第14話 いい話かと思ったら……
その後、パンケーキとフレンチトーストがやってくる。
「わぁ……パンケーキおいしそう」
「……おい、なんつー顔を」
その顔は誰が見ても幸せって顔だった。
「う、うるさいし……こういうところのパンケーキって高いし」
「まあ、アイスも乗ってるしな」
下手すると、その辺のラーメン代くらいになる。
「アイス……」
「ど、どうした?」
今度は、一転して暗い顔になる。
「な、なんでもないし……これ、持って帰れないよね?」
「あん? なにを当たり前のことを……だいたい、それはアイス乗ってるし。なんだ、腹減ってなかったのか?」
「ち、違うし……妹と弟が食べたいって思うかなって」
「妹と弟がいるのか?」
「……まあ」
「じゃあ、今度連れてくりゃ良いじゃねえか」
「……簡単には連れてこれないし」
「あん?」
「まあ、君ならいっか。弱みを握ってるし……うち、片親であんまりお金ないから。私は妹と弟世話でバイトも出来ないし……だから、こういうところに連れてこれる機会も少ないの」
「……そうか」
その時、俺の脳裏に浮かぶ。
姉貴が、俺の面倒を見てくれた日々を。
ろくに友達と遊べず、家のことと、俺の送り迎えもしてくれた。
そして姉貴が、はじめてのバイト代で俺をファミレスに連れて行ってくれたことを。
俺が多々をこねた時、姉貴が約束してくれたんだ。
俺は、その時のフレンチトーストの味を忘れたことはない。
そして姉貴が、俺が食べるのを嬉しそうに見ていたことを。
状況は違うが……今のこいつの姿が、当時の姉貴と被って見える。
こいつも、弟と妹が大事ってことか……仕方ない。
「あー、ごめん。せっかく奢ってくれたのに変なこと言っちゃた……溶けちゃうから食べちゃうね!」
「待て」
「ど、どうしたの?」
「弟と妹はいくつだ?」
「えっと……幼稚園児と小学二年生だけど」
「今度、連れてきて良い。そしたら、奢るから。そのくらいなら、一人分を半分個でも足りるだろう?」
「……へっ? た、足りるけど……なんでうちの弟や妹まで?」
「いいから。ほら、アイスが溶けてるから食べろよ」
「ちょ、ちょっと?」
「だから、安心して食べていい。大丈夫、弟や妹が……そんなことでお姉ちゃんを嫌いになったりしない」
「……野崎君……なんでわかったの?」
「ほれ、食わないなら俺が食べちまうぞ」
「……た、食べるし! ……ありがとう、野崎君」
「おう……俺もいただくか」
それぞれ、フォークを持ち……。
「はむっ……美味しい……!」
「うん、相変わらず美味い」
その後、食べ進めていると……葉月が何やら、俺を眺めていることに気づく。
「どうした?」
「むっ……そっちも美味しそう」
「あん?」
「えっと……アーン」
その手にはフォークがあり、パンケーキが刺さっている。
「な、なにを?」
「なにって……ラブコメイベントよ。弟や妹まで奢ってくれるっていうのに、協力しないわけにいかないじゃん」
「な、なるほど……」
おお……! これが幻のアーンか……!
「は、早く……恥ずかしいし」
「お、おう……はむ」
「お、おいしい?」
「わ、わからん」
よくわからないが、味なんかしらん。
とりあえず、何か物凄いエネルギーが、身体の中で暴れている。
「じゃあ、もう一回……アーン」
「ア、アーン……うまい」
「そ、そう、良かった。じゃあ、私も……」
そう言い、口を開けて待つ姿勢をとる。
……エロくね? やばくね? ここ、ファミレスなんだけど?
「は、はやくぅ……」
「ごはっ!?」
天馬は百のダメージを食らった!
天馬はテーブルに突っ伏した!
「ちょっ!? ……大丈夫?」
「お、おう……アーン」
「はむ……うん、こっちもおいしい」
「そ、そうか……」
「……何やってんだろ、私たち」
「これはイベントだ」
「そ、そうね。ただのイベントだし」
少し離れ、それぞれ自分の分を食べ進める。
……味なんかわかるはずもない。
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