やり方がちょっと古典的だと思う

「いらっしゃ……まあまあ、今日はまたすごい顔ぶれですねー……」


 帝立学院を出て、早速情報ギルド兼食堂の扉を開けると、お姉さんは僕達を見て目を見開いた。

 でも、口振りからしてオフィーリアと腹黒聖女のことも知っているみたいだ。


 痩せた僕の正体も見抜いたくらいだし、情報ギルドなら当然か。


「ほう……このような場所に、こんな店があるとは知らなかったよ」

「うふふ、そうですね」


 店内を眺めながら、オフィーリアと腹黒聖女が呑気に話す。

 その隣では、店の雰囲気で色々と察したクラリスさんが、手を合わせながら僕たちに全力で謝っているけど。


 うん……この中で空気が読めるのは、クラリスさんしかいなさそう。

 腹黒聖女なんて、むしろ僕達の邪魔ができたことを楽しんでいるようにすら思えるし。


 そんなことより。


「……なんだ?」

「いいや、何にも」


 こんなにファンシーな食堂なのに、特に気にする様子もなく自然に振る舞うバティスタに、僕は苛立ちを隠せない。

 ちょっとイケメンだからって、少しは落ち着かないとか、キョドった素振りを見せろよ。


 あれか? こういったお店は、普段からデートに使っているから慣れているとでも言いたいのか?

 いいかい? “醜いオーク”で喪男の僕にとって、全てのイケメンは敵なんだよ。よく、覚えとけ。


「それで、ご注文は何になさいますかー?」


 そんな僕のどす黒い感情なんてお構いなしに、お姉さんは今日も胸の谷間を露わにしながら水を置く。

 思わず盗み見しそうになるけど、前科がある僕はイルゼから強烈に監視されているので、さっきからテーブルをジッと見つめていますが何か?


「それじゃ、『季節のフルーツのフラペチーノ』をトールで」

「かしこまりましたー」


 注文という名の合言葉を告げると、お姉さんは笑顔でカウンターの中へ入っていく。

 だけど、今日は四人もオマケがいるせいなのか、店の奥へ案内してくれない。


 ……これは、出直したほうがよさそうだな。

 イルゼも同じことを考えたみたいで、僕を見ながら頷いた。


 そして。


「お待たせしましたー。『季節のフルーツのフラペチーノ』のトールですー」

「んん!?」


 テーブルに置かれたフラペチーノを見て、僕は思わず目を見開いた。

 ストローが一本しか刺さっていないフラペチーノが四つと、二本刺さったものが一つ。


 しかも、ご丁寧に二本刺さったものは僕とイルゼの前に置かれている……。


「んふふー。お二人はこちらでよろしかったですよねー?」


 私ってば気が利くんだから、任せて頂戴! とばかりに、メッチャ含み笑いをしながらサムズアップしてくるお姉さん。

 いや、もちろん僕はこれをものすごく期待していたよ? 何なら、これのために今日が待ち遠しくて仕方がなかったと言っても過言じゃない。


 だからって、他の人達がいるのにあえてこうするってどうなの?

 ただでさえイルゼが僕の慰み者なんてレッテル貼られたりしているのに、オフィーリア達が誤解しちゃったりなんかしたら、目も当てられないんだけど。


 じゃあ、『これは誤りです』と言って取り替えてもらうかというと、そんな気は僕にはない。

 それくらい、イルゼと一緒に飲むフラペチーノが楽しみだったんだよ。


 だから……オフィーリア達が憎い……!


「む……そ、そうか……これはすまないことをした……」

「うふふ、そうですね」


 ようやく察したオフィーリアが申し訳なさそうに頭を掻く隣で、『最初から分かっていましたよ』とばかりに微笑む腹黒聖女。だったら最初から遠慮しろ。

 クラリスさんなんてさらに恐縮しちゃっているし、逆にこちらが申し訳なく思ってしまうくらいだというのに。


「……このままだと溶けてしまいますので、せっかくですしいただきましょう。ええ、そうしましょう」


 どうやら覚悟を決めたらしいイルゼは、真剣な表情で僕を見つめながらフラペチーノのストローに手をかける。

 だ、だけど、知り合いの前で一緒に飲むの、メッチャ恥ずかしい……って。


「そ、その、距離が遠いね」

「あ……そうですね」

「だったら、私と席を替わろう」


 僕の隣に座っていたオフィーリアが急に気を利かせるかのように立ち上がり、正面に座るイルゼと入れ替わる。

 これで僕とイルゼが隣同士になって、フラペチーノを飲みやすくなった、んだけど……。


「「「「…………………………」」」」


 四人が僕達のこと、メッチャ見ている。

 それこそ、早く飲めと催促するかのように。


「ルイ様」


 名前を呼び、イルゼはコクリ、と頷く。

 うう……覚悟、決めるかあ……。


 僕とイルゼはこの前と同じように肩を寄せ合い、ストローに口を近づける。

 綺麗な彼女の顔が至近距離にあり、視界の端にはメッチャ興味深そうに見つめる三人の女子。

 なお、モブ聖騎士も気になるのか、興味ないといった態度を見せながらチラチラとこちらを見ているので鬱陶うっとうしい。


 だけど。


「…………………………」


 どうしても、僕はイルゼに釘付けになっちゃうよ。

 だって、こんなに素敵な女の子と一緒に、こんなことをしているんだから。


 僕とイルゼは、お互いに見つめ合いながらフラペチーノを口に含む……って。


「イ、イルゼ!」

「はい……!」


 思わずフラペチーノを飲むのを忘れ、敷かれていたコースターに注目する。


 そこには。


『ご依頼の件、承りました』

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