第105話
教会新設の話は置いといて、今日一日で準備して明日には村を出発する予定となった。
旅に同行するのは冒険者のスカウトを除いた4人、天使2人の計6人。
竜姫たちはかなり粘られたが、結局村の要が村を離れるのはいかがなものかと残留が決定した。
「アーシたちが居るんだから安心して留守番しててよ、綾人さんには指一本触れさせないからさ!」
ノエールによる説得で渋々といった風にボタンとキキョウは頷くが、ツバキはまだ納得していない。
「其方ら天使の実力を疑うわけではないが、綾人殿の価値は他に変え難い。
アタシも命を救われて分かっておるが、同行して常にその周囲へ結界を張っておきたいのじゃが…。」
この世界で1番結界を上手く扱えるツバキが居てくれれば安心だが、だからこそ村の守りにおいて要でもある。
それにツバキだけの同行を他の竜姫が許すはずもなく、最終的にモモが見たこともない関節技で無理矢理に断念させることとなった。
見た目小学生にマジプロレスをしかける女子高生という見た目は、教育委員とかに怒られそうだ。
飯の作り置きについて、実はこれが1番注目の議題に上がっていた。
なんだかんだ言って俺の身よりも飯が心配だっただけではないか、そう思わせるほどの熱量で議論は白熱している。
「やはり揚げ物は外せないぜ、三食揚げ物でもアタイは構わないさ!」
「考えてだけで胸焼けしそうですわね、却下で。
アタクシは自前の漬物もありますし、魚や汁物の準備をしておいて頂けたら満足ですわ。」
「そうじゃのう、この前食べた甘味のプリンというやつが食後のにあると嬉しいのう。」
「「なんですか!それ!?」」
「ツバキちゃん、それはウチらだけの秘密だってあれほど…。」
あぁこの前作ったデザートの試作、ほとんどヘラ様たちに食べ尽くされたけど余ったプリンはその場にいたモモとツバキが試食したんだった。
別に隠していた訳ではないのだが、いや催促されることが分かっていたから隠していたのかなこの2人は。
結局メニューが決まるまで、ボタンとキキョウのデザートコールは止むことはなかった。
もう日も暮れてしまった、白熱した議論も内容は殆どが作り置きのメニューに割かれ、今後の旅の話は宙吊りのまま明日には出発だ。
自称4次元ポケットを持っていると豪語する相棒(地球でのローズさんの配送任せ)があるとしても、この世界のことをよく理解していない俺にとっては旅に対しての漠然とした不安が付き纏っている。
「なあに旦那、我々は旅に関しちゃ一過言あります。
大船に乗ったつもりで付いてきてくだせえ、ガハハハ!」
海賊か山賊しかしない笑い方で上機嫌なのは剣士のウカクだ、酒瓶を抱きかかえて赤い髪をかき上げまた一献。
夕飯後に振る舞った酒をしこたま呑んで泥酔しているように見える。
他のパーティーメンバーも大なり小なり飲酒したようで、皆明日の朝までアルコールを残さないで欲しいと願うばかりだ。
「このくらいの量で酔うとは嘆かわしい、あぁ私は弟子を預ける冒険者を間違えたかもしれぬ…。」
カフェカはなんだろう、嘆き酒なんだろうかダウナー気味に酔いが回っている、いつもセンターで分けている青い髪が散り散りに世捨て人のような面持ち。
貞操の緩いこの世界では貴重な身持ち固い枠だったのに、今では着ている浴衣も肩を出し帯もゆるゆる。
「そもそもねぇ!アンタのとこの弟子が事の発端でしょうがぁ!
どんな教育したらこんな破天荒なエルフに育つ訳ぇ!?」
メリダは見るからに絡み酒だな、カフェカの肩を掴んで激しく揺さぶるものだから浴衣は加速度的に着崩れ、もう着ていると言うよりは羽織っていると言った方が正確かもしれない。
その様子をみて壊れた様にウカクは爆笑しているし、話題に上がっているニーサは部屋の隅で丸まって寝ている、尻を出したままなのは触れないでおこう。
翌朝、案の定死んだ様な顔をした面々にアドリアネが盛大にため息をつく。
唯一お酒を口にしなかったトーラさんも酔い覚ましのお茶を配りながら申し訳なさそうな顔をしている、トーラさんの責任ではないので気にしないで下さい。
ノエールはもう旅館の外に出て準備運動をしている、俺が初めての外出だって教えてからやたらと張り切っているがどう言う意図だろうか?
そんなノエールを生暖かい目でアドリアネが見ている、
「彼女は有能なんですけどアホなのが欠点なんですよね。
身体的には鍛えてあげられたんですが、どうも頭の中までは鍛えられなかったんですよ。」
結構辛辣なコメントだが、ここ数日の彼女の行動を見ていると否定できない気がする。
まず一直線な性格は嘘とかとまったく無縁で、良く言えば裏表のない、悪く言うと凄い真っ直ぐなアホ。
アドリアネを強く慕っており、そのアドリアネを相棒に持つ俺のことも慕ってくれている、なので何でも分からないことを聞いてくる。
そして仕事熱心である、中居の仕事をしてもらっているリツとレンを真似て働いてくれたが、質問が多すぎて返って仕事にならなかった。
「良い子なんですけどね、いかんせんアホなんですよ。
ただ護衛や殲滅なんかの分かりやすい仕事であれば、彼女ほど有能な部下はいませんよ。」
つまり、ここからが彼女の本領発揮という事だ。
こちらの視線に気がついて手を振りながらジャンプしているノエール、うん無邪気な笑顔。
「ただアホなので手綱を握るのは綾人さんに任せますね。」
先行きが不安すぎるんだが…。
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