放置プレイをキメることにしました

「ミネルヴァ聖教会枢機卿すうききょう、“ロレンツォ=ルドルフォ=マルティーニ”」

「っ!?」


 その名を告げた瞬間、バティスタは目を見開き、息を呑んだ。


「やっぱり……」

「ま、待て、ルートヴィヒ。枢機卿すうききょうということは、ミネルヴァ聖教会の最高幹部の一人のはず。なら、何故このような真似を……?」

「オフィーリア殿下のおっしゃるとおりです。それに、そのような者がどうして、聖女であるナタリア様を危険にさらすようなことまでするのですか……」


 納得して頷く僕に、オフィーリアはおずおずと聞いてきた。

 クラリスさんも納得できないらしく、珍しく質問してくる。


「あくまで、僕の仮説なんだけど……」


 そんな言い訳からスタートして僕は説明するけど、結局のところ、『醜いオークの逆襲』で聖女サイドと敵対している人物が誰だったかを考えた時に、真っ先に浮かんだのがそのロレンツォ枢機卿すうききょうだった。


 元々、聖女の出身であるラティア神聖王国は、ミネルヴァ聖教会が興した宗教国家だ。

 その王は女神ミネルヴァから直接洗礼を受けたとされる伝説上の人物の末裔とされていて、ミネルヴァ聖教会は王を支えつつ、世界中に布教活動を行っている。


 そしてロレンツォ枢機卿すうききょうは、ラティア神聖王国の宰相も兼務しているんだけど……まあ、教会内での権力争いの、反教皇派のトップなんだよね。よくある設定だ。


 だから、ゲーム本編では聖女関連のイベントの際に、ロレンツォ枢機卿すうききょうと手を結んでおくことで、聖女を捕らえ、凌辱することができる。

 言ってしまえば、聖女はそのロレンツォ枢機卿すうききょうに裏切られ、ルートヴィヒに献上されるということだ。


 まあ、そんなことはイルゼやオフィーリア達には言えないので、『教皇と枢機卿すうききょうが対立していて、バルドベルク帝国に協力の打診があった』という話をでっち上げた。


「……なるほどな」

「教会内部も、一枚岩ではないということですね」

「うん……それで、ナタリアさんは多分教皇を支持していて、それが邪魔だと感じた枢機卿すうききょうが、今回のことを仕掛けたんだと思う」


 即興で作った割には、なかなかいい言い訳じゃないか。

 そんな自画自賛をしていると。


「ですが、いくら聖女とはいえ、まだ十五歳のナタリア様を、その……消すために・・・・このボルゴニア王国全体にまで及ぶような被害を与えたというのは、普通に考えられないのですが……」


 クラリスさん、素晴らしい指摘だなあ。

 やっぱり適当な言い訳だと、穴だらけになっちゃうよね。チクショウ。


「いえ、そうとは限りません。このボルゴニア王国は、西方諸国の最も西に位置することもあり、ミネルヴァ信者の数が少ない国でもあります。だからこそ教会は救済に乗り出すことで、信者獲得を図ろうとしたんだと思います」

「ん? だが、それとこれとは関係が……」


 オフィーリアの疑問ももっともだ。

 イルゼの説明だと、結局のところこのような被害を与えた理由の説明にはなら…………………………あ、そういうことか。


「あはは。さすがはイルゼ、よく分かったね」

「お褒めいただき、ありがとうございます」


 僕は最初から分かっていたかのようなふりをしつつ褒めると、イルゼは澄ました表情で優雅にカーテシーをした。

 だけど、口元は嬉しそうに緩んでいるけどね。こういうところ、すごく可愛い。


「だから、どういうことなんだ! 私にはさっぱり分からないぞ!」

「ちょ、落ち着いて! ちゃんと説明するから!」


 しびれを切らしたオフィーリアが声を荒げたので、僕は慌ててなだめた。

 まったく……しょうがないなあ。


「いいかい? ボルゴニア王国で信者を獲得するために、教会は救済に乗り出した。ここまではいいよね?」

「ああ」

「じゃあさ、もし今回の騒ぎがなければ、教会はどうしていたと思う?」

「? それは当然、救済などせずにそのままだが……」

「なるほど、分かりました。つまり、教会はボルゴニア王国を救済したいがために、自らそのような状況を作った。そういうことですね?」

「クラリスさん、正解」


 まあ、要はミネルヴァ聖教会によるマッチポンプだったってことだね。

 で、それを主導したのがロレンツォ枢機卿すうききょうで、ついでに聖女を合法的に・・・・始末する・・・・ことを考えたんだろう。


 本当に、頭にくる。


「どうだ、バティスタ。僕の推理は間違っているかい?」

「…………………………」

「沈黙は肯定と受け取らせてもらうよ。さて……これで、裏で手を引いている人物も分かったことだし、ボルゴニア王国に全てを……」

「ま、待て! 待つんだ!」


 バティスタが身をよじらせながら、必死に止めてきた。


「……なんだよ」

「そ、そんな真似をしたら、バルドベルクは教会を敵に回すことになるぞ! それでもいいんだな!」


 ジロリ、と睨んだら、このモブ聖騎士、訳の分からないことを言ってきた。

 なんでそれが、帝国と教会が敵対することになるんだよ。いい加減な。


「いいよ別に。父である皇帝陛下に進言して、教皇猊下げいかと手を組んで枢機卿すうききょうとその一味の排除に動くことにするから」

「フフ、そうだな。我がブリント連合王国も、帝国と足並みを揃えるとしよう。なあに、父上は話が分かるからな」


 チクショウ! せっかく忘れていたのにオフィーリアめ、余計なことを思い出させやがって!

 この件が終わったら、僕はリチャード国王に息の根を止められるかもしれないんだぞ!


 ハア……まあ、それは後で逃げる方法を考えるとして。


「じゃ、みんな行こう」

「はい」

「ああ」


 僕達四人は、縛られたままのバティスタを置き去りに……しようとして。


「ああ、そうそう」

「っ!?」

「……ナタリアさんに、見捨てられる準備をしとけよ」


 モブ聖騎士にその一言を残し、今度こそこの場を去った。

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