4-2 マネージャー業務?
「……嘘だろ?」
「……すみません」
窓から差す朝日に輝くは、何枚ものコンビニ袋、そして水滴が付いたペットボトル。脱ぎ捨てられたであろう高そうな服や、カバン。
床を歩くスペースはほぼ無く、これまでどう生活していたのか分からないぐらい、七原の部屋は汚かった。
朝イチでこれはキツい。
そう思いながら俺は壁に掛かっていた時計を見上げた。
7時から約20分程の動画を撮ると、紙には書かれている。今は6時。
七原にはモデルとしての服装やメイクの準備等があるだろう。俺なら歯を磨いて、髭を剃って、顔を洗えばいいのだが、七原はそうはいかない。
つまりーー
「30分ぐらいで終わらせなければ……」
「さ、30分ですか…」
七原が狼狽えているが、この状況を作ったのはお前と言う事を忘れるなよ?
「まずはリビングのゴミを全部処分だ。これがあったら何をするにしても撮影に支障をきたす」
リビングのゴミを処分すれば、後は他の部屋にどんなゴミがあったとしても、リビングの動画を撮り終わった後にそのゴミをリビングに移動させれば問題ない。
動画が途切れ途切れにはなるが、そこまで問題はないだろう。
「……分かりました。今ゴミ袋を準備するので待ってて下さい」
そう言うと七原は、ゴミ袋を探そうとゴミの中を漁り出した。
これじゃあ何時間も掛かるな……。
そう思った俺は、先にゴミとなるであろう物を分別する。
しかし、そこで俺はある物を見つけた。
「ん……? 何だこれ?」
男物のパンツだ。黒のボクサーパンツ、しかも俺と同じ種類……てか臭い。洗っていないのか?
それよりも何で男物のパンツが此処に?
「あ"っ!! す、すいません!! これ元カレのパンツです!!」
「え"、あ、あぁ、そうなのか。捨てておくぞ?」
「いえいえいえいえ!! あ、あの!! 私が捨てておきます!!!」
七原は今までに見た事がないぐらいに焦って、俺がつまんでいるパンツを奪い去った。
なるほど。やはり想いを消し去る為には自分で捨てないとダメだと分かっているんだ。
俺もそうだった。元カノの物を捨てる事で綺麗さっぱりアイツの事を忘れる……いや、出来なかったが、少しは気持ちが晴れた。
「じゃあ任せるが……次俺が見たら絶対に処分するからな?」
「ぜ、絶対………見つからない場所に保管しないと…」
ったく……聞こえてるぞ。いつまでもそんな未練タラタラで良いのか。
そう言いたくはなるが、それは俺もだ。他人に言われてどうこう出来る問題でも無い。
だが、せめて洗って保管して欲しい。
俺は平静を装いながら、全速力で分別を進めるのだった。
***
「ふぅ。何とかなったか……」
「凄いです……部屋ってこんなに広かったんですね!!」
目の前にはピカピカになったシンプルな部屋が広がっていた。時刻は6時30分、人間やれば何とかなるもんだな。
「まぁ、女子らしいとは言えないが、まともにはなったから良しとしてくれ」
「ありがとうございます!!」
「今度からはしっかり片付けしろよ?」
「…はい」
七原は何処かテキトーな相槌をして、化粧をしに奥の部屋へと入って行った。
またこんな企画があったら、俺はまたこんな汗だくにならなければならないのだろうか。
これだったらいっその事、片付けが出来ないモデルとして売り出すのはどうだろう。
凛としたスタイルに、フワッとした表情、それにも関わらず片付けが一切出来ない。
所謂ギャップ萌えだ。
マネージャーからしたらこれを踏まえた上で仕事を進めていくべきなのか? うーむ……難しい。
俺はこれからのスケジュールを見ながら、1人頭を悩ませるのだった。
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