第10話 ゴブリンは 無双してから 煽るもの


タヌヌ王国辺境領都 西の城壁 マラクス


 異世界の風景を楽しみながら空中飛行を楽しんでいたんだ。

 それで明かりを見つけて近寄っていったら攻撃されたでござる。

 火魔法ってやつだろうね。

 こう翼で全身を隠すようにしたら大したことがなかったよ。

 なんだったらちょっと吸収したみたいなんだよね。


 いったいゴブリン・ネメシスってどんな存在なんだろうか。

 異世界定番のステータスがあれば、すぐにわかったのかもしれないけどさ。

 生憎とファッキンなこの世界にはステータスがないらしい。


 なんでかって?

 試したからに決まってるでしょ!


 すぅとぅえいとぅあすかぁむぉんとポーズつけながら言ったんだよ!

 

 どえらい恥をかいてしまったぜ。

 

「げぇ! 無傷だとっ!」


 下品な声が聞こえた。

 どうやら城壁に立っている二人が大将だと判断して二人の近くへと行く。

 その間にも魔法が飛んでくるが、オレには関係ない。

 蚊でも飛んでいるような鬱陶しさはあるけどね。


「おい、アンタらが大将でいいんだよな?」


「その問いに答える前に教えて欲しいことがある」


 狼の獣人がこちらに声をかけてきた。


「言葉を話せるゴブリンなんだよな?」


 こっちが答える前に質問をしてきやがった。

 どんだけせっかちなんだよ。

 器の大きなオレは怒らないけどね。


「そうだけど、それがなにか? それよりこっちの質問にも答えろよ、アンタらが大将なんだよな?」


 狼の獣人が舌打ちをして、”マジかよ”と吐き捨てた。

 それを見て金属鎧に身を包んだ熊獣人がオレを見る。

 

