第438話 厨房 上
「お嬢様。お城の料理人の方が面会したいそうです」
力尽きたコノメノウ様に毛布をかけてあげていると、ナディアがやってきた。
「料理人? なにかしら?」
「お菓子の作り方を教えて欲しいそうです」
お菓子の作り方? またなんで? ゴズメ王国にもお菓子の作り方くらいあるでしょうに。と言うか、このお城の者、簡単にわたしに会いにきすぎじゃない? わたし、お客としてきてるんだけど。
「わかったわ。通してちょうだい」
面会室と成りはてた客間に向かい、料理人を待った。
やってきたのは三人。身なりからして身分のある料理人っぽいわね。
「挨拶は結構。お菓子料理を覚えたいそうね。またどうしてかしら?」
もうわたしのことはわかっているでしょうし、名前なら後々知ればいいんだからね。
「要望がありまして」
代表格の男性が口を開いた。
「王妃様?」
「……はい。そうです……」
違うわね。代表格の男性は不満そうだし。これは、お菓子大好き妖精と見た。
「あなたも大変ね。逆らえない方からの命令を聞かなくてはいけないのだから」
同情しかないわ。逆らえないばかりか他国の小娘から料理を教えてもらわなくちゃならないんだから。
「と言うことは、わたしも逆らえないということか。お互い、損な立場よね」
タルル様からの無言の命令だ。魔力をいただいている者としては断れないでしょうよ。
「思うことはあるでしょうけど、お互い、断れない身。やるべきことをやって命令を完遂するとしましましょうか」
「はい。よろしくお願い致します」
「ここの厨房は狭いからそちらの厨房で行いましょう。材料も少ないですからね。よろしいかしら?」
他にあるならそれでも構わないけど。
「畏まりました。すぐに用意致します」
「ありがとう。ナディア。ガイルに伝えてちょうだい。まずはお城の厨房を見学させてもらって、持っていくものを決めるわ」
お城の厨房なんて滅多に入れないところ。チャンスと思って見せてもらうとしましょうか。
「そちらのお菓子を作る者はいますか?」
「はい。こちらのライルクが菓子長です」
細身の男性が一本前に出てお辞儀をした。
「ライルク。あなたはここの厨房でお菓子を学びなさい。お菓子作りの道具が揃っているから必要と思えるものがあるなら譲りますから。遠慮なく言ってください」
席を立ち、厨房にいく支度を始めた。
まずは身を綺麗にし、髪を上げて脱着しやすいベールを被った。途中、高貴な方に会うかもしれないからね。
用意が整えばガイルとその補佐をする調理メイド二人、ランで向かう。護衛は残していくわ。お城なら兵士や騎士がいるからね。
お城の厨房は一階にあり、第一厨房、第二厨房と分かれており、お城で働く者の食事を提供する厨房がお城の外にもあるとか。何百人と働くお城は厨房だけで場所を取るものなのね。
王家の食事を作る第一厨房は四つに分かれており、料理長が作る一角を使わせてもらうことになった。
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