第30話 芋臭女子の大変身編(10)
幸花は、よっぽど麗美香にマウントをとりたいらしい。確か豊にはアイプチはされなかった。理由は二つあった。一つはまぶたを痛めるから。二つ目は、麗美香は一重の方が顔や性格に合っているからだ。二重にしてバタ臭くするよりもスッとした雰囲気で知的に纏めた方が良いとアドバイスされた。
確かに二重の方が世間的には可愛いのかもしれないが、必ずしも顔や性格にあっているとは限らないようだ。豊に一重の方があっていると言われているので、麗美香は幸花のマウントに何とも思わなかった。
しかし、優は怒っているようだ。珍しくイライラとした表情で幸花を睨みつけていた。
「そんな事言っていいの? あんただって元ブスだろ。これSNSに拡散して良い?」
優は、さっき執事室でみんなで見ていた画像を幸花に見せると。ビフォーアフターだけでなく、美容整形外科のコメントつきである。こっそりと優はスマートフォンにこの画像を保存していたようだった。
「ちょ、何これ…」
明らかに動揺していた。幸花はやっぱり整形していたと思って良いだろう。
「知り合いに美容整形外科がいるんだけど、その人が言ってたよ。ね、これ画像拡散していい?その美容整形外科、YouTubeもやってるから幸花の事をネタにしてって頼むのもアリだね?」
普段温厚な優とは思えないぐらい早口になり、幸花を言いくるめていた。
「俺、人の容姿を悪く言うヤツ大嫌い。これ以上、麗美香ちゃんを悪く言ったら、そうするけど良い?」
幸花以上に麗美香は驚いていたかもしれない。幸花に個人的にイライラしているのもあるだろうが、この行動は明らかに麗美香を守っている行動である。
別にドキドキはしない。麗美香にちって優はオスではない。自分が今まで優について心の中で毒づいていた事を反省すると同時に、本当にこの人は心が真っ直ぐなのだと思った。あまりにも眩しくて、クラクラしそうだ。おバカだけど、それ以外は完璧な王子様ではないか?そう思うほどだった。
「まあ、そこまでする事ないよ。別に他人の評価に依存した整形オバケに何言われても気にしないから」
「はは、整形オバケ! 麗美香ちゃんもブラックな事言うな」
優は麗美香のブラックな冗談に、ちょっと笑い始めた。
「それにあのひき逃げ事件について正直に言ってくれたら、この画像は拡散しないけどね」
「そうね。坊ちゃんの言う通りね。幸花さん、あんたはひき逃げの犯人なの?」
「違うわよ」
幸花はふてぶてしく言う。仕方ないと言った感じではあるが、事情を話す心境にはなったようだ。
「私は車持っていないし。友達も誰も車は持ってないし」
「おぉ、それは確かにそうだな」
「坊ちゃん、根本的な事を忘れてたわね」
「ちょっとあんた達天然? そんな所に関心してるんじゃないわよ…」
どうやら幸花は、優の性格に毒気が抜かれているらしい。相変わらず態度は悪いが、ため息をつきながら事情をポツポツと話しはじめた。
「実は…。ひき逃げした車見てたのよ。青い車。顔に傷があるようなヤクザっぽい男が運転していたわね」
「ちょっと、重要な証言じゃない!」
「そうだよ、何で黙ってたんだよ!」
麗美香も優もそろって声を上げる。この証言があれば早く犯人も見るかるだろう。車を持っていない幸花がひき逃げの犯人である可能性は低いが、なぜ黙っていたのか。麗美香はその理由がわからない。
「あの日、警察が来たの。事情を聞きにね。でも何故か本当の事が言えなかったのよ…」
太々しい幸花だったが、突然泣きそうに表情を歪めた。下を向き自信のカケラも無いようだった。まるで叱られて俯く子供みたいである。
「あんたは何で言えなかったと思う? 私、何にも悪くないのに不思議と警察に本当の事が話せなかったのよ…」
「それは、整形しているせいじゃない?」
優に推理に麗美香も幸花も驚く。それとこれがどう繋がるのか、麗美香は想像がつかなかった。ただ、幸花に立場に立って想像すると、やっぱり整形は心の底では悪い事という自覚があるせいかも知れないと思った。まして幸花は自力で綺麗になったと謳うインフルエンサー。整形したキャラで売っているならともかく、これだと無意識にやましい事がある状態かもしれない。警察に本当の事が言えない幸花の内面は、何となくわかった。
「そう…。そうかもしれないわね…」
幸花は遠い目をしながら、つぶやいた。やっぱり優の言う通りだったらしい。優はおバカだが人の気持ちはわかる人間のようだ。麗美香は心の中で何度も優に毒づいていた事を改めて反省する。自分は優を悪く言う資格はない。それに幸花についても責める気持ちも無くなってしまった。自分はそんな立派な存在では無い。
「まあ、気持ちはわかるけどさ。被害者もいるんだし、別に整形は犯罪でも無い。整形カミングアウトしている芸能人だっているだろ?」
「そ、そうだけど…」
優も幸花を責める意図はないようだ。優しく説得していた。
「整形だけじゃなくて、人を馬鹿にしてたりするからいざって時に本当の事が言えなくなるんだよ。悪口が自分に返ってくるってこいう事だよ? 他人に『ブス!』とか言ってる自分は好き?」
そこまで言われてしまうと幸花はもう何も言えないようだった。
ボソボソと小さな声であったが、麗美香に謝罪した。これは麗美香の為というより自分の為である事も伝わってきたが、その方が良いかもしれない。麗美香は、人に悪く言われる事も多いが、今はさほど腹が立たなくなってしまった。
こうして幸花はその場で警察にすぐ連絡した。これで事件解決するかはわからないが、話した後の幸花の表情はちょっとスッキリとしていた。
「心はいくら頑張っても整形できないわ…。私はずっといじめられていたし、歪んでいるのよ」
幸花は自嘲気味に呟いていた。
「そんな事ないよ。ちゃんと正直に警察に言えたし、少しまともになっているかもよ?」
優はまるで励ますかのように笑顔で言った。幸花はこの笑顔に再び毒気が抜かれたようで、目を瞬かせていた。その幸花の気持ちは麗美香もなんとなくわかってしまった。
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