ベランダでパジャマ姿のまま"✖︎✖︎✖︎"をしていた美女が、今では俺の通い妻 〜彼女を助けた俺は、面倒を見る為に"おかしな同棲"を始める。
ゆうらしあ
1-1 隣の変人
「進ってさ、何かつまらないよね」
「え……」
俺、
「だって、私達が付き合って3年の間にさ、サプライズとかしてくれた事ないじゃん? まぁ、プレゼントとか時々くれるけど、それも予想を裏切らないっていうか……」
「いや、それはお前の好きな物をーー」
「あのさー、それは進が勝手にそう思ってるだけだから。あと、その"お前"って言うのもやめて欲しいって前も言ってるよね?」
「あ、悪い」
「はぁ」
気まずい空気が流れる。何で、何でこんな事になったんだ。
同じ会社に入社し出会って5年。何も問題も無く、喧嘩をせずにやってきた。その筈なのにーー。
「…もう私達別れよ」
「……あぁ」
彼女は、俺の方を見ずに告げた。いつも見ていた筈の背中が、何故かいつもより小さく見えた気がして、俺は反論する事もなくそれを承諾した。
そして、その日を境に、俺は会社を辞めた。
彼女は会社の中心人物になりつつある陽キャだった。そんな人と短くも付き合えた陰キャは、注目の的だろう。会社に行けば俺の事を蔑む様な視線が集中して向けられると、直ぐに予想出来た。
ウチの会社はブラック企業。前々から辞めようとは思っていた。だから悔いはなかった。
「ふぅ〜…」
そして辞めた次の日の早朝、俺はベランダで煙草を吸っていた。
広大な空を見ていると、秋特有の肌寒く吹く風が、失恋した俺の心を苛めてくる。
「はぁ〜…仕事探さないとなぁ…でもめんどくせぇ…」
どうやらアイツとの交際は、思ってたよりも俺の支えになっていた様で、身体が上手く動かない。
この際だ。
家で出来る楽な仕事…投資でもやってみるか? 偶々だが、同僚に一度投資の事を教わった事があるから、出来る事には出来る。もしかしたらそれで上手くいって生活出来ていくかもしれない。
クチュッ
「……ん?」
そんな事を呑気に考えていると、近くから何か不快な音が聞こえてきた。音を辿れば、薄い仕切りを隔てた隣から、何やら音が聞こえて来る。
音的に…何か食べてるんだよな?
折角の俺の癒しの時間が、お隣さんの何らかの音に毒されて行く。
最悪だ。
早朝だからこそ俺は、煙草を吸って癒やされている。
それなのに…
クチャッ……クチュクチュクチュ……
まぁ…俺がとやかく言う事ではないか。人が部屋でどう過ごそうか、その人の勝手だ。
そう結論付けると同時に音が聞こえなくなり、俺はようやく安堵し、煙草を一吸いする。
しかしーー
クチュ…クチュクチュクチュクチュクチュ
音は段々とエスカレートしていった。
ちっ…何だってんだ。
休日は基本引きこもってアニメを見ている所為で、隣にどういう奴が住んでいるのかは分かっていないが、ギャフンと言ってやろう。
もし、もしだが。怖いタトゥー激掘りお兄さんとかが出てきたら、頭を地面にめり込ませる勢いで下げよう。それなら得意だ。
そんな事を考えながら、俺はベランダのヘリに少し前のめりに寄りかかり、隣を流し目で見た。
「は?」
目に飛び込んで来たのは、とんでもない美女。
白銀のその寝癖が酷い髪は、朝日で光り輝いており、大きなパッチリ二重であろう慧眼は半目で、目尻は垂れて、のほほんとした空気が辺りを浄化している様にも見える。
可愛い猫のイラストのパジャマに包まれた華奢なその身体に、フラフラと眠たそうにしているその姿は、男性の庇護欲を掻き立ている様だ。
…まぁ、容姿は良いんだ。寝起きで? 寝癖が酷くて眠そうにしている感じ。可愛いじゃないか。
問題はそこじゃない。
「んっ…」
いやいやいや、座り込んでスマホを片手に君は何をしてるんですか? 股の間に手を入れ込んで、よく見れば顔も赤らめて、目も潤んで汗だくで。
衝撃である。
隣の人がこんなに可愛い事も衝撃ではあったが、それ以上の衝撃だった。
そんな彼女を見ていると、目が合い、俺は隠れる様に急いで部屋へと入った。
「何だったんだ今の」
その日の俺は、仕事を探す事なくベッドで自家発電した。男であれば、あの状況を見てやらない訳がないだろう。
俺は夜までに、4回程発射した。
「もう…0時か」
そして4回目の発射後、俺は時計を見て呟いた。周りには何枚かのティッシュが散らばっている。
仕事も探さずに何をやってるんだ。そんな考えが頭をよぎるが、今更遅かった。
明日からは頑張ろう。
そう思って片付けていると、ふとヤニを補給したいと思い、ベランダへと出る。
「ふぅー…」
秋の夜。都会にあるこのマンションでは、実家のように鈴虫の音は聞こえてこない。だが、7階建のこのマンションだからこそ、良い事もある。まず虫は入って来ないという所は外せないだろう。
窓を開け、暖房で乾燥した空気を少し換気させながら、俺は煙草の煙を空へと吐いた。
「はぁ〜…煙になりてぇー…」
実家よりも空が近く感じるこのマンションでは、風が強く吹く。そして、その風が煙をすぐ様何処かへと連れて行く。都会でありながら田舎とそう変わらない自然さを感じさせてくれる。
煙になれば、自分の意思関係なく風が運んでくれるし、何かになる訳でも、何かをしなければならない事もない。
風の赴くまま。人間の様に、子孫を残そうと、結婚相手を探す面倒な考えもしない。
悪くないよな。
そう考えた数秒後、俺は思わずフッと鼻で笑ってしまった。
その代わり好きな物とか食べれたりしないし、好きなアニメも見れないって考えるとやっていけないか。
こんな事考えても無駄だと、俺はまた煙草を一吸い。
「死んだら煙になれるかもしれませんよ」
すると、ふと隣から声が聞こえた。
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