第11話 本当の婚約

 何度儀式を試してみても私が再び現代に戻ることはなく、薄暗い部屋の中で私とユリウス様は立ち尽くした。


「やっぱり何度やっても戻れない」

「この方法では正しく帰れないということかもしれません」


 ユリウス様のその言葉に私は落ち込んで唇を噛みしめると、そっとユリウス様は私を抱き寄せた。


「ユリウス様っ!?」

「もう一度、もう一度私にチャンスを下さい。必ずあなたの帰る方法を探して見せます」


 そんな切なそうな声で言わないでください。

 あなたのせいなんかじゃない……。


「それと、一つ聞いてもいいですか?」

「──? はい」


 ユリウス様は私の身体をそっと離すと、目を逸らして顔を赤くしながら言う。


「帰る前に言った言葉は本当ですか?」

「帰るま…え……──っ!」


 私はその言葉で自分がユリウス様に盛大に大きな声で告白したことを思い出した。


「あ、あ、その……えっと……」

「ユリエ」

「はっ、はいっ!!」

「私があなたを好きなことは本当です。そしてあなたの気持ちも嬉しかった。ありがとう」


 私も嬉しかったです、あなたと思いが通じ合えて嬉しかった、と素直に言えばいいのに恥ずかしくて言葉がうまく出ない。


「ユリエ、これからもあなたを好きになっていいですか?」

「はい、よ、よろしくお願いします」


 私は頭を下げながら照れてお願い受け入れるのがやっとだった。



 すると、そんな中に王の側近の方が部屋を開けて、ユリウス様に声をかけた。


「ユリウス様」

「な、なんだ」


 私もそうだったが、ユリウス様も突然の訪問者に驚きちょっと困惑している。


「やはり王宮魔術師のオレクは隣国のコーデリア国のスパイでした」

「──っ!」


 隣国のスパイってそんな……じゃあ仕組まれてたってこと?


「また、すでにオレクは牢屋を何者かの手引きで脱出しており、先ほど見たときにはもぬけの殻でした」

「そうか、アルベルトがまだ近くにいるはずだ。急ぎ連絡を取って隣国の様子を探って来るようにと伝えてほしい」

「かしこまりました」


 側近の方は部屋の外へと駆けていくとユリウス様は一瞬考える仕草をした後、私に声をかける。


「ユリエ、私は今から王とこの事について話してきます。部屋までお送りしますので、また後日お話しましょう」

「私は大丈夫です。急いで王のところへ」

「……ありがとう。ではそうさせてもらいます」


 そう言ってユリウス様は部屋から出て行かれた。


 王妃様のことも仕組まれたことだった……。

 まだこの裏には何かあるのかもしれない。



 数日後、私はユリウス様伝いで王に呼び出されて謁見の間にいた。


「ユリウスから聞いていると思うが、我が国の王宮魔術師、今回の事件の首謀者だった一人は隣国のスパイであり、すでに出国したと見られる」

「父上、アルベルトの報告によりますと、現在コーデリア国は頻繁に他国への侵略をしており、領土を急速に広めております。また、王宮内の動きもかなり騒がしく、何か仕掛けてくる可能性があるかもしれません」

「ああ、私の妹が嫁いだことで最近は友好的になっていたが、何かあったのかもしれんな」

「アルベルトの部下が今王宮内に潜伏してより詳しく調べているところですので、わかり次第すぐに報告いたします」

「ああ、頼んだ」


 隣国の脅威がこの国に迫っている。

 私が聖女召喚されたことももしかして隣国が関係しているのかしら?


 そう深く考え込んでいたところ、王が突然私とユリウス様の名を呼んだ。


「ユリウス、それにユリエ」

「「はいっ!」」

「お前たち、婚約しないか?」


「「…………え?」」


 私だけじゃなくユリウス様も虚を突かれたようにちょっとへんぴな声が出る。


「父上、あの……確かに私には長らく婚約者がいませんでしたが、なぜ今……?」

「理由の一つはコーデリア国へのけん制。エリクがいなくなって王子がユリウスのみとなったこの状況で次期国王に婚約者がいないのはまずい」

「それはそうですが……」

「それに二人ともお互いのことがまんざらでもないそうじゃないか」

「──え?!」


 王はニヤニヤと笑いながら、頬杖をついて私たちを眺める。


 確かに、私ここまで皆さんによくされているのに何もできてないし、もし役に立てるのならいいのかもしれない。


「ですが、ユリエはいつか帰らなければならないお方です。その方を我が国の事情で縛ってしまうのは……」

「ユリウス様がよろしいのであれば、私は構いません」

「ユリエ?!」

「私もこの国のお役に立ちたいです。正直なところ、私は今現代に帰りたい気持ちとこの国に残りたい気持ちの両方あります。この国が私を必要としてくださるのであれば、いくらでもこの身、使ってくださいっ!」


 この国に残りたいのは本当で、ユリウス様への想いを自覚したことで益々迷っている自分がいて、もしかしたらそんなフラフラで曖昧な気持ちでいるのは迷惑かもしれない。

 でも、今できることがあるのならば、役に立ちたい。

 だから……!



「私はユリウス様との婚約をお願いしたく存じます」



 こうして私とユリウス様は結婚日未定の婚約者となった──




***



【ちょっと一言コーナー】

二人がお互いのことをまんざらでもないと報告したのは、じいじです(笑)

王もなんとな~く気づいていたようですが・・・


【次回予告】

ついに婚約することになったユリエとユリウス。

以前の約束通り、王宮から自由に出てお忍びデートをすることに!

次回、『お忍びデートは甘く切なく』

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