第15話 あなたがいない日々なんて~SIDEユリウス&アルベルト~

 アルベルトは隣国コーデリア国へ密偵を送り、引き続き情勢の調査をおこなっていた。


「ユリエ様が?!」

「はい、この国にいます」

「まさか誘拐か?」

「可能性はあります。しかし……」


 状況を報告する密偵は口ごもって慎重に報告を続ける。


「どうやら第一王子のもとにいるようで」

「第一王子というと、レオ・シェベスタか」

「はい」

「なぜその方のところに……」

「少し様子を探ってみます」

「ああ、頼んだ」


 アルベルトは早馬でユリウスに「ユリエが隣国にいること」と「誘拐された可能性がある」ことを伝えた。


「無事でいてください、ユリエ様……」




◇◆◇




 クリシュト国では聖女様──ユリエがいなくなったことによって王宮内は大騒ぎとなっていた。


「アルベルトっ! ユリエは?!」

「話しますから落ち着いてください」

「あ、ああ……」


 ソファに浅く腰をかけてアルベルトに言われたように、落ち着かせようとする。

 目を一度閉じてゆっくりと呼吸したあと、目を開いてもう一度アルベルトを見た。


「報告を頼む」

「かしこまりました」


 アルベルトは何度かに分けて密偵に調査させた様子をユリウスに報告した。


「早馬で伝えた通り、ユリエ様がコーデリア国にいるのは確かです」

「誘拐されたのか?」

「イレナからの報告と突き合わせてもやはり誘拐されたのだと」


 その言葉にユリウスは、怒りを押し殺して状況報告を聞こうと耳を傾ける。


「しかし、なぜかユリエ様に逃げる素振りがないため、なにかしら意図があるものと思われます」

「逃げる素振りがない?」

「はい、第一王子とも何かに怖がるような様子ではなく普通に話しております」

「…………」


 ユリウスは口元に手をやって少し考えると、何かに気づいたように語り出した。


「もしかして聖女召喚について調べている? あるいは帰還方法について探している?」

「ユリエ様なら可能性は十分にあります」

「その可能性が高いな」


 報告を全て終えたアルベルトはユリウスに礼をしたあと、再び仕事へと戻った。

 その場に残されたユリウスは目を閉じてソファでうなだれる。


(調査をしているかもしれないが……それでも心配すぎる)


 一人で抱え込む癖のあるユリエの心配をして、ユリウスは国王に隣国に兵を送る要請をしに執務室へ向かった。




「ならん」

「なぜですっ?!」

「ユリエが誘拐された可能性があるとしても証拠は現時点ではない。それで兵は動かせない」

「く……っ!」


 証拠がない以上不用意に隣国に兵を送ったり、交渉ができないことを告げられると、ユリウスは歯がゆい気持ちで拳を握り締める。


(すぐに助けにいけないなんて……)


 ユリウスはその足で裏庭にある『聖樹サクラ』の木のもとへと向かった──




 聖樹に手をあてて目をつぶり、ユリエとの言葉を思い出す。



『その、恥ずかしいのですが、ホームシックになっていたようでして』


『私は帰れるのだろうか、って』



(あなたはまた寂しい思いをしているのではありませんか?)


 ユリウスはユリエの悲しい顔、そして笑顔を思い出す。

 そして心の中で誓う。



(もう二度とあなたを悲しませない。もう二度と帰れないと寂しい思いをさせない)


 ユリウスは聖樹に誓ってそして背を向けて歩き出した。


(必ず無事にあなたをクリシュト国へと連れて帰る策を練ります。だから無事でいてください)







******************************




【ちょっと一言コーナー】

更新遅くなってしまい、申し訳ございませんでした。

アルベルト、そしてユリウス視点のお話を書かせていただきました。



【次回予告】

聖女召喚、そして現代への帰還方法を見つけて無事に帰ることを誓ったユリエ。

しかし、コーデリア国での聖女の扱いは予想外なもので……。

次回、『虐げられた聖女』。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る