第16話 世間の反応
「エストラント号の遭難記。今世紀最大の海難事故」
「原因は船長の職場放棄?問われる責任問題」
「船内で生徒たちによる壮絶な争いが?遭難時におけるモラルの欠如」
センセーショナルな煽り文句がテレビや週刊誌を飾っている。世間の話題はエストラント号の遭難事件のことでもちきりだった。
ネットに晒された船内の監視カメラの映像は、リアルドキュメンタリーとして大いに関心を集め、世界中で何億回も動画再生される。それにつれ、世間の非難も高まっていった。
まず最初に、生徒を置いて逃げた船長たち船員に非難が集中し、それに反比例して最後まで船に残った誠也がもてはやされる。
「船長、そもそも逃げ出す必要などなかってのでは?船に火災の跡などありませんでしたよ」
新聞記者やテレビレポーターから責められて、船長は慌てて言い訳をする。
「ふ、船に異常があったのは間違いありません。私たちは乗客の安全を考えて避難を決行したのです」
「仮に避難が必要だとしても、最後まで残って生徒たちの脱出をサポートすべきだったのでは?」
鋭く突っ込まれて、船長は言い訳する。
「そ、それは船員である浦島誠也に任せていたので…」
「浦島氏は、入社一年目の見習い航海士だと聞いています。そのような方が残って責務を全うしようとしたのに、船長をはじめベテラン船員たちはさっさと逃げだしたのですか?」
そういわれて、船長をはじめとする船員たちは何も弁解できなくなるのだった。
その後、船長たちは刑事責任を負わされることはなかったものの、船の保険会社から莫大な損害賠償を請求され、長くその返済に苦しむことになる。
そして、勇人がネットに晒した監視カメラの映像により、上位カーストの生徒による勇人へのリンチと、その後の下位カーストの生徒たちへの暴行・虐待が問題になった。
「信じられない。集団で船から突き落とすなんて。殺人未遂だろ」
「その後もひどいもんだぜ。自分たちだけで食料を独占して、気に入らない生徒を下層階に閉じ込めるなんて」
史郎や美幸たちの自分勝手なふるまいを見た視聴者たちは、義憤に駆られる。
「それで反撃されて入院かよ。ざまぁ」
勇人によって倒される彼らを見て、喝采を浴びせるのだった。
そして、視聴者たちをさらに呆れさせたのは、桐人や真理亜たちの船内における火事場泥棒だった。
「あの子たちって財閥とか大企業の子女らしいわよ」
「でも、遭難時に泥棒していたっだって。卑しいわね」
「そういう非常時に本性がでるのよねー」
そのように非難され、真理亜たちは弁解を試みる。
「ち、ちがうの。桐人に命令されたの」
「私たちは悪くありません」
「仕方なかったのよ。あいつに脅されていたんだから」
困った三人は、すべてを桐人になすりつけようと必死で
言い訳するが、誰にも相手にされない。
そして、船内の悪事のすべての元凶されたのが桐人である。
「何こいつ。遭難しているのに火事場泥棒なんて。恥ずかしくない?」
「自分たちだけ逃げ出して、結局海上保安局に救助されたんでしょ?」
「それで仲間割れして救助隊からも逃げたんだって。バカそのものだな」
救助された桐人は、船会社や貴重品を金庫に預けていた乗客たちにより、手に入れた金をすべて没収されて窃盗の罪で訴えられてしまった。
「それに比べて、この勇人ってやつは勇敢だな」
「ああ。まるで映画の主人公みたいな活躍だ」
船内の勇人の活躍は、光の巨人などの不自然な映像は修正され、ただの放電現象に差し替えられている。それを見た視聴者は、何度も死地を乗り越えて人災や災害に立ち向かうヒーローのように勇人のことを扱った。
同じ南方家の血を引く者だが、桐人は犯罪者として罵られ、勇人は英雄として尊敬される。
彼ら上位カーストの生徒たちが入院している間に、エストラント号の遭難劇は、日本中の話題を独占することになるのだった。
「だいたい俺の思惑どおりだな」
上位カーストの生徒たちがネットで非難されているのを確認して、勇人はニヤリと笑う。
「彼らは傷ついて入院しました。世間で評判も最悪です。これで生徒たちへの復讐は終わりですか?」
「まだまだ、これからだ。だが、その前にすることがあるな」
ナイトの問いかけに、勇人はそう返す。
「することとは?」
「まず俺自身が社会的な強者になることさ。そうでないと、上流階級のお坊っちゃんお嬢ちゃんである奴らに対抗できないだろ。もみ消されて終わりだ」
勇人は資料を確認しながらつぶやく。史郎の実家は大手石油会社、美幸の親は大手携帯企業の創業者、奈美は大手自動車会社の娘、小百合は元首相で大手タイヤ製造会社のオーナーの孫だった。
物理的に反撃したり、ネットで一時的に悪評が流れても、実家のバックがあるかぎりやがて復活して勇人に対して仕返ししてくることが目に見えている。
「この復讐をきっかけにして、奴らの会社を根こそぎ奪ってやるぞ。とりあえずは身内からだな」
勇人はどうやって南方家の乗っ取りをするかを考え込む。
「桐人は社会的には死んだも同然だ。だけど、あの馬鹿おやじは納得しないだろうな。まずは屋敷の掌握だな」
勇人がそう思った時、タイミンクよくスマホがなる。電話をかけてきたのは、海外に出張中の正人だった。
「貴様!これはどういうことだ!南方家の恥をさらしおって」
報道で事件を知った正人から、怒り狂った声で詰問された。
「恥をさらしたのは桐人でしょう。俺は関係ありません」
「うるさい!口答えするな!」
息子に反抗されたことで、正人の怒りはさらに増す。勇人はそれを適当にあしらった。
「くくく……桐人は現在脱水症状で入院しています。退院後、確実に警察の取り調べを受けるでしょう。どのみち、あれだけ無様な姿をさらしたのですから、南方家の跡取りなとつとまりませんね」
「貴様……まさかそれが目的で……」
今まで無能で無気力だと見下してきた息子の野心を知って、正人は戸惑った。
「これで俺を跡継ぎにするしかないでしょう」
「……許さん。貴様など船から落ちた時に死ねばよかったんだ。南方家の跡取りなど、断じて認めん。戻ったら私が引導を渡してやる」
呪いの言葉を残して、正人からの電話が切れた。
「……マスターは実の息子だというのに、なぜあれだけ憎むのでしょう」
ナイトの疑問に、勇人は答える。
「どうやら、死んだ俺の母とは爺さんに押し付けられた政略結婚だったみたいだ。爺さんに逆らえなかった鬱憤を、俺にぶつけているんだろう」
勇人は冷たい顔でつぶやいた。
「だが、そんなことは俺には関係ない。南方家を掌握することは、太陽系開拓の第一歩となる。あいつには消えてもらうとしよう。その前に、屋敷の掌握だな」
そう決心すると、退院した勇人は屋敷に向かうのだった。
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