第9話 揺れる気持ちとお互いの想い

 私やユリウス様の集めた証拠や証言をもとに王命で王妃様とエリク様が断罪された数日後のこと。

 王妃様は国外に永久追放となり、そしてエリク様は辺境の地にて農業に従事するようにとのお達しが出たそう。


 一方、やっとの思いで窮屈な王宮での生活から自由を手に入れた私は、リアから交代になった新しいメイドのイレナに挨拶をする。


「これからユリエ様のお世話をさせていただきます、イレナと申します。よろしくお願いいたします」

「こちらこそよろしくお願いします」


 イレナは淡いピンクの髪をしていて、私からみたらメイドどころかお姫様のような見た目をしているな、と思った。

 可愛らしいその容姿と声に私はすでにメロメロになっていた。

 そして私は王宮内でもリーディアから『ユリエ』と呼ばれるようになった。


 メイドのイレナと談笑していると、ユリウス様が部屋に訪れ謁見の間で王が呼んでいるとのことだったので、二人で向かった。



 先日まで王妃様がよく座っていた玉座に、威厳のある格好とがたいの良さが目を惹く王が座っている。


「ユリエ、この度はそなたに大変迷惑をかけたこと、申し訳なかった」

「いえ、王もお体がよくなって良かったです」

「心配ありがとう。詫びではないが、これからもこの王宮にて変わらぬ暮らし、いやそれ以上の対偶をお約束しよう」

「そんなっ! 私は十分満足しておりますゆえ、お気になさらないでくださいませ」

「それと実はユリウスが魔術師を拷問にかけたところ、異世界に帰還する方法を吐いたそうなのだ」

「──っ! それは本当ですか?!」

「ああ、ユリウスが今準備をしているので、数日だけ待っていただけるか?」

「もちろんでございます。国王、そしてユリウス様、ありがとうございます」


 玉座に座る王と隣に控えるユリウス様に礼を言うと、なぜかユリウス様は少し悲しそうな表情で私を見つめた。




◇◆◇




 数日後、帰還儀式の準備が整い、私とユリウス様は地下室にいた。

 ここに来るまでに王やイレナなど、新しく関わってくれた人にも別れの挨拶をしてきた。

 半月ほどではあったけれど、本当によくしてもらった。


「ユリエ、この魔法陣の真ん中に立ってもらえるか?」

「はい」

「では、儀式を始める」


 ユリウス様は私が魔法陣に立ったのを確認すると、自らの手を短剣ですーっと切って、そこからぽたりと血が流れる。


「ユリウス様っ! 血がっ!」

「大丈夫です、少しの血で大丈夫ですから」


 ユリウス様の血がぽたりと魔法陣に落ちた瞬間、眩い光が現れて魔法陣は光り出し、そして私を包み込んだ。

 あ、もう帰るんだ。

 これが最後、ユリウス様と会えなくなる……。


 そう思っていると、ユリウス様が私に一歩近づいて声をかけてくる。


「ユリエ、今までありがとうございました。一緒にいれたこの一年、楽しさだけではないけれど、いい一年でした」

「ユリウス様……」


 私の目に少し涙がたまり始めて、それがいつの間にかぽたりと落ちた。


「最後だから言います。私はあなたが好きでした」

「──っ! 共に闘う相手としてだけでなく、女性としてあなたのことが好きでした」


 その言葉は私の感情を爆発させるのに十分で、私も叫ぶように伝える。

 ああ、もうユリウス様の声も遠くなってきた。早く。早く、伝えないと……!


「私もあなたのことが好きでしたっ! 私自身を見てくださったこと、優しくしてくださったこと、嬉しかったです!」

「ユリエ……!」


 ユリウス様は顔を歪めて私が白い光に包まれるのをじっと見つめていた──





 静かだ。


 目をゆっくり開くとそこは転移前にいた現代の神社があった。


「──っ!! 戻ってきた……」


 そうして一歩踏み出そうとしたところで、ふっと地面がぐにゃりと揺れ出し、黒い光に包まれる。


「え?」


 真っ暗闇に染まった空間に一瞬いたかと思うと、さっとその壁が取り払われてなんと目の前にはユリウス様がいた。


「あれ……?」

「ユリエ……?」


 二人は何が起こったのかわからず、そのまましばらく相手を見つめたまま立ち尽くす。

 そうしてよく見ると、もう魔法陣や白い光はなくなっており、じっとしばらく待ってみたがそれ以上なにも起こらない。



 その後何度試しても私が現代に戻ることはできなかった──



***


【ちょっと一言コーナー】

ユリウスの短剣は元王妃、彼の母親の形見なんだそうです。

文様が美しい剣です。


【次回予告】

ユリエが現代に帰還するときに告白したユリウス。

彼は一体どんな想いで言葉にしたのか。

ユリウスの気持ちが明らかになる……!

次回、『会いたいのに会えない~SIDEユリウス~』

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