第53話 4.とうもろこし色のヒカリの中で(2)
いじけて研修から戻った僕に、事務官小野は冷ややかな視線を向けただけで何も言わなかった。
彼は、その日の研修がうまく行われたかどうかを確認するのが仕事であって、研修のクリア如何は気にする事柄ではないのかもしれない。研修が達成されなければ、最恐レベル行きを決定するだけなのだから。
ただ、小鬼は部屋の淀んだ空気を感じてか、オロオロとしていた。彼だって冥界区役所の職員なのだから、小野のように淡白に仕事に向き合うべき立場なのだろうけれど、彼はまだ淡白にはなりきれないようだ。「明日は、頑張りましょう〜」とぎこちない笑顔を貼り付けながら僕の手を強く握り、励ましの声を掛けてくれた。
彼の思いに応えたいし、僕だって最恐レベルの地獄は回避したい。
しかし、既に結果は出てしまっている。残されたあと一度の研修を無事にクリア出来たとしても、今回の結果が変わるわけではない。
これ以上ここにいて、この訳の分からないものを続ける意味はあるのだろうか。
こんな投げやりな態度は良くないと思う一方で、これが本来の僕なのだと否定的な自分を受け入れる。そして、後ろ向きな思考にどんどんと呑み込まれる。
悪循環どころか、どんどんと出口の見えない暗闇へと嵌っていく。そして、自分がその暗闇に嵌っていることさえいつしか感じなくなった頃、ピンポーンと玄関チャイムのような音が僕の耳に微かに届いた。
虚な目を虚空に向けると、小鬼と事務官小野がパッと室内に現れた。
「古森さん〜、おはようございます〜」
小鬼は、いつもより少し声のトーンを落としつつペコリと頭を下げる。
「ああ。うん」
僕もかなりのローテンションでそれに応えた。
そんな覇気のない僕の様子に、事務官小野は眉間に皺を寄せる。
「なんだ。まだ、そんな辛気臭いツラをしているのか。そんなことでは、本日分の研修は熟せないのではないか?」
事務官小野の言葉は、僕の耳を殆ど刺激しない。
「はぁ。そうですね」
そんな全くやる気のない声を出す僕のそばへ、小鬼はパタパタと掛けてきて、先ほど別れ際にしたように僕の手を強く握った。
「しっかりしましょう、古森さん〜」
虚な目で小鬼を見れば、いつものような天真爛漫な笑顔ではないが、それでも、この世の終わりを思わせるような沈んだ表情でもなく、どちらかと言えば、明るい顔をしている様に見える。
そんな表情を見せる小鬼に、何故なのかと恨めしい疑問が僕の心を占め、それが態度に出てしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます