目指せ、エルフの里

おまけ 『貧乏兄妹とバレンタインデー』

 バレンタインデー、それは乙女たちのイベント。

 ではなくて、俺も職業柄せっせとチョコを湯煎している、明日は勤めているホストクラブのイベントが行われるから自宅で残業をしている。

 調理と銘打っているがボウルに入れたチョコを湯煎で溶かして型に入れ固めるだけの作業、個包装してラッピングすれば終わりだ。

 ラッピングは妹の雛菜に任せて、俺はとにかく大量のチョコをヘラで掻き混ぜていく、これが量が量なだけになかなか力仕事である。


「ん、お兄できた。」


 流石女の子、ラッピングはお手のものか。

 でもメッセージカードに呪と書いてあるのはいただけないな、なんで呪いの手紙チックに手を加えているんだ。


「お兄のチョコをタダで貰えるなんて呪われて然るべし。」


 勘違いするなよ雛菜、これを貰うお客様はそれ以上の金額を積んでいる方々だ。

 このチョコ全部が俺の担当ではなく、ほとんどが先輩方のを代わりに作っている、なので経費は先輩持ちだから気兼ねなく作れるのだ。


「チョコ食べ放題だぞ雛菜!やったな!」


「思春期の女の子に甘い物ばかり食べさせるなんて、やっぱりお兄はホスト向いてない。」


 なんてダメ出ししてくる妹なんだ、言っていることは合ってるけども。

 とにかく大量生産、少し作りが荒くても手作りの味として拡大解釈してくれるはず。

 ピンポーン、突然安アパートの安チャイムが来客を告げる、もちろんモニターなんて無いから扉を開けて相手を確認するしかない。

 こんな晩に来客なんて誰だろ、もしかして大家さんか!?

 扉を開けると、隣に住んでいる美大生のお姉さんだった、両手で金色の鍋を持っているという事は、またお裾分けかもしれないぞ!


「夜分遅くごめんなさいね、また晩御飯作りすぎちゃったから食べて欲しいなって。」


 やったー!台所がチョコの山で埋まっているから晩飯どうしようか悩んでいた所に渡に船だ。

 

「いっつもすいません!助かります。

 お返しと言ってはなんですが、チョコレートってお好きですか?

 あまり物で申し訳ないんですが、良かった。」


 早速先ほどの曰く付きチョコを渡す事になった、もちろんメッセージカードは抜いてだ。

 ちょっと包装が可愛すぎるが、まさか俺が作ったなんて思わないだろう。


「えっ!いいの…?わぁ、嬉しい!」


 こんなに喜んでもらって悪いが、料理のお返しがまさか元呪いのチョコとは本当に申し訳ないです。

 足取り軽く帰っていくお姉さんを見送って鍋を抱えて部屋に戻る、まだ温もりを残している鍋には肉じゃががこれでもかってほど詰まっている、一人暮らしで作る量じゃないくないか?


「お兄、私のお手製チョコで女を釣るの良くない。」


 妹よ許せ、これも晩飯にありつく為なんだよ。


「この肉じゃが、これ本気の味だよ。」


 こらっ立って食べない!それに本気の味ってなんだよ。

 鍋から直接肉じゃがを食べる妹を叱るが聞く耳持たず食べ尽くす勢いだ、そんなに肉じゃがが好きだったのか、このままでは俺の晩飯だけチョコになる可能性がある。


「ご馳走様、生意気にも美味しかったと伝えておいて。」


 本当に食べ尽くされるとは思わなかったぞ、2日分くらいあったけどよく食べれたな。

 しかも上から目線のコメントまで残して、お前料理できないクセに。


 ラッピングが終わって、テーブルの上には明日配る予定のチョコが溢れんばかりだ。

 その中に懲りずにまた呪いのチョコが混ざっている、雛菜めどうしても混ぜ込みたいのか。


 仕方ないので呪いチョコは俺の晩飯としようかな。

 メッセージカードの中身を見ると、『兄』と書いてあった。

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