第81話 トレードマーク
前から思っていたけど、ナジェスはバランス型よね。
運動も勉強もほどよくできて、性格も激しくもなく静かでもない。同年代との付き合いがなく、大人の中で生活しているから大人しくはある。
お兄様やマーグ兄様もどちらかと言えば穏やかなタイプだ。これってカルディム家の血なのかしらね?
まあ、将来はお兄様を補佐する立場だ。このくらいの性格がちょうどいいんでしょうね。
叔父様としてはもうちょっと自己主張して欲しいみたいだけど、主張しすぎて別の道にいきたいと言われても困る。その性格を大事にして領主代理になって欲しいわ。
レアナと同じくナジェスも朝はウォーキングに付き合ってくれ、レオに跨がって騎乗を練習している。
手綱はマーグ兄様が持ってくれているのでナジェスは安心して乗っていられている。
「モルチャカの成長って本当に早いものよね」
孵化して三日。鶏くらいのサイズだったのに、今は中型犬くらいになっている。十日もしたら跨がれるくらいに成長するんだから不思議な生き物よ。
今はわたしが付与した知能向上の首輪をさせて調教させており、大人しくわたしたちのあとをついてきているわ。
「そう言えば、名前は決めたの?」
名前を呼んでいる場面に遭遇してなかったけど、さすがに名無しではないよね?
「ローって名づけました」
「随分とあっさりした名前ね?」
レオとラナもあっさりしているけどさ。
「長い名前は呼ぶとき面倒だからな。短くつける者は多いんだ」
へー。そういうものなんだ。
「あなた、ローって名前だったのね」
「クワー」
よろしくとばかりにわたしに頭を擦りつけてきた。
山へ向かって歩いていると、馬の嘶きが聞こえた。なに?
「マリアナたちが乗馬訓練をしているのです」
そう言えば護衛騎士たちって、自分の愛馬に乗ってやってきたんだったわね。最近、厩舎にいってないし、レオたちを連れてくるのはマーグ兄様だからすっかり忘れていたわ。
「ルーアたち、訓練足りている? もし、足りてないのなら護衛を増やすわよ」
いつも二人は護衛として側にいてくれてる。その間、訓練はできないのだから三交代にしたほうがいいのかしら?
「いえ、このままでお願いします」
「遠慮しなくてもいいのよ。大変なら改善すればいいのだからね」
おそらく女性騎士は余っているはず。あと二人なら集められるはずだわ。
「大丈夫です。わたしたち四人でお嬢様をお守り致します」
なにやら強い意志を感じるのでそれ以上は言わないでおくことにした。別に敵と戦っているわけじゃないんだし、四人でいいと言うならしばらくこのままでやっていきましょう。
「ルーアたちは遠出したりするの?」
「はい。見習い時は三日駆けと言うものがあって、足腰立たなくなるまで乗らされました」
「なかなか凄まじいことしているのね」
女性でもするって、わたしが考える以上に騎士って大変なのね。貴族に生まれてよかった。
「わたしも騎乗に慣れていたほうがいいわね」
最近忙しくてレオたちに乗れてない。ナジェスが乗れるようになったらウォーキングから乗馬(乗鳥か?)しないとね。
そんなことを考えていたら山の中腹までやってこれた。
館のウラにある山は二百メートルもないので、三十分もあれば中腹までこれる。ここに四阿を作って一休みポイントにしましょうか。
十分くらい休んだら山を降りた。
館まできたらラーダニア様が泥だらけになって佇んでいた。なにがあったのよ?
「ココノカを集めるのに夢中になって崖から落ちてしまいました」
ドジっ子か! と言うか崖から落ちて怪我はないの?
「だ、大丈夫なの?」
「よく落ちるので慣れっこです」
見た目はエロフ。中身はドジっ子とかギャップありすぎよ。
「マーグ兄様とナジェスは一般用のお風呂に入ってください。ラーダニア様。わたしのお風呂に入りましょうか。別館のお風呂では他のメイドたちに迷惑をかけますからね」
館のお風呂のほうが湯量がある。丸洗いするには適しているわ。
「アマリア。手伝ってちょうだい」
ラーダニア様の腕をつかみ、お風呂場に向かった。
わたしが服を脱がせたいところだけど、わたしがやったらラーダニア様が恐縮してしまう。アマリアに任せてラーダニア様の肢体を眺めることにした。
「汚してしまい申し訳ありません」
「お気になさらず。掃除しやすいよう付与魔法を施してますから」
洗いやすくカビ難くしてある。わたしの付与に死角はないのよ。
服の下まで泥が入り込んでいるけど、その綺麗な体は輝きを放っている。
──おっぱい、デカッ!
服の上からでもわかっていたけど、生で見るとより大きく見える。よくその細い体に凶悪なものを装備できてるわよね。ちょっと殴られてみたいわ。
「アマリア。わたしはいいからラーダニア様を洗ってあげなさい」
わたしは指定席で眺めさせてもらうから。
「畏まりました。ラーダニア様。そこに座ってください」
「ラーダニア様。アマリアに任せて楽にしててください」
桶で湯を掬い、体を洗い流したら湯船に入る。うん。いい角度だわ。
「だ、誰かに洗われるというのは恥ずかしいものですね」
「慣れれば気にもなりませんよ」
わたしは幼少の頃に無の境地に至ったわ。
「ラーダニア様は旅をしているのに肌が綺麗なのですね。怪我とかしないのですか?」
崖からよく落ちる割りに傷が一つもない。回復薬で治しているのかしら?
ふっしぎー! と言った感じでラーダニア様の体をマジマジと見た。ピンクが眩しいわ。
「わたしは治癒力が他の者より高いので傷がすぐ治ってしまうんです」
それはよかった。この体に傷は似合わないしね。
「……気持ち悪くありませんか……?」
「とても綺麗だと思いますよ」
ナメ回したいほどにね。
「逆に、わたしの火傷は気持ち悪くありませんか?」
「あ、いえ、こんなことを言って失礼かもしれませんが、チェレミー様に似合っていると思います」
思わず微笑んでしまった。だって、火傷がよく映えるよう考えに考えたんだからね。
「これはわたしの罰であり証でもあります。似合っているなら嬉しいですわ」
もはやわたしのトレードマーク。火傷あってこそのわたしだもの。
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