第17話 同僚の作ったもの
ブラッドウルフを討伐した次の日、私は今現在食堂にいた。そこにはテキパキと動くシズクとアクアの姿があった。料理は主にシズクが作り、アクアがそれを運ぶ。朝ご飯であるにもかかわらず、野菜のたっぷり入ったスープにシチュー、そして程よく温められたパンに、新鮮な果物で作られたであろうジュースまであった。一体これほどの食材をどこから集めたのだろうか?それだけではない。朝起きると2人の姿は冒険者風な格好から一変し、メイド服へと変化していた。アクアの着ているメイド服はスカート丈が膝上くらいなのに対し、シズクのメイド服のスカート丈は足首くらいまであった。2人に共通しているのは頭にホワイトブリムが丁寧についていることだろう。メイド服はよくある黒と白を基調としたもので、私は昔からこの姿の2人を見ていたから見慣れているが、対面に座っているリリアは興味ありげに2人を見ていた。
それからどんどんと朝食が私たちの前に並べられていき、配膳が終わったところで2人も席に着いた。貴族の家に仕えるメイドや執事は主人とは別に食事を摂ることが当たり前なのだが、私と姉妹は別に主人とメイドっていう訳ではないのでそこは関係ない。2人は私のメイドだと昔から言い張っているのだが、私はそれを聞き入れていない。ただ、ずっと言われるのも面倒くさいので、行き過ぎない範囲でなら許可を出した。
リリアは目の前に並ぶ料理に目を輝かせながら口の端から涎を垂らしていた。
「さて、リリアが待ちきれないみたいだから食べようか」
リリアが慌てた様子で自分の口元を服の袖で拭う。
それから私の言葉を合図に全員で食事を始めた。
「お、おいひいでふぅぅ!」
食べてから開口一番に口を開いたのは私の向かいに座るリリアだった。リリアは木の実を頬張るリスのように口いっぱいに物をためてから、体全身で美味しいことを表現していた。
「ふふっ、美味しいのはわかるけど口に物を詰めたまま喋らないの」
「ん、んぐっ。これほんとに美味しいです!私が人生で食べてきた中で一番美味しいです!」
「そんな、大袈裟だぜ。こんくらいの飯くらいいつでも食わせてやるよ!」
「姉さんが作ったわけではないでしょう?まったく、姉さんは。リリア様、お口にシチューが付いていますよ。じっとしててください」
シズクがテーブルに置いてあったナプキンを手に取り、隣に座っているリリアの口元へと運んで拭っていく。
「ご、ごめんなさい。美味しすぎてつい...」
「いえいえ、いいのですよ。それだけ美味しいって言ってもらいながら食べてもらえるのは料理人冥利につきますからね。おかわりもあるので、おかわりする際は私に言ってくださいね」
「わかりました!」
それからみんなで話しながら朝食を摂り、洗い物を終えた2人が再び席に着いてから今日の予定について話し合う。
「それで、昼間に冒険者ギルドに行くのか?」
頬杖をついて退屈そうにしながらアクアが聞いてくる。
「うん、そのつもりだよ」
「それでしたら、私たちはこの家のことをやっておきますね。昼間だと私たちは外に出れませんので」
シズクは少し寂しそうな表情で言う。そういえば私以外の吸血鬼は昼間に外に出ることができないことをすっかり忘れていた。
「あぁ、退屈で死ねそうだぜ。せめて2人について行ければよかったんだけどなぁ。なんで吸血鬼って陽の光がダメなんだよ。ったく、めんどくさいったらありゃしない」
「そうですね、普段は身体能力に優れたこの体ですが、今は太陽の下を歩けないことを恨みます」
2人が落ち込んでいる中、私は確か昔に同僚からもらった物で使える物があったような気がして、紅箱を発動し、目的のものを探す。
これでもない、あれでもないってやっていると、紅箱の中で目当てのものであろう物が指に触れる。
「ん、これかな?」
私は紅箱から手を抜き、手のひらに握っているそれを見てみる。
うん、間違ってなかった。これでよかったはず!
私は手に持っているそれをテーブルに並べる。
「それは、指輪ですか?」
リリアは興味深そうに色々な角度から見ている。
「まあ見たらわかる通り、指輪だよ。これは同僚のリッタに作ってもらったものでね、私には必要なかったからずっとしまってたんだよね」
私はテーブルに置かれている二つの指輪を手に取り、アクアとシズクに一つずつ渡す。
「リッタさんってこの屋敷の元々の所有者ですよね?確か
「そうそう、リッタって作るものはすごいんだけど使い方が少々難があるっていうか、なんていうか。うーん...」
私がどう表現しようか悩んでいると、指輪を見ていたシズクが口を開く。
「おそらくあのお方は天才が故に頭のネジが数本抜けているのでしょうね。確かにあのお方の作るものは全て実用的ですごいのですが、もっとこう人のため世のために使えるような感じで使用して欲しいものです」
「そうそう、まさにそんな感じ!」
「それで、リッタ様が作ったってことはこの指輪ってただの指輪じゃねぇんだろ?」
アクアは指で指輪を弄びながら問いかけてくる。
私はテーブルの上に残ったもう片方の指輪を手に取り、指輪について説明する。
「この指輪は吸血鬼が太陽の出ている昼間にも外に出れるようになる効果があるんだよ」
三人は少し驚いたような表情で私を見ている。
「当初、この指輪を私の部下たちにつけさせる予定だったんだよ」
「それはまたなんでなんだ?」
「私たちの吸血鬼部隊ってどういう役割だったか覚えてる?」
それから少しの間沈黙が支配し、真っ先に口を開いたのはシズクだった。
「私たち吸血鬼部隊の役割は主に夜襲、昼間は城でひたすら雑務、そんな感じでしたね」
「そうそう、そうでしょ?ただ、私たちの部隊って四天王が率いる四部隊の中で二番目に強かったんだよ。そんな部隊を夜襲だけに使うなんて勿体無くない?」
その言葉で何か理解したのか、リリアは頷く。
「もしかして、吸血鬼部隊を昼間にも動かせるように、しようとしたんですか?」
「そう、リリア正解。ただ、それがまあできなくなっちゃったんだけどね」
「それはなんでなんですか?」
私は当時のことを思い出しながら口を開く。
「あの頃の昼間の戦闘を担当してたのってさ、ライナーだったじゃん?」
「そういえばそうでしたね、それとどのような関係があるのですか?」
私は一つため息を吐いてから再び口を開く。
「ライナーって戦闘狂じゃん?戦闘ある場所に部下引き連れて」
「そうだったぜ、ライナー様の二つ名も暴虐の嵐なんて名前がついてたように、戦場にライナー様が降り立ち、戦ったならその後その場所は何一つ残らない平地と化すなんて言われてたけど、実際すごかったもんな」
「そうそう、話が脱線しちゃったけどとにかくライナーって戦闘狂なんだよ。それでライナーに直接、『昼間の戦闘は僕たち竜人部隊が請け負ってるから、手出しはしないように』なんて言われてね。それからライナーは魔王様のところに直接出向いて昼間の戦闘は竜人部隊が行うことを伝えたらしい」
「そんなことがあったのですね」
そうそう、と私は頷く。それから私は手に持っていた指輪をシズクに渡す。
「これ2人にあげるからさ、昼間も私たちと一緒に行動しようよ!」
私の言葉を聞いてから2人は顔を見合わせてから頷く。
「おう!正直ちょいと怖いが、レミリア様が言うならもちろんお供させてもらうぜ!」
「はい、例え地の果て、水の中、空の上だろうとどこまでもついて行きます」
私はそんな2人に対して、とびきりの笑顔で頷いて見せたのだった。
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ここまで読んでいただきありがとうございます。次回の更新は3月9日になります。
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