第15話 猫の習性②

 「というかゴブリンって何処にいるんだ? この前の薬草をとった辺りにはいなかったよな?」

 「町の近くにはいないはずだよ。話に聞くのは山に近くなれば出るって聞いたけど……」

 「山か。あの見える所か? 結構遠いな」


 山に向かうにはいくつかのルートがあるようで、俺は前日に野盗のようなものたちがいた道から一番離れたルートで山を目指す。

 途中でヒナが木の棒を拾ってそれをブンブンと振り回して遊びながら、三人で仲良く散歩をしているような状態だ。

 ヒナからすれば、拾った棒で戦いに参加しようと言うつもりなのかもしれない。


 「あ、またカイフー草」


 ルーナが目ざとくカイフー草を見つけて採集する。


 「常時依頼で薬草採集はあったはずだから、それもこなせて一石二鳥だな」

 「いっせきにちょー」


 恐らく意味が解っていないだろうヒナが復唱して楽しんでいる。

 結構な距離を歩いているが、ヒナは泣き言を言うこともなくしっかりとした足取りで疲れた様子でもない。


 俺は自分がヒナと同じくらいの年齢の時にどのくらい体力があったかなど覚えていないので、普通なのかそうでないのかはわからないが、1時間近く歩いていることを考えると種族特性もやはりあるのかもしれないなと考える。

 

 山に近くなるにつれて木々が生い茂り、草の背丈も伸びたものが多くなってきた。

 相変わらず棒を振っているヒナは、道の沸きに生い茂り始めた自分の背丈よりも高い草を棒で払ったりしている。


 「あ、へびでちゃ!」


 ガサガサと草を払っていたヒナが声をあげると、タタタっと茂みに入る。

 俺は咄嗟のことで何もできず、すぐにヒナを追いかけた。

 ヒナは茂みに入ってすぐの所でしゃがんでいて、怪我でもしたのかと俺が近づくと……、


 「にいに、へびつかまえちゃ!」


 と言って獲物を持って見せてきた。

 俺はそう言えば日本で猫を飼っている友人がゴキを捕まえて、主人である自分に見せに来ることがあると言うのを聞いた事があったなと当時のことを思い出していた。

 猫獣人だから猫に習性が似ているのかな?

 

 「す、凄いな。怖くないのか?」

 「こわくないよ! たのち~」

 「そ、そうか」

 「この子はいつもこんな感じなのよ。お母さんも困ってるのよね」

 「そ、そうなんだ」


 俺はゴキをナンナ家で見たことはないが、まさかいた場合はそれも取って見せに来たりはしないよな? と考えると恐ろしくなった。


 「ルーナ、そう言えばこの辺にゴキブリっているの?」

 「ゴキブリ?」

 「家の中に黒くてカサカサ動く虫とかでない?」

 「うーん、見たことがないかも?」


 セーフ。

 俺は胸をそっと撫で下ろす。

 この世界にいないとは言えないが、少なくともナンナ家にゴキブリはいないだろう。

 俺は日本にいる頃から多少のことでは動じる性格ではなかったが、ブラック○ップを作り出した人にはノーベル賞をあげたいくらいにゴキブリだけは怖かった。

 棒を左手に、右手に蛇を装備したヒナは俺たちと一緒にまた歩き出す。


 ギャギャ!


 山の麓に到着した俺たちは、少し離れた場所で5体のゴブリンが何かを囲んで棒で叩いているのを発見する。


 俺は目線と仕草で静かにするようにルーナとヒナに合図を送ると、少しだけ二人より前に出て魔法を唱えた。


 「ロックブレット!」


 「ウォーターカッター!」


 声でゴブリンがこちらに気が付くがもう遅い。

 ゴブリンたちは避ける間もなく貫かれたり体が切り裂かれたりして息絶えていき、それを5回繰り返す。


 「ふぅ」

 

 モンスターを倒すのは初めてであったので、俺は少しだけ緊張をしていたのか息を吐く。


 「キョウジ、アンタやるじゃない!」

 「にいにすごい! あれがばくちゃん?」

 「ハハハ、爆散はしなかったな」


 俺はそういうと、倒したゴブリンの所へと向かった。


 「そう言えば……、ルーナ。ゴブリンって魔石とか持ってるの?」

 「うーん? あるのかも?」


 俺は魔石がゴブリンの体内にあるなら取り出すのが汚いなと思いながら、ゴブリンに近づくとゴブリンが囲んでいたものの正体が判明する。


 「なんだこれ。狼? 狼というよりも、トラか……ライオンのメスのようにも見えるが……小さいな。マルヌネコにも似ているが顔芸でもするのだろうか? まあただ一番わかりやすくイメージするならトラだな」


 蛇は掴んだままで棒をボイッと捨てたヒナがその良く分からない動物? 魔物? に近づく。

 その子トラは呼吸をしているようではあるが、既に虫の息のようだ。


 「にいに、たすけてあげて!」


 助けて助けてと俺に懇願するヒナを見て、俺はポイントを使って回復魔法を習得した。

 その後、子トラに近づいてしゃがみ込み魔法を唱える。


 「ヒール」

 「ヒール!」


 一度では回復をしなかったために、俺は二度目は多めに魔力を込めてヒールを唱えた。

 すると助けた子トラの傷は治り、目を覚ましヒナと目を合わせる。


 「よかったね。こえたべゆ?」


 ヒナは捕まえていた蛇を子トラの前にポイッと放り投げると、その蛇がヒナに噛みつこうとした瞬間に子トラに噛みつかれ……最終的に子トラの腹の中へと入るのだった。


 「うーん? 大丈夫そうか? 危険そうならその子トラも処分しないといけないぞ」


 俺がそういうと、ヒナが子トラを守るように立ちはだかる。

 子トラはシッポを丸めていて言葉を理解しているかのようでもあった。


 「にいに、このこをいじめちゃだみぇ!」

 「危険な生き物じゃなければ何もしないが……。ルーナはどう思う?」

 「こっちに敵意も見せていないし、大丈夫そうだけど」


 俺はそれを聞いて、それならほっといても良いかと倒したゴブリンの右耳をナイフで剥ぎ取り始めた。


 「あ、私もする!」


 ルーナがそういうので、買っておいたナイフをルーナに渡し二人で5体のゴブリンの耳を手に入れたのだった。


 その後に俺はゴブリンの心臓あたりをナイフでえぐり、小さな魔石を発見すると5体全てからそれを行い魔石を回収したのだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る