第85話 5.うじ茶のように渋く甘くすっきりと(13)
なんとか顔の痙攣を抑え込むと、それを見計らったかのように小野様は僕に向き直った。
「さてそれでは、私付きの特別補佐となった古森に早速指示を出す」
「あ、はい!」
僕に出来る仕事だろうか。少しだけソワソワとしながらも、僕はピシリと姿勢を正す。
「そなたにはこれから、現世にて研修を行なってもらう」
そういえば、そんな事を言われていたと思い出す。
「あの、現世でどのような研修をするのですか?」
「そなたはこの五日間で、気持ちを大切に出来る様になった。今回の研修では、それを魂に定着させてくるのだ」
「えっと……それは、どう言う……?」
「そなたには、これから現世時間経過で五拾の
僕は小野様の言葉が瞬時に理解できなくて、しばしの間押し黙る。
なるほど…………
「え゛っ?」
「なんだ?」
首を絞めたような疑問の声に、小野様は訝しげに反応する。
僕の胸はもう動いてはいないはずなのに、ドキドキと脈打っているような気がした。
「あの、つまりそれは……」
期待しすぎるなと自らを制しようとするが、なかなか胸の高まりは収まらない。僕はゴクリと喉を鳴らす。
「それは……もしかして、生き返ると言うことでしょうか?」
まさかとは思いながらも、震える声で小野様に確認する。
「厳密に言うと違うのだが、まぁ、そう解釈してかまわない」
小野様は、眼鏡のレンズをキラリと光らせ、とても真面目な顔で頷いた。
「ほ、本当ですか?」
「うむ」
「で、でも、なぜ? なぜ、僕が生き返ることになるのですか? 先ほど、特別補佐になったばかりなのに」
小野様は、これ見よがしに軽くため息を吐く。
「先ほど言ったではないか。自我の強いそなたでは、ここで研修を行うことは無理なのだ。思いが現世に縛られすぎている。未練を解消してこい。そのためにも研修先を現世としたのだ」
「未練ですか?」
不意に家族の顔が思い浮かぶ。
「今回、そなたは不慮の事故によりこちらへ来たわけだが、事故に遭わなければ天寿を全うするのは八拾の齢であったのだ」
「八十!! 僕、八十歳まで生きるはずだったのですか!?」
思わず声が高くなる。確か、平均寿命がそれくらいだと何かで読んだような気がするけれど、まさか自分に人並みに年を重ね続けていく未来があったとは、想像したことがなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます