第19話 連絡先を交換する

 その後、俺が席に座ると……隣にいる葉月が、顔を上げる。


 そして隣に座る俺に、こそっと……。


「お、おはよ」


「お、おう。というか、さっきも言ったが」


「あ、あれはただのイベントよ。こっちは普通の……友達として」


「なるほど」


 やはり、友達ってことか。


 いやはや、これだから陰キャは……すぐに勘違いしそうになる。


 ……ん? 友達? 友達としては付き合ってくれるってことか。


「なんで笑ってるの?」


「い、いや、何でもない」


 友達すらいなかった人生とはいえない……我ながら悲しすぎて。


 そうか……嬉しいな。


 自分の趣味を理解してくれて、それを好きだと言ってくれる友達がいるって。


「変なの……まあ、元からか」


「おい、聞こえてるから」


「知ってるし……と、というわけで……」


 急に、何やらもじもじしている。


 どうでもいいけど、谷間が出来て素敵ですね。


 ……どうでも良くなかった、最高です。


「聞いてるの?」


「お、おう」


「まったく……ライン教えなさいよ」


「あん?」


「昨日みたいに連絡取れないと、急に家に行った時困るし」


 その瞬間——男子たちから睨まれる。


「と、とりあえず! 後でな!」


 ぼっち陰キャの俺が、そんな視線に耐えきれるわけもなく……。


 今度は、俺の方が机に突っ伏すのだった。




 その後、昼休みになると……。


「ほら、いこ? さっきの続き」


「帰りでよくないか?」


「今日は急いで帰らないといけないから。その……」


「……ああ、わかったよ」


 きっと、弟と妹の世話があるってことだろうな。


 姉貴も……こんな風に友達の誘いを断ってきたのだろうか?




 いつもの校舎裏に向かい……。


「ひとまず、風邪が治って良かった」


「……見舞い、ありがとな」


「べ、別に……私のせいだって思っただけだし」


 そう言い、髪の毛先をいじる。


 ……照れてるのか? ……クソォォ! 可愛いじゃねえか!


「それで……結局、どういう意味だ?」


「だから、ラインを教えてって」


「そうじゃなくて……俺の家にくるって話だ」


「ああ、それは……べ、勉強になるかなって。君の部屋、いっぱい漫画とか小説とかあったから。それを参考にできるかなって」


「なるほど……」


 布教活動の一環としてはありかもしれない。


 忘れがちになってしまうが、葉月はカースト最上位の女子だ。


 どれくらい最上位かというと……俺とこんな感じなのに、一向に悪口やいじめが発生しないほどに。


 そんなことでは、揺るがないくらいの女子ってことだ。


 故に、他者に与える影響も大きいと思う。


 ……ほんと、俺とは釣り合いが取れないな。


 いや、別に釣り合う必要もないが。


「それに、そういうイベントだってあるでしょ?」


「ん?」


「その……す、好きな人の家に、女の子が遊びに行くってイベントとか」


「お、おう……まあ、よくあるな」


「別に、君のこと好きってわけじゃないけど……イベントに付き合うくらいは良いかなって」


「葉月……いいやつだな、お前」


「へっ? そ、そうかな?」


「ああ、いいやつだ。友達になれて良かったよ」


「友達……」


 その表情は、なんだか複雑そうに見える。


 ……しまったァァァ! 陰キャの悪い癖がでたァァァ!


 さっき友達とか言われて勘違いした!


「……す、すまん。友達なんて言ってしまった」


「へっ? い、いや、良いけど……むぅ」


「な、なんだよ? なんで不機嫌な顔するんだ?」


「してないし! とにかく! さっさと教えなさい!」


「わ、わかったよ」


 ほんと、女子ってわからん。


 友達って言ったら怒って……違うって言っても怒るし。


 こんなんだから、ラブコメがわからないとか言われるんだろうなぁ。





 その後、昼飯を食べつつ、連絡先を交換する。


「これでよしと」


「……」


「どうしたの?」


「いや……女子とライン交換したの初めてだと思ってな」


 たった今、気付きたくないことに気づいてしまった。


……別に悲しくないやい。


「そ、そうなんだ……初めてをもらっちゃうね?」


 わざとらしくあざとい感じで、両手を後ろで組みながら首をかしげる。


 ……可愛いかよっ!


「おう。もらってくれや……」


「ちょっと、そんな悲しい顔しないでよ」


「悪い……とりあえず、飯食うか」


 再びパンをかじり、スマホをいじる。


うーん……今日の伸びはいまいちか。


「いつも同じものばかり食べてるよね?」


「あん? ……まあ、そうだけど」


 俺のお決まりのカツサンドと、たまごパンだ。


 あと、たまにクリームパン。


「そんなんじゃ、身体を悪くすると思うけど?」


「ぐっ……」


 それは、姉貴にも言われてることだ。


 あと、先輩作家さんたちにも。


 プロを目指すなら、体調管理が必要になってくるらしい。


「そうすると、昨日みたいに風邪をひいたりするかもしれないし」


「……否定はできない」


 そもそも、最近は体調が良いとは言えなかったし。


 かといって栄養のある昼飯って言ってもなぁ……。


 これ以上、姉貴に負担かけるわけにいかないし。


「よし……決めたわ」


「あん? 何をだ?」


「じゃあ、そういうことで」


「おい? ……行っちまった」


 ほんと、女子ってよくわからん。



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