たくさん仲間ができました

「僕は……このバルドベルク帝国の皇帝になって、この国を変えようと思います……いえ、変えてみせます」


 左胸に手を当て、僕ははっきりと宣言した。

 とはいっても、そもそも皇太子なんだから次の皇帝になることは間違いない……いや、そうとは限らないか。


 今から四年後である『醜いオークの逆襲』の本編でも僕はまだ皇太子の立場で、それはトゥルーエンドを迎えても同じだった。

 なら、バッドエンドを回避するためにも、手っ取り早く僕が皇帝になっちゃえばいいんだと考えたんだよね。


 そうすれば……この僕に力があれば、大切な女性ひとを守れるから。


「あはは……といっても、エレオノーラ会長と同じように今の僕にはがありませんから、まだまだこれからなんですけどね……」


 こんな真面目なことを言ったものだから気恥ずかしくなり、苦笑しながら頭を掻いた。


 すると。


「うふふ……今はその覚悟だけで充分ではないでしょうか。それに、しっかりと足元を見た上で正しく考えておられるルートヴィヒ殿下なら、きっと成し遂げられるものと思いますよ?」


 クスリ、と微笑みながら、サファイアの瞳に慈愛をたたえて僕を見つめる、腹……いや、聖女ナタリア。

 まさか、彼女からこんなお褒めの言葉をいただけるとは思わなかった。


 腹黒で、ビッチで、すぐに西方諸国に働きかけて連合軍を結成して、捕らえて服従させてもあっさりと裏切って寝首を掻こうとする、あの聖女が。

 こう評価を並べたててみると散々だけど、敵同士じゃなくて味方だったりしたら、ひょっとしてゲームとは違う印象になるのかなあ……。


「それであれば、私達もルートヴィヒ殿下のお手伝いをしないわけにはいきませんね」

「…………………………」


 聖女とは裏腹に、露骨に嫌そうな顔をするモブ聖騎士。

 いや、ホント目障りだよ。


「よし! そうとなれば、私達で必ずエレオノーラ会長の企みを阻止するぞ!」


 凛とした笑顔を見せ、号令をかけるオフィーリア。

 いつの間にかちゃっかりとリーダーポジに居座るのは、さすがは第四王女で“狂乱の姫騎士”だなあ。


 まあ、喪男の僕にそんなポジは荷が重すぎるから、絶対にお断りだし全部お任せするけど。


 そ、それよりも。


「その……オフィーリア殿下も聖女様も、それにクラリスさんも、こうやって一緒に手伝ってくれる仲間、なので……」

「? ルートヴィヒ殿下、どうした?」

「い、いや、だから、僕の名前を呼ぶのに『殿下』はいらないですから」


 うう……これは、ちょっと調子に乗り過ぎただろうか……。

 だ、だけど、前世も含めて僕にとって初めてできた仲間だから、もっとそれっぽい呼び方に憧れるのは、仕方のないことだと思わない? 思わないかー……。


「フフ……そうだな。なら、これからは“ルイ”と呼んでもいいかな?」

「あ、普通に“ルートヴィヒ”でお願いします」

「そ、そうか……」


 断られてしょぼん、とするオフィーリア。

 だけど、その呼び方だけは譲れない。


「うふふ、ではルートヴィヒさんも、私のことは“聖女様”ではなく“ナタリア”とお呼びください」

「はい、その……ナタリア、さん……」

「はい♪」


 くそう、腹黒ビッチのくせに清楚を振りまきやがって。

 本性を知らなかったら、絶対に騙されて骨抜きにされて、『醜いオークの逆襲』ヒロインランキングのトップスリーに入っていたところだよ。


「うむ! なら私のことは、“リル”と呼んでくれ!」

「ええ、“オフィーリア”」

「ルートヴィヒとの間に壁を感じる!?」


 いやいや、愛称で呼んでくれと言われても、前世の記憶があるからどうしても“オフィーリア”のほうがしっくりくるんだよなあ。

 だから、オフィーリアはオフィーリアなのだ。


「クラリスさんは……引き続き、クラリスさんで」

「分かりました、ルートヴィヒさん」


 笑顔のクラリスさんのあまりの眩しさに、目を細めてしまう。

 そういえば、クラリスさんも親衛隊というモブキャラだけど、メインヒロインに負けないくらい可愛いよね。


 というか、前世込みで友達ゼロの僕が、まさか女の子の仲間がイルゼを含めて四人もできるなんて、思いもよらなかったよ。


「…………………………フン」


 そんな僕が気に入らないのか、鼻を鳴らして顔を背けるエセ聖騎士。

 心配するな。僕もお前みたいな仲間はいらないから。というか、むしろ敵認定しているから。


「じゃあ、もうこんな時間だし、みんなで食堂に行って夕食にする?」

「うむ! そうしよう!」

「うふふ、いいですね」

「はい!」

「…………………………」


 ということで、僕達は笑いながら食堂へ向かう、んだけど。


「イルゼ?」

「ルイ様……どうして、ですか?」


 僕の制服の袖を引き、イルゼが上目遣いでおずおずと尋ねる。

 彼女の言う『どうして』というのは、多分、オフィーリアに“ルイ”と呼ばせなかったことについて、ってことでいいのかな? いいんだろうな。


 だったら。


「……“ルイ”って、僕にとっては特別・・な名前なんだ。だからこれは、僕の特別・・女性ひとにだけ、呼んでほしいから……」

「あ……」

「さ、さあ、行こう!」

「っ! はい!」


 恥ずかしくなった僕は、誤魔化ごまかすためにイルゼの手を引いて先に歩くみんなに合流した。


 でも……君のその涙は、嬉し涙ってことで、その……いいよね?

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