第169話 帰宅。

「はあ~、何だか疲れたな」


 晴田市の探索者支援センターでドロップ品を売ったり、オレの新装備を揃えたりした帰り道、売りに出されている熊岱市のダンジョン間引きに立ち寄ったりとなかなか濃い一日だった。


美剣みけ、起きろ~、家着いたぞー」


 美剣も疲れたのか、ネコの姿に戻ってネコカゴ内で爆睡中だ。


 なんだろう、疲れると人化が解けるのか、それともネコ姿の方が寝やすいのか?

 思えば美剣が寝ている時はいつもネコ姿だという事に気が付いた。


 そして、


「まなみ~、お前も起きろー。」


 ネコカゴを膝に抱いて助手席で寝ているマナミサンも起こしにかかる。


 軽トラの助手席は物理的にリクライニングが利かないから体が痛くなるだろうに。


「あ、先輩、ごめんなさい。運転任せてたのに寝ちゃいました。」



「いや、それは大丈夫だ。家に入るぞ」


「はあい」


 マナミサンはネコカゴを持って軽トラから降り玄関のカギを開ける。


 オレは車庫の入り口に車を寄せ、車庫内のダンジョンの様子を見に行く。人気ひとけが無いのでどうやら陽介君たちは今日は引き上げたようだ。


 思い出したようにスマホを確認すると、案の定陽介君からラインにメッセージが入っており、約1時間ほど前に『今日は帰ります』との伝言があった。


 ふむ、陽介君たちはレベルアップを焦っているかと思ったが意外と冷静だな。無理せずにしっかりペース配分を考えているようだ。



 いつもなら軽トラを車庫に入れ、さらにダンジョンに入れてコンクリ床の『修理ベース』の上に停めるのだが、もはやこのダンジョンは我が家専用ではないため、車庫の外の屋外に停める。

 車庫があるのに屋外に停めるなんてなんか変だよな?


 まあでも仕方がない。陽介君たちも軽トラ他人の車がそばにあればいろいろとやりにくいだろうし、お互いの精神衛生のためにはこれがベストだろう。


 なんたって、もしも陽介君たちが絆を結んでいる最中にオレが軽トラを取りに行ったりなどしたらとっても気まずいことになる。そんな遭遇がないことを祈ろう。


 オレは車庫のシャッターを閉めて家に戻る。



◇ ◇ ◇ ◇


「先輩? 夕飯どうします?」


 うーん、たしかに熊岱ダンジョン探索で腹は減った。


 だが、今から夕食の支度をするのも面倒くさいといった感じである。


「あ、売店から買ってきたダンジョンカレーがある。それにしよう」


「そうですね。レトルトですし、ご飯も冷蔵庫にありますし。あ、でも美剣ちゃん辛いの大丈夫でしょうかね?」



「大丈夫だ。この前激辛チキンを平然と食ってたぞ」


「じゃあ問題ないですね」


「……にゃー」



「お、美剣起きたな」


「お腹すいたのにゃ」


「はいはい、もうちょっと待ってください」



◇ ◇ ◇ ◇




「先輩」


「なんだ」



「ダンジョンカレー、アリですね」


「何の話だ?」



「えーと、このダンジョンカレーはお肉がオーク肉ってだけで、他の素材は地上産ですよね?」


「まあ、そうだろうな」



「でも、野菜までダンジョン産だったらどうですか?! ウチの地下3階のあの畑でニンジンとかジャガイモ作って、熊岱ダンジョンのビルで食堂やるんですよ!」


「やっぱりその話か。もうダンジョン熊岱市の買うのは確定なんだな」



「はい。本当はお化け屋敷ダンジョンを真剣に考えていたんですけど、今日の検証でそれだけでは厳しいと感じました。他の集客ポイントも必要です!」


「ふーむ。反対ばっかしてられないから、オレも何か考えてみるな」



「はい! さすが先輩です! やっぱりわたしの旦那様です!」


「にゃー! このカレーは辛さが足りないにゃ!」


「あ、激辛味をメニューに加えてもいいですね!」




 ダンジョンでの商売については特に結論も出ないまま、カレーを食べた後は疲れもあって、風呂に入ってすぐ眠りについたのだった。




◇ ◇ ◇ ◇


「おはようございます! 今日も宜しくお願いします!」


 今日も陽介君たちがダンジョンに潜りに来た。 



 挨拶もそこそこ、オレは熊岱市のダンジョンについて買い取る方向で話が進んでいること、そしてそこの管理をする人が欲しいという話をした。


「そのお話、とっても魅力的です。あのダンジョンに思うところはありますが、悪いのは社長であってダンジョンではないですからね。でも、まだまだ自分たちはダンジョンを管理するには強さが足りません。なので、当面はここでレベルアップさせてください。」


「ああ、わかった。そうしてもらえればとっても助かる」


「はい、昨日で全員レベル3に上げられたので、今日は1階層を少し探索したいと思ってます」



「あ、1階層でも奥の方はいきなり敵の数が増えるから気を付けてね」


「はい!」



「うん。じゃあ、今日はオレたちも金策で2階層以降に潜るからよろしく」


「はい。」



 ということで、さっそく狩りを始める陽介君たちを見送り、オレたちも探索の準備をするべくいったん家の中に戻る。



「おーい、ダンジョン行くぞー」


「はあい」


「にゃー」



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