第18話 ディープキス
「ロリポップさん、私に任せてもらえるかしら」
「でも・・・」
「ロリポップ!執事様の命令は絶対だぞ。メイド長が執事様に逆らうなど言語道断だ」
ハーロルド子爵は満面の笑みで怒鳴りあげる。
「ロリポップさん、安心してください。私に考えがあるのです」
私は小声で優しく声をかける。
「わかりました」
クローヴィス兵士長は、私たちのやりとりに全く関心はなくずっと私の方だけを見て考え込んでいる。
「執事様、俺の知っていることは何でも話す。だから、まずはクローヴィスと別の牢屋に移動させてくれ。あいつが側にいると俺の命が危ない」
この地下の施設内には複数の牢屋がある。私たちがいる場所には3つの牢屋があり使われているのはこの1つだけである。
「それはできません。あなたが本当に真実を述べているか判断するにはクローヴィス兵士長の仕草によって判断します。なので、一緒の牢屋でいることは大切なのです」
私はまだクローヴィス兵士長が白であると判断したわけではない。ロワルド男爵の名を出しても反応がなかったのは、彼の精神力が高く動揺を隠していたのか、それとも、クローヴィス兵士長にとってロワルド男爵事件はどうでも良いことだっただけなのかもしれない。
「わかった。でも、アイツが変なことをしないかしっかりと監視しておけよ」
「わかりました」
ハーロルト子爵は、これ以上騒いでも無駄だと感じておとなしく言うことを聞いてくれた。一方クローヴィス兵士長は地面に座っておとなしく私たちのやりとりを観察していた。
「ハーロルト子爵、あなたはこれまでクローヴィス兵士長の指示で数々の悪行を行なってきたと思いますが、それは不問としましょう。しかし、その代わりにこの1週間で起こった事件、起こした事件を私に素直に話してください。今日神判所で裁決された事件とは別の事件でお願いします」
「事件???それはどんな事をさすのだ?」
ハーロルト子爵にとっては、数々の非道な行為は罪悪感など微塵に感じていないので、事件と認識していないのである。
「それでは具体的に言いましょう。この1週間で誰を殺しましたか?または殺させましたか?」
「そうだな。屋敷の地下室で男のメイドを5名集めて兵士たちと一緒にナイフ投げをして遊んでいたら、全員死んでしまったな。それと、使い古しの女性メイド2人を全裸にして、男性メイドの檻に入れたら、めちゃくちゃにされて死んでいたな。それと・・・」
ハーロルト子爵は悪びれる事なくこの1週間で15名の殺害を認めたがソルシエールの話は出てこなかった。
「それで全部でしょうか?」
「俺は賢いから死んだ人間をしっかりと覚えている。間違いないぞ!」
「わかりました。それら全ての犯罪はクローヴィス兵士長の命令で行ったと判断してもよろしいでしょうか?」
「そうだ!俺は何も悪くない。悪いのは全てクローヴィスだ」
「クローヴィス兵士長、それでよろしいでしょうか?」
「お前は何がしたいのだ?俺を死刑にしたいのだろ。それならハーロルトの言葉など無用なことだ。神判所では、伯爵が全てを決定する権限がある。俺たちの言葉など無駄だとお前も知っているだろう」
「私が執事になったからには公平に神判がなされるべきだと伯爵様にお願いをするつもりです。なので、どのような事件が神判もされずに放置されたのか気になるのです。これまでの残虐で不当な行為によって亡くなった方を生き返らす事はできません。だから、今後不当に殺されるような事が起きないように、直近の事件や明るみにならなかった事件を知りたいのです」
「詭弁だ!俺にはわかる。お前は聖女のような汚れなき乙女ではない。お前の目は数々の修羅場を掻い潜って来た悪魔の目をしている。お前も俺と同類のはずだ」
クローヴィス兵士長は私の目に宿る悪の心を見抜いていた。クローヴィス兵士長は急に立ち上がりハーロルトの背後に近づいた。
「おい!クローヴィスが不穏な動きをしているぞ!執事様、すぐにここから出してくれ」
クローヴィス兵士長は、ハーロルト子爵を羽交い締めにしておおいかさぶる。ハーロルド子爵は体を大きく揺さぶってクローヴィス兵士長から逃れようとするが、巨漢であるクローヴィス兵士長から逃れる事ができない。クローヴィス兵士長は全身に力を入れてハーロルト子爵の動きを完全に封じ込め、大きく口を開けて黒い塊をハーロルト子爵の口の中に直接押し込んだ。
黒い塊を飲み込んだハーロルト子爵の体は血管が浮き出て、みるみると全身が巨大化していく。ハーロルト子爵の体は膨らみ巨大な肉ダルマのようになり、血管がはち切れて血を噴き出していた。
「ハーロルト、牢屋をぶち壊してアイツらを殺せ!」
クローヴィス兵士長は、黒いオーラを放って傀儡する方法は無効化されると判断し、直接口移しで黒いオーラを体内に押し込むことにしたのであった。
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