犯人は〇〇
「……もう、絶対にルイ様のお
「あ、あははー……」
今もなお口を尖らせて怒っているイルゼに、バツが悪い僕は苦笑しながら誤魔化してみる。
お願いだから、いい加減機嫌を直してほしいなあ。
なお、僕の身体は大量の『吸魔石』のおかげで、石化も解除されてすっかり元どおりになった。
濡れていたはずの服なんかも元どおり乾いているから、どんな原理になっているのか知りたいところ。
「そ、それよりイルゼは大丈夫だった? どこも怪我はない?」
「私の心配などより、ご自身の身を案じてください」
「ご、ごもっとも……」
うう、取りつく島もない。
だけど、見る限り無事のようだし、よかったよ。
僕なんかより、彼女に何かあったほうが耐えられないからね。
「ところで、『吸魔石』はちゃんとナタリアさんに渡してくれた?」
「……ナタリア様には、無事『吸魔石』を渡してまいりました」
「そ、そっか。ならよかったよ……」
ようやく少しだけイルゼの機嫌が直ったことも含め、僕は心から胸を撫で下ろした。
これで聖女も、すぐに回復するだろう。
「それで……ルイ様、この後はどうなさるのですか?」
「うん。もちろん、こんな真似をした連中に痛い目に遭ってもらうだけだよ」
といっても僕自身は強くないから、ヒロイン三人とクラリスさんにお任せだけど。
「お任せください。この私が、絶望と苦しみに
「うん、お願いだから無茶しないでね」
「そのお言葉、そのままお返しします」
イルゼをたしなめるけど、いつもと違って言うことを聞く様子は一切ないどころか、逆に皮肉を言われてしまった。
ああー……まだ怒ってる、よね……?
「と、とにかく、まずはその手掛かりをつかむとしよう」
「む……ルートヴィヒには、犯人の目星がついているのか?」
オフィーリアが、怪訝な顔をする。
「犯人までは分からないけど、きっと
「そうか……クラリス」
「はっ」
クラリスさんがオフィーリアの愛剣を差し出すと、オフィーリアが柄を握りしめた。
そして。
――ドオンッッッ!
「っ!?」
「このオフィーリア=オブ=ブリント、必ず犯人をすり潰してくれるッッッ!」
怒りに満ちた表情のオフィーリアは、大剣を地面に叩きつけた。
あまりの迫力に、僕は思わずたじろいでしまう。
「ク、クラリスさん。オフィーリアがものすごく気合い入ってるんだけど……」
「当然です。犯人は、怒らせてはいけない御方を怒らせてしまいました」
う、うわあ……あの冷静で空気を読むクラリスさんまで、メッチャ怒っているよ。
このあと待ち受ける惨劇を想像し、僕は思わず身震いした。
◇
「もうすぐ約束の時間です」
隣に立つイルゼが、懐中時計を見ながら教えてくれた。
朝早くから僕達は、『石竜の魔石』が沈んでいた池に来ている。
もちろん、こんな真似をした連中の手掛かりをつかむために。
「ところでイルゼ、
「はい。心の底から面倒だというような態度を取っておりましたが、
「そっか」
相変わらず、なんで
犯人聞くついでに、そのあたりも聞いてみよう。
などと考えていると。
「む……来たぞ」
オフィーリアが指差す先を見る。
あはは、確かにイルゼの言うとおり、面倒だと言わんばかりの顔をしているよ。
「まったく……ルートヴィヒよ、この俺を呼び出して何のようだ」
聖騎士の鎧を身にまといながら不愉快さを隠さずに現れたのは、聖女の従者であるバティスタだ。
「ああ、忙しいところ悪いね。ところで、ナタリアさんの容体は?」
「……残念ながら、回復の
「そっか」
どうやら聖女は、
下手に警戒されてしまったら、それこそ面倒なことになってしまうからね。
「早く用件を言え。俺は聖女様の
「ああ、ごめんごめん。いや、大した話じゃないんだけどね」
なかなか本題に入らない僕にしびれを切らしたのか、モブ聖騎士は苛立ちを隠さないでいる。
でも。
「ねえ、バティスタ。どうしてお前は、ナタリアさんと同じように病に侵されていないんだ?」
「……どういう意味だ?」
「いや、ポルガの街のほぼ全ての住民が……いや、ナタリアさんでさえ
「っ!?」
あはは、案の定顔色が変わったよ。
そう……僕は支援要請の手紙をもらった時、この男が病に侵されていないことに違和感を覚えた。
聖女は早い段階で
最初は聖騎士といっても馬鹿だから……ゲフンゲフン。鍛えているから
だって、老若男女問わず、ほぼ全ての人が病に侵されていたから。
そして症状から病ではないと分かった瞬間、全てを理解した。
これが『石竜の魔石』によって人為的に引き起こされたもので、バティスタは汚染水が原因であることを知っているのだと。
つまり……コイツは、あえてポルガの街で利用されている水を飲んでいなかったんだ。
「……全部説明してやらないと分からないのか?」
「…………………………」
僕達に睨まれ、バティスタが押し黙る。
このモブ聖騎士が一人だけでこんな大それたことができないだろうし、その裏に必ず首謀者がいるはずだ。
僕達は、この男の答えを待つ。
そして。
「……知りたくば、腕ずくでこい。この“醜いオーク”風情が」
バティスタは、鞘からゆっくりと剣を抜いた。
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