第83話 マランダ村

 三寒四温って言ったかしら、寒い日と暖かい日が交互にやってくるの? 去年は王都にいたから季節の移り変わりもわからなかった。一日中屋敷の中で過ごすなんて当たり前だった。やはり人は自然に触れないと感覚が鈍るわよね。


 ナジェスがきて半月。ローも跨がれるまで育ち、今日、鞍をつけてナジェスが跨がった。


「ロー。大丈夫か?」


「クワー!」


 ナジェスの呼びかけに大丈夫だとばかりに鳴くロー。体だけじゃなく知能も成長しているみたいね。


 ……わたし、強制的に進化させたりしてる……?


 まあ、この知能が次の世代に受け継がれるかわからないんだから考えても仕方がないわ。賢い個体で流しておきましょう。


 しばらくは近場を乗るだけにして、慣れてきたら遠出の計画を立てることにした。


「……もう二十日も過ぎてたんですね……」


 どこに遠出しようかと話し合っていたら、ナジェスがため息を吐くように呟いた。


 もうそんなに過ぎていたのね。わたしもいろいろやることがあったから一緒にいられる時間は少なかったのよ。


 それでも一緒に寝てあげたりおしゃべりしたり、たまには二人でお風呂に入ったりもしたわ。


「まだ時間はあるのだら悲しんでいる暇はないわよ。どこにいくか決めましょう」


 春からは学園に入るための勉強が始まり、館に泊まりにこれなくなる。楽しめるのは今しかないんだから一生の思い出を作ってあげたいわ。


 こうしてどこかにいくかを決めるのも思い出の一つになる。悲しんでいたらもったいないわ。


 いくつか候補が上がり、最終的に一泊二日でマランダ村にいくことにした。


 マランダはカルディム領の村で、宿場町的なところだ。王都からきたときはそこに一泊するので村長の家にわたしたちが泊まれる部屋もある。ナジェスも泊まったこともあるのでそこに決めたのだ。


 兵士に先触れとして向かってもらい、次の日に出発することにした。


「わしもいく」


 出発の準備をしていたらコノメノウ様が現れてそんなことを口にした。


「……そう、ですか。わかりました。用意をしますね」


 ダメとは言えない相手。無駄な抵抗はせず、馬車を用意するよう指示を出した。


 コノメノウ様はわがままも言わないし、手間がかかるわけでもない。お酒を多めに持っていけば大丈夫でしょう。


 一泊二日なので荷物はそう多くはない。馬車一台に積めれるていどなので、その日には準備は整い、朝早くに館を出発した。


 遠出にいくのはわたし、ナジェス、マーグ兄様、護衛騎士四人、ランとマーナ、そして、コノメノウ様だ。


 盗賊から見たら無防備にも等しい数だけど、この国はヒャッハー! な国ではない。領主も見て見ぬ振りはしない。いたら兵士や冒険者を雇って素早く殲滅するわ。無能のレッテルを貼られたら領地没収もありえる。


 派閥争いやらなんやらあるけど、この国は平和なのよ。ただ、野生の獣が多いことは失念していた。


 そんなのがいるから冒険者家業が成り立っているのよね。


「赤猪です!」


 わたしたちの前に現れたのは文字通り赤い猪。めっちゃファンタジーな生き物だった。


 すぐにカエラが前に出て剣を抜くと、なんかブラッディーなスクライドっぽい技を放った。マジか!?


 戦いとは無縁だったので、剣の戦いなんて打ち合いをするのかと思ったらアバンなシュラシュッシュな世界でした! 乙女ゲーじゃなくRPGだったの?!


 頭を砕かれた赤猪。わたしたちの前に現れなければまだ生きられたのにね。


「赤猪って食べれるの?」


「はい。わたしは食べたことはありませんが、美味しいと言われております」


 美味しいのか。なら、回収しましょうか。ホイっとな。


 収納の指輪の中に赤猪を入れた。潤沢な魔力を使ってアイテムボックス化させたのですよ。


「帰ったらガイルに解体してもらいましょう」


 赤猪が出てきたこと以外、これと言ったイベントはなし。のんびりゆったりお昼を挟んで三時くらいにマランダ村に到着できた。


 マランダ村にこれと言った変化はない。と言うか、変化がわかるほどマランダ村のことを知ってはいないわね。村長のところに泊まるだけだったし。


「冒険者が多いですね」


 なにか武装した人が多いな~と思っていたら冒険者か。ポカンダ村の冒険者たち、あの貧弱な装備でよく冒険者なんてやっているわね。そんなに儲けてないのかしら?


「聞いてきますか?」


「いいわ。なにかあれば村長が知っているでしょうからね」


 緊迫した様子はない。なら、そう切羽詰まった状況ではないはず。村長から聞いても問題ないわ。


 マランダ村は宿場的な村なのでそこそこ大きく、商店街っぽいところもある。明日帰る前になにかお土産でも買っていきましょうかね。


 村長の家に到着すると、村長の家族や有権者的な人たちが集まっていた。大歓迎だこと。


 まあ、領主の娘と領主代理の息子がきたんだから歓迎しないわけにはいかないか。ごめんなさいね、領地の大物がお邪魔しちゃって。


「ようこそお出でくださいました。チェレミー様、ナジェス様」


「急な訪問でごめんなさいね。一晩よろしくお願いするわ」


「はい。運よく赤猪がたくさん出て肉を仕入れられました。今日は赤猪の丸焼きをお出しできそうです」


 あー、それで冒険者がたくさんいたのね。


「それは楽しみだわ。帝国のお酒を持ってきたから村長たちにも振る舞うわね」


 せっかくだし、村の人たちにも振る舞ってあげましょう。収納の指輪の中に樽一つ入れてあるしね。


「村長。申し訳ないけど、お父様たちが使う部屋を急いで用意してちょうだい。重要なお客様を預かっているの。叔父様の許可を得ているから大丈夫よ」


 事後承諾になるけど、コノメノウ様をそこら辺の部屋に泊まらせるほうが問題になる。外では重要人物として対応しないとカルディム家の責任になっちゃうのよ。


「はい。すぐに用意致します」


 さすが村長。わたしの言葉に察し、なにも言わずうけいれてくれたわ。


「マーグ兄様とナジェスはレオたちの世話をお願いね。わたしは婦人たちに挨拶するから」


 令嬢として奥様方との交流もしなくちゃならないのよ。ハァーめんど。


 なんてことを顔には出さず、奥様方に挨拶をした。

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