第42話 2枚の挑戦状
「『
僕達は今、クランハウスのリビングに介している。テーブルの上には2枚の依頼書が置いてあった。
侯爵ジャッキー家からの『
子爵メビュアス家からの『
どちらも、『
ただし、受けるか否かは自由。
この2枚の依頼書は、今朝、郵便受けに投函されていた。
ジャッキー家は、前回の中間発表で18位だった『
「実技試験といったところですかね」
ネオの言葉を聞いて、考える。
「……この依頼を達成すれば、専属契約を取れるの?」
「そう単純でもないみたい」
ネオの調べによるとこうだった。
【2つのクランに、同じ依頼をして、その達成度によっては鞍替えする】
ジャッキー家とメビュアス家は、何かで目立った活躍を見せたクランがあると、よくこの手法をとっているのだという。
「つまり、『
「多分」
「私たちが依頼を達成して、かつそのクランよりも実力があると示せれば、専属契約を取れるってことだな」
「はい」
エルさんの言葉に、ネオが頷いた。
とは言っても、そんなに簡単な話ではないはずだ。
同時期に同じ獲物を狙うとなると、衝突は必須。相手のクランも、この依頼の出来によっては後援が外れるということがわかっている分、必死だ。
さらに、事と次第によっては、相手クランよりも下だという格付けがされてしまう。貴族界でそれが広まれば、他の貴族から専属契約をもらうことも難しくなってしまうかもしれない。
嫌な挑戦状だ。
ただ、僕達にとって大きなチャンスなのも確か。
何より、この依頼を達成することができれば、『
まず、どちらの依頼を取るかだけど……。
「俺が
「
2人の声が重なった。
ディーさんと、双子の姉ミーシェだ。
「えっと……」
ディーさんが
だからてっきり僕は、いつもの通り、僕、セイ、エルさん、ディーさんの4人で遠征に行って、双子にはこちらで通常依頼を受けてもらうんだと思っていた。
「腕が鳴るぜ」
「やっと僕達の出番が来たね、姉さん」
「ええ! 私達にふさわしい相手だわ!」
3人はそれぞれ、依頼を受けるつもりで盛り上がっている。
「ミーシェ、オルフ。2人で
「いいえ! 楽勝ですわ!」
「俺たちを信じてください、リーダー! 絶対に成功させます!」
2人は爛々と目を輝かせていた。『役に立ちたいんです!』という言葉が表情から伝わってくる。
僕達は完全分業制なので、双子と一緒に依頼を受けたことはない。よって、この2人の実力はよくわからないが、ネオが振った依頼は問題なくこなしているようだった。
……この2人って、
それとも、
「ネ、ネオ。両方受けれる感じなの?」
水を差すのも嫌で、小声で隣のネオに聞く。どちらの依頼も遠征になるので、両方受けるとなると、他の依頼が受けられなくなってしまう。
「どっちか一方でいいかと思ってたけど……」
ネオはスケジュールをまとめた冊子を開いて、視線を落とした。
「ちょっと大変にはなるけど、新規依頼の受注を一旦止めれば、無理ではない」
日程的にはなんとかなるらしい。
「可能性は多い方がいいから、両方受けるのもアリだとは思う。判断はリュウに任せるよ」
「僕!?」
いつのまにか、皆の視線が僕に集まっていた。
「「リーダー」」
双子が訴えるような目でこちらを見ている。
この2人は、『
2人は充分仕事をこなしてくれているし、森の
「……両方受けましょう。僕、セイ、エルさん、ディーさんは『
最後の言葉は、ミーシェとオルフに向けてだ。仮面に隠れて見えないが、エルさんやディーさんは微妙な表情をしているに違いない。
「「はい、リーダー!」」
「了解」
「調整します」
最後にセイが頷いたのを見届けて、解散を指示する。
こうしてはいられない。通常依頼の遂行と、
◇
「あれ、『
「
「うん、あの
自分たちをチラチラ見ながら噂する声を聞いて、オルフは面の下でニヤリと笑った。
「おねーさんたち、だいせーかい!」
「えっ!」
「きゃあっ!」
鬼の面が真っ直ぐ自分たちに向き、噂をしていた女性2人組は、ひっと体を引いた。
「俺たち、『
オルフは親しげに片手でピースしてみせた。その腕を姉のミーシェがはたき落とす。
「女性を怖がらせるんじゃないわよ」
「えっ、怖い? こんなにかっこいいのに?」
オルフェはこつんと自分のお面を叩く。
「怖いのよ」
ミーシェとオルフは双子で見た目もそっくりだが、その性質はだいぶ異なっていた。簡単に言うと、ミーシェは常識的、オルフは非常識。
ただし、不思議なことに好き嫌いは一致していた。ミーシェも、この鬼の面は気に入っている。傍から見たら怖いだろうことは理解しているが。
「そうかなあ」
オルフは納得がいっていないようだった。こういう感性の相違は今に始まったことじゃないので、ミーシェは特に気にせず歩みを進める。
「さっさと倒して帰って通常任務に戻るわよ」
「そうだね。そしたらリーダー、褒めてくれるよね」
ミーシェは、リーダーに褒められるのを想像すると、頬を緩めた。
「お願いとか聞いてもらえるかな」
「何をお願いするの?」
一応聞いてみたミーシェだが、オルフの答えは分かりきっていた。
「もちろん、この面を外して一緒に遊んでもらう!」
オルフの声は弾んでいた。ミーシェも、心が浮きだつ。
2人は、『
その時、2人の心には同時に稲妻が走った。まさに、ビビビッときたのだ。
簡単に言うと、リュウは、2人のタイプど真ん中だった。
リーダーの顔は、決して派手ではない。素朴で、普通の人はその魅力に気づきもしないかもしれない。でも、彼はそこら辺にいる人間とはひと味違うのだ。
優しげな瞳の奥には何か底知れないものが隠されていそうで、引き込まれるような危うさがある。かと思えば、身を任せたくなるような安心できる雰囲気を纏っている。
2人は好き嫌いが同じだ。面接の時、リュウに一目惚れした2人は協力して、あることないことでっち上げ、『可哀想な家出少年少女』を演じ、見事『
「絶対勝つわよ」
「もちろん」
勝つ。
2人の脳裏にあるのは、いつもリーダーの隣にいる人物。
セイだ。
2人は、面接を担当したリーダーと、副長であるネオ以外のメンバーの素顔を見たことがない。なので、セイがどんな顔をしているのかも知らない。
だが、身長や声から、自分たちとそう歳は変わらないように思う。それなのに、リーダーと長年の付き合いがあるようで、とても親しげだし、常に一緒に行動している。
これほど妬ましいことはない。2人にとって、セイはまさにライバルだった。
この前の
そこに舞い込んだ『
2人は気合いが入っていた。依頼を達成するのは当然として、限りなく徹底的に素早く遂行してみせて、リーダーに一目置かれる存在にならなければ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます