第7話 初依頼と鉄屑のゴーレム
辺りからなんの鳴き声かもわらないものが耳に届く。ギャァギャァ喚いているようなものもあればピロロロロッと甲高い音が連続で聞こえてくるようなものもある。地面は若干湿っぽく、周囲は背の高い木々で囲まれており、日差しがあまり届いてこない。
「はぁ、依頼が終わる頃にはすごい汚れそう。さっさと終わらせて風呂に入りたい...」
私は湿気で頬に張り付く髪を片手で払いながら呟く。
隣ではリリアはちょこちょこと歩いており、少し肩で息をしていた。
私はまだまだ余裕だけど、リリアは冒険者になったばかりだといっていた。そのためここまでの悪路を歩く機会というのがあまりなかったんだと思う。魔王城跡地も悪路といえば悪路をだが、その質が違う。魔王城跡地が石や岩が転がっていることで足場が不安定なのに対し、ここは地面がぬかるんでいて足を取られる。例えるならば粘着力の減ったお餅を踏んでいるような感じかな?表現がこれで正しいのかは私にはわからないけど、とにかくそんな感じ。
「リリア、疲れてない?大丈夫そう?」
「はぁ、はぁ。だ、大丈夫、です。少し、足を取られて、体力が減ってきていますけど、なんとか、なってます」
この様子だとまあまあキツそうかも。
私はシャノンに貰った地図を見る。目的地まではあと少しのはずだ。
「リリア、依頼の場所まであと少しだからもう少し頑張ろっか」
リリアは息を切らしながらコクリと頷く。
私は歩きながらまあまあめんどくさい依頼だなぁなんて思いながらシャノンとのやりとりを思い出す。
★
「それでは私たちからの依頼ですが、ここから西の森にある洋館を制圧してきてください」
「へ?制圧?」
やばい、想像してなかった言葉が思わず耳に届いて変な声が出た。
「制圧、は少し言い過ぎかもしれないですね。西の森におそらく無人の洋館があるんですが、そこを調査してきてほしいんです」
「調査?それならいいけど、おそらく無人ってどういうことなの?」
シャノンはクッキーを頬張りながら話を始める。
「ほふうほほ、ははほうははひぇふぁふぃんふぇふ」
「ごめん、何も聞き取れなかったからクッキー飲み込んでから話して欲しいかな」
シャノンはお茶でクッキーを流し込んでから改めて口を開く。
「というのも、まだ洋館の調査ができていないんです」
「ふーん、だからおそらく、なんだね。それなら私たちじゃなくて他の人を調査に送ればいいと思うけど」
シャノンは腕を組んでから険しい表情をする。
「そうしたいのも山々なんですが、というか既にしました」
「それで?」
「結果は依頼失敗、それもAランクの冒険者3人で構成されているパーティです。報告によればそこには大きな洋館があり、それを守護するように動く鉄屑のゴーレムがいたといいます」
「ふーん」
「その動く鉄屑のゴーレムが相当強かったらしく、負け帰ってきたというわけです」
なるほど、つまりはそこにいる鉄屑を倒し、洋館を調査しろってのが依頼内容なのか。でもひとつ疑問に思うことがある。
「Aランク冒険者が失敗した依頼を私が受けてもいいの?一応は私もFランクの冒険者なんでしょ?」
シャノンはチッチッチと指を振る。
「レミリア様、考えが少々甘いですよ。レミリア様はまだ冒険者ではありません。えぇ、ですのでこれはなんも問題ありません」
「おい、ギルド職員。ほんとにそれで大丈夫なのか...」
私はジト目でシャノンを見つめる。隣のリリアがおずおずと手を挙げる。
「あ、あの。私はどうすれば...」
順当にいけばFランク冒険者のリリアはお留守番になると思う。だが、シャノンは、
「え?一緒に行けばいいんじゃないですか?レミリア様のお側なら安全だと思いますし」
ギルド職員が本当にこれで大丈夫なのだろうか?私は少し不安に思いながら頷く。
「うん、リリアも一緒に行こっか。一人で行くのもなんかつまらないし」
「わ、分かりました。私頑張ります!」
「それでは支度をしてから西の森の洋館に向かってください。地図はここを出る時に配布しますので」
私たちは頷いてからソファーを立ち上がった。
★
とまあこんな感じで今現在に至っている。
「うーん、そろそろだと思うんだけどなぁ」
「はぁ、はぁ。すごいですね、レミリアさんは全然息が切れていないです...」
「ま、これでも元魔王軍の四天王だからね。上に立つものがこれくらいで根を上げてたらダメなわけよ」
それから少し歩いたところで、視界が開けた。
「ん、あれじゃない?」
「お、おそらくそうかと思います」
目の前には薄暗い森の中に異様な雰囲気を放っている洋館が鎮座していた。建物は所々に苔が生えており、パイプやら周囲を囲っている柵には蔦が巻き付いている。庭と思われる場所は雑草がぼうぼうに生えており、一目で人の手入れがされていないことがわかる。全体的な雰囲気、見た目を総合するとまさに幽霊屋敷という名がすごく似合っている気がする。
「それじゃあ行こうか」
「はい」
私たちは目の前の門に向かって歩く。歩くたびにザッザッと雑草を踏み締める音がする。それがこの空間ではいやに響く。
リリアは私の斜め後ろでキョロキョロしながら着いてきている。一応は周囲を警戒しているみたい。
「ん?どうしたんですか?」
急に私が足を止めたからか、リリアは不安そうな声音で尋ねてくる。
「来る」
「え?」
それだけ言うと私はリリアを抱えて後方へ大きく飛ぶ。そして、先程まで私たちがいた場所に、黒い大きな塊がものすごい勢いで降ってきた。
「ふぇ?な、なに?」
「おそらくシャノンが言ってた鉄屑のゴーレムじゃないかな?」
私はペロリと自分の唇を舐める。
自分でもわかるくらいこれから起こる戦いに私は心躍らせている。昔は気がつくことなかったが、どうやら私はそこそこの
私はリリアを地面に下ろし、後ろに下がっているように指示を出す。私の指示に素直に従ってリリアは後方の木の影へと走っていく。
「さて、ちょーっと久しぶりの運動に付き合ってもらおうかなぁ」
私は血のように赤く染まった瞳を目の前の鉄屑に向けながら腰を低く落とした。
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ここまで読んでいただきありがとうございます。
明日の更新は19時ごろになりますよろしくお願いします。
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