」
「ミーちゃん、何をしているの?向こうに行くよ」
シルバーは状況を飲み込むことは出来ず笑顔でミーチェの裾を引っ張る。
「もう少しお待ちください。部下が生きる気力を失ったのです。すぐに説得させます」
「その獣人は死にたいの?なら殺してあげる」
シルバーが手をかざすとシィアンの体は爆発して瞬時に肉片となる。
「ミーちゃん行くよ」
シルバーはミーチェの裾を引っ張る。
「シィ・・・ア・・ン・・・」
ミーチェは拳を握りしめて零れ落ちそうな涙を必死に食い止める。
「もう1人も死にたいのかな?」
ミーチェはシルバーを止めようとはしなかった。フントも目覚めれば死を選択することは容易に理解出来たからである。ミーチェが瞬きをして、目を開いた時にはフントの姿は消えていた。
「ミーちゃん。行くよ」
「わかりました」
獣人族には女性は存在しない。男性だけの種族で男性同士で生殖をして子孫を残す。シィアン、フントはミーチェのパートナーであった。最愛のパートナーを失い、獣人族の生き残りはミーチェだけとなり、種族の絶滅が決定した。しかし、ミーチェはパートナー達と一緒に死ぬことを選択しなかった。
ミーチェはシルバーを背にのせて、異形の大地を目指す為に黒の大海原を迂回した。
「混沌の森が一瞬で崩壊されたようです」
「終焉姫の力は素晴らしい。私たちが発明した終焉兵器などガラクタに思えるほどだ」
「今回こそ世界は滅ぶだろ。1000年前、終焉姫が世界を終わらせなかったことが、私たちの悲劇の始まりだ。あの時、一思いに殺してくだされば、俺たちは1000年も苦痛を虐げられる事はなかったのだ。やっと死ねるぞ」
「エジウソン、喜ぶのはまだ早いぞ。俺たちは終焉兵器を2度と復活させないように命令を下されていた。しかし、愚かな人間の手によって発掘され、兵器として仕様されたのだ。俺たちは終焉姫との約束を破ってしまった」
「俺たちは死ねないのか・・・」
「いや、まだ悲観するのは早計だ。こちらに向かっているって事は、何か理由があるはずだ。それに噂だと昔の記憶が残っていないらしい」
「そうか・・・お前が焦らすような事を言うから肝が冷えたぜ」
「すまん。でも、喜ぶのもまだ早いと言いたかったのだ」
「忠告、感謝する」
「しかし、混沌の森が消え去り底が見えない谷底になってしまった。俺たちには飛行艇があるが、終焉姫はどうやってこちら側に来るつもりなのだろうか」
異形の悪魔達は1000年前に超古代文明を誇っていた。空を自由に駆け回る飛行艇、地面を猛スピードで駆け抜ける低空艇、一度にたくさんの荷物や人を運ぶことが出来る連結低空艇など、今の世界には存在しない高速で移動できる手段を持っていた。そして、移動手段だけでなく、生活を楽にするためのあらゆる分野で最先端の科学と魔力を掛け合わせた技術があったが、1000年前の全種族による世界大戦により超古代文明は失われた。
しかし、その超古代文明の一部である古代兵器は地下に封印され、革新的な技術は異形の悪魔の頭脳に封印された。
「今の技術だと空を飛ぶことは出来ないはずだ。俺たちが出迎えた方がよいのでは?」
「ダメだ。俺たちは終焉姫様が来るのを待つことが使命なのだ。俺たちは1000年も待ち続けたのだ。一週間くらい待つのは長くはないだろう」
「そうだな・・・」
異形の悪魔達は終焉姫が来ることを待つことにした。
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