「我はタヌヌ王国辺境領騎士団団長グピーオ・ホーリボである。こちらはギルド長のウベルト・ピソ殿だ」


「オレはマラキザ氏族のマラクスってもんだ。で、さっきから攻撃してきてるけどヤんのか?」


「おう! オレが相手してやるよ!」


 狼の獣人……ウベルトだったかが吠えた。

 胸とか重要なところだけの動きやすそうな革の鎧に、でかい剣を背負っている。

 その剣を抜いて、ゆっくりと構えた。


「じゃあ下に降りろよ、そこで待っててやるから」


 城壁の外に降りて、哀愁が漂ってそうなリーさんよろしく手招きする。

 ウベルトは犬歯をむき出しにして、城壁から飛び降りた。


「ナめてんじゃねぇぞ、ゴルァ!」


 疾走した勢いそのままに振り下ろしてくる一撃だ。

 スピードが乗っていても、そんなわかりやすい一撃をもらうことはない。

 半歩引いて身体を半身にしてかわす。

 次は恐らく振り下ろした剣が跳ねあがってくるんだろうと予測がつく。

 なので軽く後ろに退がると目の前を大剣が通り抜けていった。


 昔とった杵柄だけど、まだまだ身体が覚えているもんだ。

 まだまだウベルトは止まらない。

 大剣の勢いを殺さずに上手く身体を移動させながら、連続で攻撃をしてくる。

 しかし単調なのだ。

 大剣の重さに振り回されているような感じか。

 攻撃のリズムが一定なのでわかりやすい。


 踊るようにしてウベルトの大剣をかわしていると、横やりが入ってきた。

 さっきの熊獣人だ。

 えっとグっさんだったかな。

 こいつ騎士団の団長とかいった癖に剣じゃなくて槍を持ってやがる。

 まぁべつにいいんだけど。


 ウベルトが大剣で攻撃し、その体勢の乱れをグっさんの槍がカバーする形だ。

 悪くはないんだけどね。

 ただ連携不足かな。


 不用意に突かれた槍の柄を蹴り上げると、ウベルトの脇腹に当たった。


「おぐぅ!」


 一瞬、呼吸がとぎれたのだろう。

 ウベルトの動きが止まった。

 そこに手加減したオレのゴブリン正拳をお見舞いしてやる。

 二メートルは十分にあるだろう狼獣人の巨体が吹き飛んだ。


 地面にぶつかっても、二回三回と回転している。

 後頭部も盛大にぶつけていたから、ちょっとはダメージ入ってるだろ。

 しかし種族進化ってのはすごいもんだな。

 動体視力や反射速度が桁違いだ。

 あと手加減したのに正拳の威力よ。

 前世でもここまでの威力が出せたら、ちっとは人生変わってただろうに。


 熊獣人の方を見る。

 ウベルトの巨体が吹き飛んだのを目の当たりにして驚いているんだろうか。

 戦場でそりゃないぜ。

 膝の力を抜くことで発生する力を踵で方向を変える。

 いわゆる縮地ってヤツだ。

 前世じゃほとんどできなかったのにスムーズにできやがる。


「なっ!」


 隙だらけの熊獣人に接近して、震脚による踏み込みと同時に腹に掌底を添える。

 急ストップしたことによる慣性の力を使った一撃だ。

 発勁とかいうヤツだ。


「かはっ!」


 熊獣人が血を吐いた。

 どうやら浸透勁が上手くいったみたいだな。

 鎧通しなんて呼ばれる技術なんだけど、初めてできたわ。

 熊獣人が膝をついたかと思うと、腹を抱えて転げまわっている。

 そう効くンだよなぁ。

 親爺にやられて三日ほどまともに飯が喰えなかったんだ。


 ”痛くなければ覚えませぬ”とか言ってやがったけど。

 どこの剣士に影響受けてんだか。


「おい、もう終わりか?」


 声をかけてみても反応がない。

 たぶん狼の方は気絶してるんだろう。

 で、熊は痛みでそれどころじゃないみたいだ。


 ここはサクッと終わらせておこうか。

 熊獣人の顔めがけてサッカーボールキックだ。

 喰らえ、オレのタイガーショッ!

 熊獣人の首と脊髄が引っこ抜かれて飛んでいった。

 どんだけ首の骨が太いんだよ。


「じゃあもう一人の方も……」


 と向き直ったところでおとなしくなっていた魔法が再び飛んできた。

 目を向けると他にも獣人やらニンゲンやら騎士の恰好をしたのがこちらに向かって走ってきている。

 どいつもこいつも目を血走らせてやる気満々だな。

 固有能力を使うとかんたんに始末できるのはわかってるんだけどね。

 先ずはこの身体の性能をしっかりと試してみたい。


「かかってこいやぁぁぁぁあああ!」


 吼える。

 オレの咆哮で怯んだのか、足がとまった一団に向かって走り、飛ぶ。

 勢いそのままにドロップキックだ、バカ野郎。

 いやアレだ。

 仮面のバッタライダーみたいなキックになってしまった。

 オレに襲いかかろうとしていた一団の真ん中をキックで突き進む。

 首が飛ぶ、腹に穴が開く、腕が足が千切れていく。

 血の雨だ。


「こんなもんか、お前ら弱いな」


 敢えて煽ってやる。

 そうだ。

 どうせお前らだってゴブリン相手に無双したことあるんだろ?

 弱い魔物だからってバカにしてさ。

 

 だったらお前らの番がきたからって怯えるなよ。

 怯えたゴブリンを見て、お前らは殺してきたんだろう。

 それが強者の権利だと強弁してさ。


 だからオレが同じことをしてやるよ。

 獣人だからって関係ないね。

 オレは全ゴブリンの怨嗟を背負っているんだからな。

 

「おい、逃げんなよ!」


 灰色っぽい体毛をした狼の獣人を蹴り殺す。

 その勢いでそばにいた魔法師の女の頭を殴る。

 めぎょって音がして顔の半分が吹き飛んだ。


 しばらく暴れていると、周囲が静かになった。

 今はうめき声の一つもない。

 ただウベルトだっけか、最初に戦っていた狼の獣人が立っていた。

 大剣を杖替わりにしているから、既に戦う意思はなさそうだ。


「なんなんだ! なんなんだお前は!」


「ゴブリンですがなにか?」


「そんなことを言ってるんじゃねえ!」


「じゃあなんだよ」


「たかが! たかがゴブリンだろうがっ! なんでこんな! こんな!」


 狼の獣人が叫んでいるけど、意味が把握できない。

 なのでちょっと考えてみる。


「あーもしかして、ゴブリンの癖に強すぎだろ、とかそういうの?」


「そうだ! ゴブリン、お前は最弱の魔物だろうが! なんでこんな!」


「さぁ? 知らねえよ。でもよ、お前らはゴブリンが弱いからって殺しまくってただろ? 罪悪感も抱かずにさ」


「当たり前だろうが!」


「だったらお前らがそうされてもおかしくないよね? だって弱いんだから」


「は?」


「最弱の魔物とか言ってたゴブリンに蹂躙されちゃったよね。『ナめてんじゃねぇぞ、ゴルァ!』とか言っちゃってたよね。大剣ブンブン振り回してたけど、かすりもしなかったね。ゴブリンによゆーで避けられちゃって。最初の大振りの一撃でケリがつくと思ってた? あれ? なんでプルプルしてんの? ところでさぁ、ねぇねぇ今どんな気持ち?」


「っざけんじゃねぇ! このクソゴブリンがっ!」


 見る影もなくなった速度の大剣を敢えて受けてやる。

 こんなことで傷一つつかないのはわかっていたから。

 思っていたとおりに痛くもなかった。


「ずわぁんねぇんでしたぁ!」


 大剣の根元に掌底を入れるとかんたんにへし折れた。


「クソがっ!」


 狼獣人が後退った。

 

「おうおう苦戦しておるのなぁ」

「しかり、しかり」


 狼獣人の背後に姿を見せたのは妖人種エルフの女と、角と鱗のある蜥蜴っぽい大男だった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る