赤髪騎士の拗らせ愛

しろねこ。

再会

冒険者になっていたフローラは、久々にミューズと会った。


街を歩いていたら偶然再会したのだ。


「フローラ、フローラよね?」

目が合い、ミューズは嬉しそうに駆け寄ってくる。


愛され、母になり、ますます美しく輝く友人を見て、フローラは眩しそうに眼を細める。


優しさと、慈愛に満ちた公爵夫人として、遠くの街でも噂を聞いていた。


そんな彼女と友人であることが、フローラは誇らしかった。


「元気だった? 体は大丈夫? 今はどこに住んでいるの?」

ミューズは矢継ぎ早に質問を投げかけ、フローラに抱きつく。


「ちょっ、ドレス汚れるわよ」

一介の冒険者に抱きつく公爵夫人がどこにいるの、と嗜める。


しかしミューズは離れない。


「友達なんだからいいのよ、汚れなんて気にしないわ。あなたに会えて嬉しい気持ちの方が勝ってるもの」

そういうミューズはにこやかな笑顔をしていた。


フローラとミューズは学生時代の友人だ、ある時を堺に会わなくなってしまったので、こうして久々に会えたのは喜ばしい。


「ミューズ様、失礼するです」

従者のマオが、そっと声をかける。


「もし良ければ屋敷に来て頂き、積もる話をするのはどうですか? 往来では目立ちますので。もちろんフローラ様が良ければなのですが」

本日ミューズは買い物をするために街に来ていた、公爵家の家紋の入った馬車で、道端での立ち話は目立ちすぎる。


「フローラ一緒にどうかしら?」

ミューズの言葉に断ろうとしたフローラだが、その側に寄り添う仏頂面の護衛騎士のライカが、返事も聞かずに馬車の入り口を開け、「どうぞ」と促してきた。


これでは断り辛い。


「ご一緒にどうぞ。マオは御者の隣へ乗るといい」

ライカがどんどん話を進める。


有無を言わさぬ態度だ。


「さぁ、フローラ様」

ライカが再度、強引とも言える勢いで声を掛けてきた。


「では、少しだけ……」

断ることは出来なさそうで、一緒に公爵家に向かう形となってしまった。


ミューズと共にフローラも馬車に乗り込む。


会話は弾んだ。


会っていなかった時を埋めるように話をしたり、近況を改めて語り合った。


久々の友人との会話は楽しい、それ故に今の自分の境遇を惨めに思う。


ミューズも気を遣ってくれてるのか、フローラの今の生活について深く聞いてくることはなかった。


(私は何もなし得なかった)

自分で選んだ道だったはずなのに、今は後悔している。


ミューズのように愛らしければ、今とは違う道があったのでは?


剣を持たずに淑女として大人しくしていれば、彼女のような幸せが訪れたのでは?


貴族として生きていくことをよしとして、冒険者になどならなければ少なくとも食べていくことに困ることもなかったのでは?


悶々とした思いは胸の中で膨れ上がっていく。







着いた屋敷は相変わらずきれいだ、よく遊びに来たのを覚えている。


人も増え、庭も整えられ、ミューズの生活が充実してるのが見て取れた。


「お久しぶりです、フローラ様」

屋敷にいたルドが挨拶をする。


学生時代、彼ともよく顔を合わせた。


ティタンとミューズの護衛として働いていたが、この双子の騎士は変わらず

に仕えているようだ。


「もはや貴族ではないので、敬語は不要です」


「俺の中では何も変わりません。あなたはミューズ様の大事な友人です」

にこりと笑う真面目な騎士、もともと彼は誰に対しても敬語だったなと思い出した。



「こちらにどうぞ、フローラ様」

案内してくれた侍女も覚えている。


ミューズの専属侍女として働いている、小動物のように元気に動く子だ。


「ベリーのクッキーお好きでしたよね。こちらの紅茶に合わせてぜひお召し上がりください」

何年も経つのに好みを覚えてくれている、この屋敷の者は本当に優しくてよく気が付くものばかりだ。


「ねぇ、ライカ。何かいう事はないの?」

こそっと陰で先程の侍女、チェルシーとライカが話すのが見える。


そう言えば二人は昔から仲が良く、よく話しているのを見た。


従者のマオを交え、三人でいるのはよく目にしたものだ。


そのライカがちらりとこちらをみたのでフローラは何となく目を反らす。


「特にはない」

硬い表情と声、チェルシーはふぅんと言うと、ルドに呼ばれ、ライカから離れた。


「フローラはよくライカやルドと体を鍛えていたわよね」

ミューズは紅茶を飲みながら、昔に思いを馳せる。


「よく鍛錬していたけど、とても綺麗な体裁きだったのを覚えているわ。後で剣を振るうのを見せてくれない?」

ミューズの促しに、フローラは考える。


「そんな大したものではないもの。剣の腕ならばティタン様の方が数段強いのだから、私のなんて見なくても……」


「俺もぜひ見たいですね。良ければ一緒に手合わせしませんか?」

断りをいれたのにライカが申し出てくる。


「セレーネ様もきっとお喜びになります。女性で剣の使い手はこの辺りでは珍しい。セレーネ様の為にもいかがでしょうか?」

セレーネはミューズとティタンの娘だ。


「いいですね。チェルシー、セレーネ様に声を掛けてきてもらえますか?フローラ様、鍛錬場はこちらにあります。一緒にどうぞ」

ルドの案内にフローラはまたも流されてしまう。


ここの屋敷の人たちはこんなにも強引だったろうかな?


首をかしげつつ、ミューズに手を引かれて歩いていく。






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