二対一の勝利
「開始からずっと防御に徹しているから、この立ち合いもすぐに終わるかと思ったが……まさかここまで善戦し、楽しませてくれるとは思わなかったぞ」
「それはどうも」
コッチはギリギリで攻撃を受け止め続けているから、少しも楽しくないんですけどね。
でも……オフィーリアが剣を振るっている姿に、気高さと美しさを感じた。
ひたすら防御しないといけないのに、思わず彼女に見入ってしまい、動きが一瞬止まってしまうようなことも何度かあった。
あはは……認めたくないけど、彼女だって『醜いオークの帝国』の押しも押されぬメインヒロインの一人、なんだよな……。
だからって、イルゼを侮辱したことは許さないけど。
「それで? オフィーリア殿下の攻撃はこれでおしまいですか? このとおり僕は無傷ですし、まだまだ元気ですけど」
そう言って
「面白い! なら……これを受け切れるか!」
「っ!?」
オフィーリアは大剣を水平に構え、両脚を広げて思いきり身体を
これは……必殺スキル、【ストームブレイカー】か!?
「全てを斬り裂く、このオフィーリア=オブ=ブリント全身全霊の剣、受けてみるがいいッッッ!」
その全身からみなぎる気迫を全て両腕……いや、大剣に込めて、オフィーリアは吠える。
それは絶対的強者の……獅子の
さあ……ここが正念場だ。
彼女の渾身の一撃、絶対に受け止めてみせるッッッ!
「ストーム……ブレイカアアアアアアアアアッッッ!」
「っ!?」
必殺の技の名前を叫びながら、オフィーリアは大剣を振るう。
僕は恐怖で震え、カチカチと鳴らす歯を思いきり食いしばった。
そして。
「うああああああああああああああッッッ!?」
僕は……衝撃で空高く吹き飛んだ。
これこそ、【ストームブレイカー】のスキル効果。
オフィーリアの半径三マス内にいるユニット全てに極大ダメージを与え、さらに十マス先へと弾き飛ばす、必殺の剣。
宙を舞いながら、僕は大剣を振り切った体勢のままこちらを見上げているオフィーリアの姿を見据える。
これで。
――
「っ!?」
大勢の観客の中から飛び出した、藍色の髪の女子生徒。
僕の大切な
「……終わりです」
マウントを取ったイルゼは制服の下からダガーナイフを抜き、抵抗を見せないどころかピクリとも動かないオフィーリアの眼前で振りかぶった。
――ドスン。
「イテッ!?」
背中から地面に叩きつけられる格好になった僕は、思わず声を上げてしまった。
いや、一応受け身は取ったけど、あれだけ高い所から落ちたら、それなりに痛いんだぞ?
こんなの、普段から三階建ての建物の高さから落ちて受け身を取る練習をしてないと、下手をしたら死ぬから。
いやあ、ここでもイルゼの特訓の成果が……って!?
「【エクストラヒール】!」
突然、可愛らしい声の叫びとともに、まばゆい光のエフェクトが僕の身体を包んだ。
え? え? これって……ひょっとして。
「うふふ、お身体はいかがですか?」
振り返ると、クスクスと笑う腹黒聖女が従者の聖騎士バティスタと一緒にそこにいた。
「あ、あのー……これは?」
「さすがにあのような高さから落ちたら致命傷は避けられないでしょうし、それ以前にオフィーリア殿下のすさまじい一撃を受けたのですから」
ああー、なるほど。
一応、僕のために聖女が回復魔法をかけてくれたってことか。
でも、いくらなんでも上級回復魔法の【エクストラヒール】はやり過ぎのような気がする。
だって僕の怪我、背中の打ち身くらいしかなかったし。
「で、ですが、どうして僕を助けようとしてくれたんですか? 僕は“醜いオーク”なのに……」
「たまたまこの近くにおりましたので、
腹黒聖女が、ニコリ、と微笑む。
いやいや、
……腹黒聖女だから何か意図がありそうだけど、とりあえず。
「そ、その、助けていただきありがとうございました」
「うふふ、どういたしまして。それよりルートヴィヒ殿下、あちらはよろしいのですか?」
「へ? あちら? ……ってえっ!?」
イルゼが今まさにオフィーリアの息の根を止めようとしてるううううう!?
「ま、待ってええええええええええええッッッ!」
腹黒聖女にお辞儀の体勢から、僕は大声で叫びながらイルゼとオフィーリアの元へ全速力で駆け寄った。
「っ! ルイ様、ご無事でしたか!」
「聖女様が回復魔法をかけてくれたから、僕なら大丈夫。それより、これ以上手出しする必要はないよ」
振り返るイルゼの、ダガーナイフを握る両手を押さえて止める。
ふう……危うくイルゼがとどめを刺しちゃうところだったよ……。
「……まさかとは思うが、貴様……いや、
黄金の瞳で見据えながら尋ねるオフィーリアに、僕は無言で頷いた。
そう……彼女の必殺スキル、【ストームブレイカー】は高火力で付与効果も高い反面、弱点がある。
敵に極大ダメージを与えて弾き飛ばした後、二ターン行動不能に陥ってしまうんだ。
そのことを前世でプレイヤーだった僕は当然知っていて、この技を引き出すためにひたすら守りに徹していた……というか、僕にはそれしかできなかった。
下手に攻撃を仕掛けたりなんてしようものなら、僕は大剣をこの身体に叩きつけられて、一騎討ちは即終了していたはずだ。
そしてもう一つ。
オフィーリアは僕達に確かに言った。
『そうか? なら、貴様の従者であるイルゼも加えた二対一でも構わんぞ』
だから、【ストームブレイカー】を放った後の硬直を狙えば、凄腕の実力者であるイルゼなら、簡単に倒すことが可能なんだ。
とはいえ。
「おい……これって卑怯じゃないか?」
「そうだ。元々はオフィーリア殿下と“醜いオーク”との一騎討ちってことだろう」
「卑劣で卑怯で、最低な“醜いオーク”のやりそうなことだわ」
……まあ、こうなることも予想はしていたけどね。
だけど、卑怯で結構。
僕は絶対にオフィーリアを倒さなければいけなかった。
イルゼの、名誉を守るために。
「……か・え・れ、か・え・れ」
観客の中から、男子生徒の一人が呟く。
「そうだ! 卑怯者は帰れ!」
「ここに“醜いオーク”の居場所なんてないのよ!」
「「「「「か・え・れ! か・え・れ! か・え・れ!」」」」」
それが大きなうねりとなり、訓練場に怒号と帰れコールが巻き起こった。
あははー、帰れも何も、帰る先は貴様達と同じ寄宿舎なんだけど。
まるで余裕ぶって苦笑を浮かべているけど、こういう炎上案件はかなりメンタルやられます。
だから前世でも、SNSは嫌いだったんだよなあ。
その時。
「黙れえええええええええええええッッッ!」
「「「「「っ!?」」」」」
そんな観客の声をいとも簡単に掻き消してしまうほどのオフィーリアの絶叫が、訓練場にこだました。
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