第14話

 昼休みの食堂は、今日も盛況だ。

 ここ最近は、ティモシーの来る時間を見計らって声をかけているので、リーゼロッテは今日も同じように昼食を一緒に取ろうとティモシーを探しながら料理が並べられているカウンターへと向かった。

 チラチラとティモシーを探して、中央のテーブルに一人で座っているのを見つけると、ヨーグルトと果物を合えたものだけをトレーに取って向かおうとした。

 そういえば隣にクレメンスがいない。

 いつもはティモシーと連れ立っているのに。

 そういえば昨日先約があると言っていたな。

今日はその人と一緒かなと思っていると、なんだか胸がざわついた。

 するとドンとトレーにサラダが置かれた。


「え!?」


 思わず目を剥いてサラダを乗せた人物を見ると、そこにはクレメンスがトレーを片手に立っている。


「え、ちょっと何よ、いらないわよ」

「野菜も食べなきゃ駄目だよ、リジー」

「いやだから」

「魚より肉が好きだったね」


 続いて白身魚のムニエルと仔牛の煮込み料理のうち、肉料理が乗せられる。


「パンにはバターよりジャム」

「おいってば」


 籠の中からパンを乗せられ、更にベリーを合えたジャムをトッピングされる。


「スープは?」

「だからいらないって!あ、玉ねぎは嫌!ポタージュスープ!ポタージュスープで!」


 慌てて選ぶと、クルトンが大盛りで入れられた。

 確かに好きではあるが、そんなにはいらないと思うリーゼロッテだ。

ようやくカウンターから離れられたと思い、ティモシーの元へ行こうとすると。


「今日はこっち」


 クレメンスに右腕を引っ張られ、壁際の目立たない場所へと座らされた。


「もう!一体なんなのよ。ていうか先約があるんじゃなかったの」


 ふてくされたリーゼロッテがブスくれながら席に座ると、クレメンスも向かいへと腰を下ろした。

 ちなみにクレメンスは白身魚を選んでいる。


「最近、殿下の前で小食を装ってあまり食べてないだろ。リジーはもともと食べるの好きなんだから、しっかり食べなよ」

「太るじゃん!」


 それに淑女は小食な方がモテるはずだとリーゼロッテが主張するも、クレメンスは涼しい顔でパンを千切った。


「リジーは痩せすぎだよ。もう少し太る方が健康的だ」


 その言葉にムッとする。

 確かにリーゼロッテは同年代に比べたら、あまり発育のいい方ではない。

 だからと言ってわざわざ口に出さなくてもと思い、フォークを肉に刺し落とした。


「男はグラマラスが好きだもんね。どうせ胸ないよ」


 大きく切った肉をやけ食いとばかりにひと切れ口に入れる。

 しかし。


「そんなことは……というか、胸の話なんてこんな所で駄目だよ」


 視線をリーゼロッテから少し外したクレメンスが、うっすらと頬を赤くさせた。

 それを見て、おやおやと思う。

 そういえば、現在自分を含めて多感な年ごろだ。

 普段の無表情からは想像つかない年相応に照れた顔に、リーゼロッテは少し留飲が下がった。


(かわいい所あるなあ。こういうとき、実際は年下なんだって実感するな)


 珍しいものが見れたのだし、まあいいかとリーゼロッテは久しぶりに自分の胃袋を満腹にした。

 結局今日はティモシーとの接触を諦めてクレメンスと食堂前で別れると、久しぶりの満腹感にリーゼロッテはお腹をさすりながら教室へと戻ろうと足を向けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る