第33話 ひょっとして知らない?
鉄の生産系以外にも、工業、モノ作り系のジョブはある。
モノ作り系はまず『クラフター(工作者)』を育て、ジョブを開放していかなければならない。
現在開放されているのは……
木工、石工、焼き物師、革細工師、綿糸工など。
で、TOLのシステム上こういうところは集中より『バランス』が評価されたんだよな。
つまり領民たちをひとつのジョブにばかり集中させると産業値もレベルも上がりにくいのだ。
武器とかにはそりゃ鉄がもっと欲しいのだけれど、あわてて
そりゃあ領地を回していくには木も石も陶器も革製品も必要だから納得感はあるかもしれんね。
「アルト。それなあに?」
さて、俺が庭で“それ”を放っていると、リリアがふんどしのお尻をぷりっとさせて
「ああ。これは『ボール』と言ってな。ちょっとした遊びさ」
そう。
革細工師に頼んで、モンスターの革から
ゲーム内では無かったアイテムだけど、こういのを作ってくれと頼んだら普通に作ってもらえたのだ。
「どうやって使うのかしら?」
「こうやって投げたり、蹴ったりすんだよ。ほら」
そう言ってボールを投げる。
リリアは運動神経のよい少女なので、みごとこれをキャッチした。
「でもアルトみたいに投げられないわ」
「すぐに慣れるよ」
「おーい。兄ちゃんたち、何してんの?」
すると、ヨルとラムが庭に出て来た。
「ちょうどいい。お前らも混ざれ」
そう言いながら、俺は前世の知識を元に地面へコートを描いた。
簡単なドッヂボールのコートである。
「アルト―、アタシもいれてー!」
するとノンナも家から出て来た。
まだ人数が足りないな。
そう思っていると、さらに村の子らが5人ばかりやってきたので良い具合になる。
「やったー! 当てた!」
「それダメだぞ。顔面セーフだ」
などとルールを教えながらやるとなんだか学校の先生にでもなったような気分だ。
まあ、この人生では俺もまだ16歳なんだけどな。
「なにしてるのー?」
「僕らもいれてよー」
しばらくすると遊んでいる声を聞きつけてかまた人が集まってきた。
しまいにはおふくろまで家から出て来るシマツ。
「よせよ。年甲斐もねえぞ」
「いいじゃないかい。あたしだってまだまだ女ざかりさ」
などと言って腕まくりをするおふくろ。
まあ、いいか。
オヤジが死んでふさぎ込んでいた頃を思えばよっぽどマシだ。
人数が増えてくると今度はキックベースにしてみたりと工夫していると、やがて陽が暮れてボールも見えなくなってくる。
「今日はここまで」
「「「えー!」」」
みんな「もっとやりたい」と主張するがなだめて家へ帰す。
子供らはワイワイ騒ぎながらも家路へ着いた。
……なんだかなつかしいな。
前世で日本のガキだった頃。
近所の子らと空き地裏でなんとなく始めたケイドロがめちゃくちゃ楽しくなって、帰りたくない、この時が永遠に続けばいいとか思った記憶がある。
あの時のみずみずしい心は転生者にはない。
だから、村の子たちの“この世界への夢中さ”が切実にうらやましく思われたりもする。
「アルト。一緒にお風呂入ろ。洗ってあげるから」
「ずるいわノンナ。今日はアタシと入るんだから!」
でも、俺は嫁たちを愛しているし、十代の若い女の裸体は好きなので、そんなセンチメンタルもすぐに忘れて風呂は三人で入った。
ちなみに。
ボールを作ってみたのは単なる遊びではなく、ちょっとした実験のつもりだった。
ゲームTOLの世界では各ジョブに出せる命令は限られている。
領民に作らせるアイテムは選択肢があるし、当然ながら「ボールを作れ」などという命令はできない。
でも、実際には革細工師にボールを作らせることもできたし、ゲームの世界に存在しないはずのドッヂボールやキックベースも教えればやらせられる。
この世界のどこからどこまでがTOLに即していて、どこからゲームの枠を超えられるのか。
そのラインを見極めてゆくのが、のちのちの助けになるような気がしていたんだ。
◇
ところで忍者のリッキーに王都の様子を見て来るように言ったが、自分でも“事情通”に話を聞いてみようと思った。
「なんかー、まぢでヤバイみたい」
とステラが裸の背中にポニーテールをほどきながら言う。
「ヤバイじゃわかんねーだろ。なにがあったんだ?」
「詳しいことはわかんないんだけどぉー、パパが『王都へは行っちゃダメ』って言うんだもん。新しい剣を買ってくれるって言ってたのにィー」
あの親バカのライオネ領主がそんなことを言っていたのか?
こうなってくるとさらにナディアが心配になってくる。
ナイトの彼女を俺なんかが心配するのもおかしいかもしれないけど……
リッキーの報告を待つ前に王都へ行ってみるか。
「でもぉー、アルトっちは今それどころじゃなくない?」
「なんだよそれ」
女の肩を抱き寄せながら答えると、ステラはぱっちりとした目を見開いて言った。
「ひょっとして、知らない?」
「だから、何がだよ」
「南のベネ領のことじゃん。アイツらまぢ無いから!」
南のベネ領は海に面した中堅領である。
塩の生産が盛んであり、うちの領地の塩はベネ領にほぼ100%依存していた。
「その塩をオニ値上げするってハナシ。10倍だって、パパが言ってた」
「マジか!?」
確かにそれはヤバイかもしれん。
武田信玄の例を引くまでもなく、塩が買えなくなるのは内陸の領地にとって本当にツライことなのだ。
「アルトっち……だいじょうぶ?」
「あっ、悪い。こんなことはまた後で考えることにするよ」
俺はそう言って若い女の白パンティ一枚のお尻をやさしくなで始めた。
「もう、さわり方エロぉー♡」
「エロい尻だからな」
「あはははー」
笑う女の髪へ
「あ……」
月明かりのみの部屋で、いつもはギャルのような娘の声に無垢と清純の属性が帯びた……
――三時間後。
「じゃあ、また来るから」
「アルトっち……ごめんね」
いつものようにライオネ領主の館をベランダから飛び降りようとすると、なぜだかステラはひどく落ち込んでいた。
「どうした? また来るって言ってるだろ?」
「んーん。そーぢゃないの。よく考えたらベネ領のこと、ウチのパパのせいかもしれないなァって思ったの」
なるほど、それはそうかもしれないな。
「私のこと……嫌いになんないでね」
「バカだなあ。そんなこと考えてたのかよ」
「だって……」
俺は「やれやれ」とため息をつくと、別れのキスを入念にして女を慰めてやるのだった。
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