第39話 散りゆく運命編(2)
雪村成都は、27歳の人気俳優だった。芸能人に詳しくない麗美香でに名前と顔ぐらいは知っている有名人だ。確か少女漫画の実写化映画によく主演し、お茶やハンバーガーのCMにも出ていた。
背が高く、整った顔立で、いかにも真面目そうな優等生タイプの俳優だった。顔はハーフのように美しいが、子役時代から演技に定評があり、舞台や映画の仕事も決まっていた。
「何で自殺…?」
その夜、麗美香がベッドの上でごろ寝しながら、スマートフォンを見ていた。
小さな画面の奥は、雪村の話題で大騒ぎだった。特に決まっていた舞台や映画関係者は大騒ぎのようで、不用意な発言で叩かれて居るものもいる。
「自殺するような人には見えないけどな〜」
思わず麗美香の呟きが漏れる。薄暗い部屋で見る雪村のニュースは、なぜか中毒性があって見てしまった。
幸村のファンは他殺説をSNSで唱えていた。確かに麗美香の目から見ても自殺するようには見えない。真面目そうではあるが、仕事は順調そうであるし、人気俳優という地位を確立するまではかなりキツい道のりだろう。せっかく手に入った成功を自殺して台無しになすのか?と思うと納得できない。
ただ、他人事ではある。麗美香がいくら考えても答えは出ない問題だ。警察は遺書のようなものがあり、すぐに自殺と判断していたが、まさか日本の優秀な警察が自殺と他殺を間違えるわけが無い。
今日みんなで見た「名探偵クリスティ!」の中には、自殺と判断されていた事件が実は他殺だったという話ではあったが、現実にそんな事はあるだろうか。麗美香は、雪村が他殺と騒いでいるSNSのコメントを横目にため息をつく。スピリチュアルや陰謀論のような情報も出てきて、明らかに幸村の死を利用して人や金を集めているのもあり、ため息しか出ない。
船木陽介という陰謀論者のコメントは、悪魔崇拝の儀式殺人で殺されたとなかなかファンタジックで面白くはあったが。
問題は優である。
雪村に死にショックを受けて寝込んでいた。寝込むほどかとビックリしたものだが、豊が事情を説明してくれた。雪村は子役時代に「名探偵クリスティ!」の実写化映画の時の主演していた。その映画を見た優はすっかり「名探偵クリスティ!」のファンになり、今のようなミステリー小説好きになったらしい。優にとっては今の自分を作るきっかけを作ってくれた存在でもあるようだ。雪村の死にショックを受ける気持ちはわかる。
ただ、心配でがある。
いつか豊はが死ぬことを想像して、涙までこぼしていた優だ。見かけによらず、繊細で感受性も強い。このまま思い詰めたりしないか。豊も心配していた。
「でも、対処法がないわよねぇ…」
麗美香はスマートフォンを見るのをやめて、布団に潜る。
優は心配ではあるが、だからと言ってどうすれば良いのかはわからない。せいぜい励ましたり、気晴らしになる事を誘うぐらいだろうか。せっかくにパンケーキパーティーもぶち壊しになった今、それも逆効果のような気がする。
麗美香は目を閉じて眠り始めたが、なかなか寝付けなかった。今の優にどう接すれば良いのだろうか?麗美香は生まれて初めて模範解答の無い謎にぶち当たっていた。
翌日、優は部屋に閉じこもったままだった。麗美香が朝食を持って行ったが、「要らない」という。
豊も心配して優の部屋の前にやってきた。
「坊ちゃん。気持ちはわかりますが、いつまでもそうする訳にはいかないでしょう。引きこもりになりますよ」
「そうよ。豊さんの言う通りよ。バカで引きこもりだなんて、いくらイケメンでも救いようがないわ」
豊と麗美香がドアの前でガヤガヤと口うるさく騒いだのが効いたのか、優が出てきた。目の下は真っ黒で、髪はボサボサ。相当ショックな事が伝わってくるが、麗美香が持っている朝食のお盆をチラっと見ると、「腹減った…」と情け無い声を出している。今日の朝食は、バターロール、人参と水菜のサラダ、茹で卵、菜の花のおひたしだ。洋食なので、比較的優も興味を持ったようである。
「とりあえず坊ちゃん、朝食食べない?」
「そうですよ。食べちゃいましう」
「うん。そうするよ」
優は麗美香から朝食のお盆を受け取ると、自分の部屋に戻って食べ始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。