老婆の手記
第51話 老婆の手記
(※この『老婆の手記』という段は、不自然な表記や空白、読みづらい文章などで構成されておりますが、あくまで演出の一環です。誤変換や打ち間違いではございません。ご了承ください)
この日記、私の最後の作品になるかもしれない。いいえ。作品と呼べるほど立派なものでもない。
私は、文筆の才に恵まれてはいないから、とても読みづらいでしょうけど。覚え書きのようなものだから、構わないわね。
文字も思い出せなくて、かんたんな字も間違って書いてるかもしれないけど……
もし、この日記を見つけて、読む人がいたら申し訳ないわ。でも、他人に向けて書いたわけじゃないの。いわば、
この家にある物全て、あの子にたくす。
売却なんてしたところで、老い先短い私に先立つものは必要ないのだし、だいいち、やしきいっぱいの衣類を運ぶ手立てがないのだから、妥当だわ。
足を悪くする前のことは、もうよく覚えていないの。覚えているのが辛くて、忘れたつもりで過ごすうちに、本とうに忘れてしまったのかもしれない。
輝かしい時代。花のさかり。思い出せたら、幸せでしょうね。惜しいことをした。でも、仕方ない。全ては衰え、枯れる。記憶力もその一つ。
だから、ここには、覚えていることを残すだけ。
晩年の私にも、心の支えがあった。娘によく似た声の、可愛い子。
若いのに、しっかりしていてね。きっと、とっても苦労をしてきたんでしょう。あの子はあんまり自分のことを話したがらない。
いつもいつも、私の話ばっかり聞せてしまって、たいくつしないのかしら?
気をつかっているんでないかと、私、心配だけど……じぶんの話をするよか、気楽なんでしょう。それなら、この老いぼれ、はり切って何でも話す。のです。
知識というには卑近でしょうけど、あの子の役に立つこと、ちょっと心が軽くなる話、そんなのだったら、いくらでも持っている。
それも、ちいちゃいプライドなのかしらね。
今の私は、歩けない、服も作れない、やく立たず、社会のおにもつ、穀つぶし、生きているのが、ふしぎ。
せめて、この頭にまだ詰まっているもの、なるたけ多く、あの子に伝えないと、いよいよ、私は私の存在意義を疑 ってしまう。
本当は一秒でも早く死にたい。
あの子がいなければ、とっくに自殺していた。私なんてこれ以上生きてて むだ。
あの子、私が居てくれて良かった。と言ってくれた。かぞく、いないって。でも、本当の、おばぁちゃんみたいって。
孫にはあったことがない。実の娘、子供産んだ? かわからない。ずっと、会えないまま何年。だから普通のおばぁちゃん、どうするか知らないけど。祖母、思い出して、あんな風に頑張った。
うれしかった。本当の孫じゃなくても、構うもんですか。あの子が、私の孫です。あの子が、そう言うのだから、そうなのよ。
ちゃんと、さいごまで、あの子のおばぁちゃんでいなくちゃね。
私の祖母より良いおばぁちゃんはみずかしいけど。祖母と祖父は、忙しいおやより面倒見てくれた。育てのおやは、祖父母。
二人共、必要なしなは何でも買ってくれた。特に洋服。タクサン。毎日がファッションショウで、夢みたい。
あの子も、洋服がすきみたいで。私のアルバムをよく開いてる。
だから、全部、あげたいと思ったの。昔必死に作った大切な服。自分の為に取っておいたのが、やくに立つと思わなかった。
すてないで、良かった。雑誌のペエジも、取っておけば良かった? あの子は、よころんでくれるといいけど。
前、一着、あげたことがあった。誰っだったかしら。その子の一等すきな服。
虫食い穴があったけど、気にいっているのがイチバン、と思って、あげた。そしたら、言うの、こんなのじゃ、高く売れない、って。
怒った主人が、力ずくで取り返してくれたけど。
あのひとともずっとあえない。まだ二人生きてるのに、はなればなれ。どうして、家族とべつべつに暮らさなくてはいけないの?
健康じゃない人間は、人間じゃないみたい。
私はいらない人間なの?
かなしかった。売れない、は いらない、ってことでしょう? 売り物にならない物を押し付けたとおもったの? そうじゃないのに。着れなくても、かざっておくことは出来る。だから、欲しいかと思っただけ。
あの子も、迷惑?
時代遅れの、私の洋服。今はもう、無価値の、型落ち、ふるぼけた、かっこうわるい、がらくた。作った私と同じ? 私の、せい。
かわいそうなこたち。ひとは、飽きるのが早すぎる。
でも、あの子は、きっと、いらなくても、きちんと捨ててくれる。
さいごまで、勝手で、ごめんなさい。
私には、あなたのおばぁちゃんを名乗る資格は、きっと、ないのね。だけど、おばぁちゃんって呼んでくれるかぎり、ずうずうしく、その座に居座るつもりです。
あぁ、ごめんなさい。本当は、この日記、最初から、あなたが見つけて、読むことを期待して、書いてるの。書き始めから、ずいぶん時間がすぎちゃった。あんがい、死なないものね。死にたがりへのバツかしら。
END
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