第18話 遠い存在
フィオラ嬢が隣国ローザンヌ帝国の皇女であり、伝承名高い聖女であったのだと、その時初めて知った。
「これにて、一件落着ですね」
「やったね、フィオちゃん!」
ジルベール達を連行させた後、フィオラ嬢に気さくに話しかける二人の男性の姿があった。あれは確か、隣国ローザンヌ帝国のカイル皇子とライオス皇子だ。
「カイルにライオスまで、こちらに来てたのね」
「ええ、過保護なお祖父様に頼まれましてね。何かあれば守ってやれと」
「でも、僕達の助けは必要なかったみたいだね。格好よかったよ、フィオちゃん!」
「見られていたのは、少し恥ずかしいわ。声をかけてくれればよかったのに。でも心配してくれてたのね、ありがとう」
「それは勿論、お前は俺達にとって大事な家族だからな。それにこの件が片付くまでは、秘密にしておきたいと言っていただろう?」
「そうだよ! これでやっとローザンヌに帰って来てくれるんだよね!」
「そうね。私がここに残る理由も、もう失くなってしまったし。それに、お兄様の邪魔はしたくないもの」
「ど、どういう意味だ、フィオ!」
「あちらで、クリスティアーナ様が待ってるわよ。お兄様」
「ほほぅ、あの令嬢がレイスの婚約者か……」
「わぁーすごく美人だね!」
「こら、カイル! ライオス! そんな不躾に見るんじゃない!」
和気あいあいと楽しそうな様子の彼等に私が話しかけるのを戸惑っていると、フィオラ嬢と目が合った。
「アズリエル様」
ふわりと柔らかな笑みを浮かべて、私の名前を呼んだフィオラ嬢はこちらへやって来た。
「お騒がせして申し訳ありませんでした。それと、見守っていて下さってありがとうございました」
「お礼を言われるような事など、私は何も出来ていません。それよりも、弟がまた失礼な事をして、誠に申し訳ありませんでした」
「そんな事はありません。アズリエル様のように次期国王として相応しい素敵な方が居てくださるおかげで、その……私はジルベール様に思いっきり仕返しが出来ました。だから、ありがとうございます。これで心置きなくローザンヌへ行けますわ」
「やはり、あちらへ帰られるのですね……」
「ジルベール様の件も片付いたので、そのつもりです。ですがご安心下さい! 兄はこちらに残ってロバーツ公爵家を守っていくので、今までと変わりませんよ」
レイが残ってくれる事は嬉しいけれど──
「貴方に会えなくなってしまうのが、とても残念で心苦しいです」
思わず心の内が漏れてしまった。
「アズリエル様……?」
困ったように微笑むフィオラ嬢を見て、その失態に気づく。
「ご安心ください。ローザンヌ帝国とルクセンブルク王国は親善関係にありますし、両国を行き来する機会も多々あると思います。もしこちらに来られた際には、是非お声かけ下さいね?」
「よ、よろしいのですか?」
「はい、勿論です。精一杯おもてなしさせて頂きますわ」
「ありがとうございます!」
社交辞令だとしても、あちらへ行く口実が出来た事が嬉しくて仕方なかった。
両国の重要な式典などには、お互いに親善大使を遣わせているため、その役目を勝ち取れば、堂々とフィオラ嬢へ会いに行く事ができるはずだ。
これでおわりではない。
ここから少しずつ、私の事を知ってもらって、彼女の事をもっと理解していきたい。そうしていつか今よりも親しい関係を築けたら、その時に初めて……私の気持ちを伝えてみよう。
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