お兄さんは空気を読めない
「ま、まあ、その『ガベロットの掟』はひとまず置いといて、そもそも毒を盛った実行犯である女使用人に関してなんですが……なにかご存知だったりしますか?」
「う、うん……彼女は“ルアーナ”といって、三年前からこの王宮で仕えてくれているんだけど……」
ジル先輩は、そのルアーナという女性について詳細に説明してくれた。
意外なことに、使用人のルアーナは、ガベロット海洋王国における古参の貴族の一つ、“アルバーニ”男爵家の令嬢らしい。
僕はてっきり、イルゼみたいな暗殺者だったりするのかと思ったんだけどなあ。
「そのような男爵家の令嬢が、どうしてルートヴィヒさんを殺害しようとなさったのでしょうか……」
僕の感じていた疑問を、聖女がポツリ、と呟く。
そうなんだよ。仮にも貴族令嬢が、誰かに指示されたとはいえ自分の手で僕を殺そうとするかな。
だって、そうなったら真っ先にルアーナ自身が疑われるわけだし、わざわざリスクを冒すとも考えらえない。
加えて、イルゼじゃあるまいし暗殺技術なんて持ち合わせていないだろうから、すぐに捕らえられて処刑されてしまうに決まっているし。
でも……それでも、あの女は実行した。
それには、余程の
なら。
「……ジル先輩。確かこの国は、第一王子であるアントニオ殿下と第二王子のマッシモ王子の間で、後継者争いが起きているんですよね?」
「う、うん……そのせいで貴族達もそれぞれの兄様を支持して、二つに分かれてしまっているって……でも、それと何の関係が……?」
「いえ、ちょっと気になりまして……」
おずおずと顔を
さすがに、こんなことをジル先輩に言いたくない。
アントニオ王子とマッシモ王子のどちらかが、この僕を亡き者にしようとしたかもしれないなんて。
なんでそう考えたかってことなんだけど、まず、貴族令嬢で暗殺技術もないルアーナが、自分が捕まって処刑されるおそれがあるのにこんな真似をするには、それだけの理由がいる。
手っ取り早く考えれば、自分の家……つまり、アルバーニ男爵家のために捨て駒になった可能性が高い。
特にガベロット海洋王国というのは、先程話があったように『ガベロットの掟』なるものが存在するほど、絆を大切にする思想が根付いていると考えれば、家のために自分を犠牲にしても不思議じゃない。
自分がバッドエンドを回避するために行動している僕には、到底理解できないけどね。
とはいえ、そう考えた場合、ルアーナの実家が古参の貴族家であるとすれば、支持しているのはマッシモ王子ということになる。
僕が口元を押さえながら思案していると。
「おうおうおう、ジル! あの“醜いオーク”がルアーナを捕らえたっていうのはどういうことだ!」
血相を変えて地下牢に飛び込んできたのは、ヒャッハーなお兄さんことマッシモ王子だった。
「……マッシモ兄様、聞いてないの? ボクの大切なルー君が、そのルアーナのせいで殺されかけたんだよ?」
「っ!? そ、それとルアーナに何の関係があるってんだ!」
ジル先輩のあまりの剣幕に、マッシモ王子が一瞬たじろぐ。
だけど、すぐに元の様子に戻り、身を乗り出して食ってかかった。いや、ルアーナは実行犯なんだから、関係大ありだろ。
「ハア……ボクも、いちいち兄様に説明している余裕も、相手をしている暇もないんだよ。邪魔をするなら、どこかに行ってよ」
「そうはいかねえ! 俺の
「いい加減にしてよ! ルー君は……ルー君は、本当に死んじゃうところだったんだよ! そんなことになったら、どうしてくれるんだよお……っ」
「んじゃ何か? ジルは、
睨み合う、ジル先輩とマッシモ王子。
普段はジル先輩のことをチワワに例えているけど、この時ばかりはそんな不謹慎なことは考えられなかった。
だけど……マッシモ王子、今変なことを言ったよね?
僕を殺すことが、マッシモ王子自身とジル先輩のためだって。
それって……。
「いい加減にせんか!」
「「っ!?」」
すると、見かねたフランチェスコ国王が、二人を怒鳴りつけた。
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