第134話

広間の前まで連れて行ってもらって、派手な造りの巨大な扉の前で待たされる。

 ここから先は誰も同行は許されていないとのこと、メイドは勿論のこと天使でさえも距離をとって見守っている。


 荘厳な装飾のされた扉には、遺跡なんかで見られるような絵が彫ってある。

 上から順にストーリーになっているみたいだが、生憎と美術の素養はからっきしなので背景などはよく分からん。


 1番上は男女の出会いなのか、アダムとイブのように神話チックな絵。


 2番目は夫婦で子を成したのか、子供の姿が描かれているが男の姿がない。


 最後には女の姿もなくなり、2人の子供が手を繋いでいる様子が描かれている。


 何かの神話を元にデザインされているのだろう、ただでさえ神話には疎い上に異世界の神話なんて知るはずもなく。


 ゴゴゴゴ……、重厚な扉が見た目通りの重い音を響かせて開いていく。

 謁見の間と呼ばれる広間には、青空からの光をステンドグラスが透して色鮮やかな日差しとなって照らしている。

 来いといっているのか、他の神様に謁見するとしたらマナーとかあるのだろうか、下手な事をしでかしたら首とか撥ねられない?


 覚悟を決めて進むしかないか、扉を通過すると背後の扉は勝手に閉まるようだ。

 何故かホラー映画などの退路を断たれたシーンが連想される、実際この場所から逃げ出す選択肢なんて選べないのに。

 

 玉座にあたる部分、ステンドグラスの逆光が射していて詳しくは分からないが、あの人影がペローナ神だろうか。

 思ってたよりも小さい姿、ヘラ様も長身ではないが成人女性くらいの身長ではあったが、ここから見る影は130cmくらいに見える。


「もっと近くに……」


 どこか聞いたことのある気のする声で、手招く素振りを見せている、神の力で無理矢理に引きずっていかれないだけ理性的な神様なのだろう。

 なるべく背筋を正して、ゆっくり歩いていく。

 この間の豪華な造りと比べて、まったく着替えもしていない旅の服装のままだが仕方ない。


 もう顔が見える距離だ。

 いや、もう見えている。

 あの声で、実はもう深層心理では理解していたのかもしれない、聞き間違えるはずのない声。

 

「雛菜ちゃん……なのか!?」


「お帰り、お兄ちゃん……!」


 玉座に片手をつき、優しい視線を向けてくる神は、長年連れ添ってきた妹の見た目をしていた。

 似ているなんてレベルではない、その容姿、声、仕草の全てが妹である坂本雛菜だと主張している。

 唯一違う所を挙げるとするなら……、


「あぁー!! 髪の毛、染めちゃったの!

 俺は許さないぞ! 雛菜ちゃんが不良になってるっ!」


 指を差して大声で指摘する俺を、それはそれは可哀想な生き物を見るように、雛菜ことペローナ様は首を振る。


「お兄ちゃん、これが地毛なの」


「嘘だって、何年も雛菜ちゃんの髪の毛をとかしてた俺が言うんだから間違いない!」


 そんな中学生デビューした不良みたいな言い訳を信じるほど甘くない。

 あぁもう、黒色の所なんて見当たらないくらいに真っ金色に染め上げちゃって、痛んでそうで見てられないよ。

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