【完結】王妃様の置き土産 ーポンコツな天才努力家は、王妃様の残した謎を解けるのか?ー

渡辺 花子

プロローグ

第1話 王妃の独白①

 手を伸ばしても見向きもされないのが怖くて、伸ばすこともできなかった。


 だから、愛されることなく命を終えてしまったのだろうか? 

 だから、わたくしの想いは伝わらなかったのだろうか?

 だから、愛する人を救えなかったのだろうか?

 だから、命をかけることでしか、愛を伝えられなかったのだろうか……?


 いや、全て言い訳だ。

 死をもって証明するなんて、わたくしは卑怯者だ……。

 大切な人からの信頼も得られず、疲れ切り、生きて戦うことから逃げてしまっただけだ。

 

 そんなわたくしだから弱さにつけ込まれ、二人のための死さえ利用されてしまったのだ……。


 恥を晒しても、大切なものを守るために戦うべきだった。

 後悔しても、もう遅い。 


 それでも、未来を変えたいと切に願う。

 わたくしを死に追いやった男を野放しにしていては、この国の未来は腐り落ちてしまう。


 お願い、誰か、私の代わりに……。









「王妃様、シュスター公爵夫人が、予定を変更して礼拝堂でお会いしたいと仰っているのですが」

 わたくしを『王妃様』と呼ぶ度に不快さを隠さない侍女からの報告を聞きながら、彼女の眉間の皺を気にせずに「そう」とだけ答えた。


 シュスター公爵夫人であるアデライトが、わたくしを礼拝堂に呼び出す訳がない。

 どれだけこの国で嫌われていようが、わたくしは王妃だ。王妃を呼びつける臣下の妻などいるはずがない。

 ましてや、供に同じ国から嫁いできたアデライトは、この国の貴族の中では唯一私に対して敬意を払ってくれる親友だ。

 そんな彼女が、何故わたくしを呼びつけるのか?

 答えは簡単だ。呼びつけているのは、アデライトではない。

 わたくしと会う予定を、馬鹿な者達に利用されたのだ。


 この呼び出しは罠だ。


 罠だと分かっていながらも、わたくしに逃れる術はない。

 今からわたくしは、のこのこと罠にかかり、王弟の妻であるライサから嫌がらせを受ける。毎度のことだが、もういい加減うんざりだ。




 わたくしは、ハイマイト国の筆頭公爵家の令嬢であるライサから王太子妃の座を奪った。

 それだけではなく、夫が側妃を持つことも決して許さなかったと思われている。

 たから、この国の貴族達には嫌わられ、蔑まれている。

 

 もちろん好き好んで奪い取った訳ではない。

 国王であるガストン様とライサが婚約した頃は、国同士はもちろん大陸間でも不穏な動きはなかった。

 しかし、火種が一度飛び散れば、あっと言う間に燃え広がるのが戦争だ。

 国を取り巻く情勢が一気に変わり国同士の協力が必要となったため、急遽決まったのがハイマイト国とクリステンス国の政略結婚だった。


 これまでが平和だったこともあり、他国の血を入れることが極端に少なかったハイマイト国は、隣国からの花嫁を快くは迎えなかった。

 そんな一枚岩ではない政略結婚だったこともあり、筆頭公爵家として力のあるクライトン家は面目を潰された怒りをわたくしにぶつけた。


 クライトン家は筆頭公爵家だけでなく、宰相を務める家だ。王家に次ぐ権力がある。その上、婚約を解消した負い目と、弟の婚家に遠慮があるガストン様は、クライトン家に強く出られない。

 その結果、王城の使用人はクライトン公爵家の息のかかった者ばかりとなり、わたくしにとっては息つく暇がないほど嫌がらせの日々だ。

 日常生活でも常に嫌がらせを受け続けるのは、さすがに精神的に辛い。嫁いで二十四年目でこの状態なのだから、いい加減弱音を吐きたくもなる。


 でも、わたくしはこの苦しみをガストン様に吐き出すことはできない。

 一人しか子供を産めなかったわたくしをガストン様は守って下さったのに、私はガストン様の信頼を得られなかったのだから。


 ガストン様は最初から、わたくしの心には別の思い人がいると疑っていた。いくら言葉を尽くしても、それが誤りだとは分かってもらえない。

 だから、あの噂を真に受けて、わたくしを見てくれなくなってしまったのだ……。


 わたくしは、一体どうすればよかったのだろうか?

 もっと自分を信じて欲しいと声をあげれば良かった?

 わたくしの悪評を流す者達を罰すればよかった?


 分からない、分からないけど、今晩にでもガストン様に時間を取ってもらって話をしよう。このまま疑われ続けるにしても、わたくしの真実を伝えるくらいさせてもらおう。




 わたくしは甘かった。

 自分に今夜が存在すると思っていたのだから……。





◆◆◆◆◆◆


読んでいただき、ありがとうございました。

少し長いプロローグが続きますが、読んでいただければ嬉しいです。

よろしくお願いします。

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