その聖戦士、ニセモノです!

雲江斬太

第1章 聖戦士? とんでもねえ、俺はニセモノだよ

第1話 なぜ飛竜に追われている?


 こんなに必死に走ったのは、高校受験の朝に寝坊して、乗らなきゃらならないバスに乗るために、駅からバス停まで走ったとき以来ではないだろうか?


 ケンシロウはいま、なんの因果かマッポの手先か、城壁の上を死に物狂いで走っていた。


 振り返ると、翼をひろげた飛竜が、着陸する旅客機みたいに急降下してきている。その怪物じみた魔獣が、マッコウクジラみたいに巨大な口をぱかっと開き、その喉の奥で炎が逆巻く。


「嘘だろ」

 決死の覚悟で、ハリウッド映画みたいな大ジャンプからの飛び込み前転。石畳の上に転がっての緊急回避。


 火炎放射器みたいな炎が、さっきまで彼のいた場所を薙ぎ、髪の毛がちりちりと焦げるが、それでも命は助かった。


 ──そういえば、こんなゲームあったよな!

 心の中で叫びつつ、なんで自分がこんなことしているのかつい考えてしまう。


「くそっ、なんで俺がこんな目に合うんだ! なんで飛竜と戦ってるんだ!」


 だいたい自分は、ただの役者のはずだ。一介の売れない劇団員に過ぎない。それがなぜ、飛竜と戦っている?


 そもそもあの日、この世界で目覚めた瞬間こそが、間違いの始まりだった。あそこでもう少し上手く立ち回っていれば、こんなことにはならなかったはずだ。


 今はそんなことを考えている場合ではない。そうは思うのだが、やはり後悔してしまうのだ。

 飛竜が翼を広げ、巨体を傾けて急旋回している。このままではやられる。


 ケンシロウは立ち上がると、カードホルダーから召喚カードを抜き取った。

 今はとにかく召喚だ。抜き取ったカードを、召喚ベルトのバックルにあるスロットに叩き込む。


「猫! 召喚!」

 パチン!と指を鳴らす。


 彼の背後で、光り輝く魔法円が出現し、あざやかな光彩を放ちつつ回転をはじめる。


 それでもやっぱり、ケンシロウはあの日の目覚めを思い出してしまうのだった。

 あの日、はじめてこの形成イェツィラー界で目覚めた朝を。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る