こうなるのもお約束だよね

「させるかあああああああッッッ!」

「あうっ!?」


 僕はイルゼに体当たりをし、代わりに触手に覆われてしまった。

 でも……何とか間に合ってよかったよ……。


 全身を覆うぬめり・・・と気持ち悪い感触に、僕は思わず吐きそうになる。

 でも、今はそんなことよりも、コイツを倒して脱出することを考えないと!


 ――ずる、ずる。


 どうやら『イヴィル・ローパー』は、僕を本体へと引きずりこんで、それから凌辱することを選んだみたいだ。

 おかげで気持ち悪いものの、僕の純潔はまだ守られたままだ。よかった、本当によかった。


「ルイ様! ルイ様!」


 触手の向こう側で、イルゼの悲痛な声が聞こえる。

 でも、触手を切断する音が聞こえるものの、その刃が全然届いていないところをみると、僕の身体、相当巻きつけられているみたいだな……。


「手……動く、か……?」


 僕は身をよじり、強引に両腕を動かしてみる。

 すると、身体と触手の間に僅かに隙間が生まれ、双刃桜花の切っ先を引きずられる先へと向けることができた。


 これなら……。


「イルゼ! 僕なら大丈夫! だから……待ってて!」

「っ! ルイ様! 私が必ず、あなた様をお助けいたします!」

「あはは! 大丈夫だって言ったよね! 僕は……ちゃんと君の元に、帰るから」

「ルイ様あああああああああああッッッ!」


 イルゼの叫び声が響く中、どうやら終着である『イヴィル・ローパー』の口までたどり着いたみたいだ。

 その証拠に、こちらをギロリ、と睨む巨大な目が、僕の視界に入ってきたから。


 だけど、所詮は知能を持たない魔物……いや、アイテムか。

 その目玉に、双刃桜花の切っ先が向かっていることを理解していないみたいだ。


 あとは……この手を僅かに伸ばすだけで。


 ――ずぐり。


『――――――――――ッ!?』

「うわあっ!?」


 双刃桜花の刃が巨大な目に突き刺さり、『イヴィル・ローパー』が僕ごと触手を振り回した。

 甲板に僕を叩きつけるけど、触手に覆われているおかげでダメージはない。


 しばらくそれが続いた後。


「ぷはっ!」


 触手の隙間をこじ開けて顔を出すと、黄緑色の血を流して沈黙する『イヴィル・ローパー』の本体が視界に入った。


「ルイ様! ルイ様!」

「わっ!?」


 突然顔を柔らかい何か……って、イルゼの巨大なお胸様だけど、それに思いっきり挟まれた。

 というか、触手なんかよりも窒息率が高いと思います。


「もう! もう! どうしてそんな無茶をなさるのですか! それも……私なんかを救うために……っ」

「それはこっちの台詞セリフだよ。僕が大好きな君を助けようとするなんて、当たり前だよね? それに……って!?」


 ま、まずい!? 『イヴィル・ローパー』の粘液のせいで、イルゼの服が溶けかかっている!?


「イ、イルゼ! 今すぐ僕から離れて!」

「嫌です! ルイ様をここからお救いするまでは……っ!」

「お願いだから! 胸! 胸を見てごらんよ!」

「胸って、またそんな……っ!?」


 ようやくイルゼも気づいたみたいで、両腕で隠しながら慌てて僕から飛び退いた。

 危うく僕も、イルゼのお胸様が生の状態で埋もれるところだったよ。名残惜しい。


「さて、じゃあ僕も……」


 触手をこじ開け、両腕を抜き出してグイ、と身体を持ち上げる。

 ふう……触手から抜け出た解放感かな。海風がすごく心地いい。


「「「「…………………………」」」」


 みんなが、目を見開いて僕を見ている…………………………あ。


「ああああああああああああああああああああああああああッッッ!?」


 僕は絶叫し、また触手の中へ下半身を潜り込ませた。

 いやいやいやいやいや!? イルゼに注意したんだから気づけよ、僕!


 僕のオークが、みんなにバッチリ目撃されちゃってるんだけど!?


 恥ずかしさのあまり鼻の下まで触手にうずまり、チラリ、と四人の様子をうかがうと。


「はうはうはう……わ、私、頑張ってみせます……っ」

「あらあ……うふふ♪」

「はわわわわ! そ、その、ボクじゃ入りきらない、かも……」

「……御立派様」


 顔を真っ赤にしながら、フンス、と意気込むイルゼに、舌なめずりをする聖女。

 ジル先輩は青い顔で自分の下半身を見ているし、カレンに至っては、どこでそのワードを覚えたか、問いたださないといけない。


「ねえ、誰かー……僕に服をくれないかなあ……」

「お、おお、ほらよ……」

「……ありがとうございます」


 憐れみと嫉妬の表情で服を手渡してくれた、ヒャッハーなお兄さん。


 僕は優しさに触れ、少しだけこの人と分かり合えるかもしれないと、そう思った。

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