超短編

@hihihi012345

怒り

 初めにこれは八つ当たりであり、落ち着くべき所在の知らないストレスのはけ口を見出す行為である。故にあまり考えない及び読まないことを推奨する。これを行う対象が貴方であることを深く恥じ、悔やみ、予め謝罪を言い伝えておくと同時に私はここに一つ自己分析を投じようと思う。どうせ私のことだから、すぐに忘れてのうのうと日々を消化することは想像に容易い。なので、くれぐれも重々しいものと捉えないで頂けると幸いに思う。本当に、そう、これは創作欲を満たそうとする結果なのだ。創作なのだから、つまり深刻なことは何もないのだ。


 きっかけはほんの些細なことである。不意にちょっと小突かれるような。でもその些細は私の内では、時と場合によって重大を極めてしまうことが往々にしてあり、これは私の持つ逆鱗と表現してもきっと過言ではない。そんな、誰もが気にも留めないようなくだらないことこそが私の唯一、侵掠され難い心的急所なのだろう。


 端的に申しますと、私は視界が鋭く明滅するほどの激しい憤怒を与えられたのです。生まれて初めてというくらいの激情に見舞われたような気がします。そう、仰るように、たったのくだらない些細なことによって。でも一番の問題はその後にございます。私はこれをうまく発散する術を持たず、その結果これを書き殴るに至り、そうしてどうにか気を紛らわそうとすることしかできないのです。冒頭にも申しました通り、これを送ります相手が貴方であることを、私は心より恥じています。しかしどこか、貴方なら許してくれるのではないか、優しく受け止めてくれるのではないかという希望に縋り、いえ、そこに縋るしか、おそらく今この脳天を鈍器で思い切り殴られたような衝撃とその無限の反響はやり込めないと感じるのです。

 話を戻します。全身の血液が脳に集中し、今にも迸りそうな感情を受け流す術を私は持ち合わせておりません。何かを叩くことができればどんなに簡単でしょう。私に怒りを覚えさせた本人に意趣返し出来ればどんなに素晴らしいでしょう。発狂できればどんなに気持ちの良いことでしょう。怒りを無視して眠りにつければどんなに平穏でしょうか。全身の力を抜き、しかし顔面の筋肉は絶えず強張っていて、暴力に身をやつすことを想像しては、しかしそんなものは最も愚かな方法であると理解しつつもその空想を消し去ることはできず、暴力の空想をやめられない自分に落胆して、挙句の果てには、目尻に湛えれた怒りを静かに少しずつ溢すことしかできず、そして心の奥底に居座る絶望に身を投げ、心身を恐怖で上塗りすることしか、私にはできなかったのです。


 私は怒りに身を任せられる方を羨ましいと思わざるを得ません。最も愚かで簡単で効果的な発散方法だからです。誰にも危害の及ばない円滑で優れた発散方法を持っている方が羨ましくて仕方なりません。しかし私はそのいずれとも無縁で、唯一できることは考えることだけなのです。執筆は考えることの延長線です。ですが、それが今、貴方に向いてしまうことが、私は只々悲しい。こんなものを送りつけるのは全て私の心の弱さのせいだと自認しております。そしてそれはひとえに、常日頃からの私の無能が招いた結果なのだと自覚しております。


 私は、私自身をよく気に入っております。特に考えることに関しては、独特の感性と発想に光るものがある。他の誰かが持たないようなこの感覚は大事に温めたいと思っております。しかし、その得意な思考が仇となって身を滅しては、元も子もございません。まあ、それはそれで、私の思う人間の本懐というか、本望に近いものはございますが、それでも、人として生まれた以上は、この世でも類稀で崇高で尊い人徳をこの胸に授かってしまった以上は、是が非でも最後まで生を貫く義務がある。その義務を全うする覚悟がある。私は先へ進まなければならない。

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