第4話 1.あんず色の世界で(4)

 小鬼の言葉に促されて、薄ぼんやりとしていた僕の記憶が次第にはっきりとしてきた。


 僕はいつものように小銭だけを持って、自宅から徒歩5分もかからない近所のコンビニへ漫画雑誌を買いに行った。そして、いつものように雑誌が陳列してある棚へ行き、いつものようにしばし漫画雑誌の立ち読みに耽っていた。いつもならば、そのあと、その雑誌だけを買って帰路に着く、なんの変哲もない大学生の日常なのだが、今日は違った。


 駐車場を物凄いスピードで突っ切ってきた車が、そのまま店に突っ込んで、雑誌の陳列棚と立ち読みをしていた僕を一緒になぎ倒した。


 僕の記憶ではそこまでなのだが、小鬼曰く、どうやらその事故に巻き込まれた僕はそのまま絶命し、いわゆる黄泉の国への入り口を潜ろうとしていたらしい。


「つまり、僕はあの事故で死んだってこと?」

「そうです〜。ご理解頂けて良かったです〜」

「あー、えーっと、因みに、どうしてあんな事故が起きたのか、キミは理由を知っているかい?」


 顔から焦りの色が消えた小鬼は、ニカっと笑った。小鬼の癖なのだろうか。やけに間延びした語尾が、どうにも緊迫感を遠ざける。つられて僕もどうでもいいことを聞いてしまった。僕の問いに、小鬼は首から下げていたタブレットらしき端末を数回スクロールさせる。


「あ、はい〜。情報によると、車の運転手は、風邪薬を服用後に運転をしていたようです〜。発熱と薬の作用とで、意識が朦朧となり事故を起こしたようです〜」

「そ……、そんなことで僕は死んだの?」

「ご愁傷様です〜」


 全く心の籠もらない慰めの言葉を口にしながら、小鬼は読んでいた端末から目を離した。彼は何処か楽しげである。僕は、こんな状況なのにと憤慨しかけて、しかし、他人事なのだから致し方ないのかもしれないと思い直す。


「僕が死んだことはわかったけど、それで、この状況はどう言うこと?」

「あ、はい〜。古森さんには、別室待機の指示が出ましたので、こうしてお迎えに参りました〜」

「ちょ、ちょっと待って……順を追って説明してもらえるかな?」


 小鬼曰く、僕は黄泉の国へと続く道を他の死者たちとともに進んでいた。黄泉の国へと続く道とは、先ほどまでいた、あんず色の世界のことだ。


 あの道の先には、天国や地獄、他にもよくわからないけれど、それぞれの行き先へ繋がった門が6つあり、各門をくぐること、すなわち黄泉の国へ行くことで、魂と肉体はすっぱりと切り離されるらしい。

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