第46話:実験狂

神暦3103年王国暦255年8月8日9時:ジャクスティン視点


 ミアは元女性だったからかもしれないが、想像以上に永遠の若さに喰いついた。

 若返りの秘術を教えてもらうためなら、どのような実験にも付き合うと言った。

 ジェネシスも愛するミアが永遠の若さを手に入れる事には賛成だった。


 二人以外に必要なのは、アルファの性質を持つオメガだった。

 オメガは全人口の一パーセントだから、結構少ないが全くいない訳ではない。

 特に力のあるアルファの元にはそれなりの人数がいる。


 俺様のハーレムにいるオメガだけでなく、セイントとオリビアのハーレムにいるオメガにも協力してもらわなければいけない。


 だがそんな事を無断でやったら、親子で殺し合いが勃発するほどの無礼になる。

 親兄弟であろうと、公王と家臣であろうと、払わなければいけない礼儀がある。

 遠隔地の村や街の支配と統治をしている二人に、急いで伝話魔術を使った。


「セイント、オリビア。

 俺様が、オメガになったジェネシスに、アルファの性質を持たせる実験をしていた事は知っているな」


「はい、父上」


 長男であるジェネシスがオメガ落ちした事は、セイントにも色々な想いがあったようで、返事が短く元気もない。


「ある程度成功されたと聞いていましたが、新たな展開があったのですか?」


 俺に比べれば若くて遠慮のないオリビアは興味津々だ。


「実験は大成功だった。

 アルファの性質を持ったジェネシスは、ミアを妊娠させた」


「本当ですか、オメガがアルファを妊娠させたのですか?!」


 普段冷静沈着なセイントが、喜びの余り興奮を抑えられないでいる。

 それくらいジェネシスの事で心を痛めていたのだろう。

 ここは全てを説明して安心させた方が良い。


「ミアと二人きりにさせて、互いの気持ちを打ち明けさせた。

 そのお陰で誤解が解けて相思相愛になった。

 なんと、史上初めて互いの首に番の印を刻み合うカップルとなった」


「なんと?!」

「なんですって?!」


「しかもジェネシスがミアを妊娠させただけでなく、ミアもジェネシスを妊娠させるという快挙を成し遂げた」


「「なんですと?!」」


「二人の子供がどんな性質を持って生まれてくるのか、俺様でも予測がつかない。

 最良の結果は、百パーセントの確率でアルファとして生まれて来る事だ。

 最悪の結果は、成人式でベータにしかならない事だ。

 確かめるには同じ条件で実験を繰り返すしかない」


「父上、二人を亜空間に閉じ込めて子作りに専念させると申されるのですか?」


 俺の実験好きを知っているセイントが呆れたような声で聞いてくる。


「その程度の実験で人間の未来を占えるか!

 全てのオメガをアルファ化させて、どのような結果になるのか確かめるのだ!」


「父上、互いの首の番の印を残せるのは、一対の夫婦だけです」


「そのような事は分かっている。

 比較実験をするのだから、番の印を付け合った夫婦だけでなく、片方にだけ印を付けたカップルや、印を付けなかったカップルでも実験をするのだ!」


「……私やオリビアにも実験に協力しろと言われるのですね?」


「ジェネシスとミアにはオメガの性奴隷がいない。

 幾ら人類に寄与する実験とはいえ、せっかく相思相愛に成ったのに、夫婦仲に亀裂を走らせるような実験は強制できない。

 二人に協力してもらうのが一番だ」


「……ジェネシスの幸せを考慮してくださったのは、父上にしては周りに配慮してくださっていますが、できれば私達にも配慮してもらいたかったです」


「上に立つ者には人類のために働く義務がある。

 アルファの数を増やす事は、他の全てに優先する事だ。

 それくらいは二人もわきまえているだろう!」


「分かりました、分かりました、こちらの事は家臣に任せて急ぎ戻ります」


「私も戻らなければいけませんか?

 私には一人しかオメガ性奴隷がいませんが?」


「絶対に戻ってもらわなければいけない。

 互いの首に番の印を付けた実験は、アルファ一人につき一つしかできない。

 普通にアルファの性質を持ったオメガを妊娠させるのとは比較にならない」


「分かりました、分かりました、私も戻りますよ、戻ればいいのでしょう」


「不服を言うな、愚か者!

 俺様だって大嫌いな事を我慢して実験に参加するのだ!

 誰が好き好んで男性器を持つオメガ男を抱きたいものか!」


「そうでしたね、父上はオメガを抱くのが苦手でしたね。

 私が生まれてからは、ベータの女しか抱かれていませんでしたね。

 そういえば、父上のハーレムには年配のオメガしかいないのではありませんか?」


 俺様の性分を思い出したセイントが本気で心配してくれている。

 息子に心配されると言うのは、こそばゆいような、何とも言えない感じだ。

 これが父親の幸せと言うのだろうか?


「その点は大丈夫だ。

 俺様が若返りの秘術を開発した事は覚えているだろう?

 教えるのに結構な時間がかかるが、時の流れを早めた亜空間なら何の問題もない。

 じっくりと鍛えて、年老いたオメガであろうと若さと強さを与えてやる」


「最近の父上は規格外過ぎてついて行けません。

 以前の父上も近寄り難い強さがありましたが、ジェネシスがオメガ落ちしてからの父上は、アルファ離れした強さと賢さがあります」


 流石俺様の息子だな、真実など何も知らないはずなのに、俺様が前世の記憶を取り戻した時期をぴたりと言い当てる。

 まあ、自分でも自重など考えもせずに好き放題やったと思う。


「ふん、当然であろう。

 愛しい初孫がオメガ落ちしたのだ。

 婚約者だったミアに性奴隷宣言されたのだ。

 これまでエマ女王に配慮して手加減していたのを止めただけだ」


「……とても嘘臭いですぞ。

 父上が誰かに配慮するなど考えられません。

 それが例えエマ女王であろうとです」


「余計な事を言っていないでさっさと戻ってこい!

 俺様が嘘をついていようがいまいが、やる事に変わりはない。

 アルファの数を増やすための方法を出来るだけ早く見つけるのだ。

 このままでは人間が絶滅してしまうぞ!」


「そんな事は父上に言われなくても分かっています。

 話が決まってから直ぐに、全速でそちらに向かっています」


「あっ、私も直ぐに戻ります」


 この辺がセイントとオリビアの差だな。

 オリビアには話しながら急いで戻ると言う発想がなかったのだ。


「父上、私とオリビアにも若返りの秘術を教えてください。

 人類のためにアルファの数を増やすと申されるのでしたら、亜空間で何度も子供を生み育ててから戻った方が良いのでしょう?」


「そうだな、ジェネシスは百年以上亜空間で鍛錬を重ねて今の強さを手に入れた。

 二人には十分な強さがあるが、まだ後継者に恵まれていない。

 後継者を得られるまで亜空間に留まるのもいいだろう」


「でも父上、永遠の若さを手に入れられるのなら、永遠に生き続けられるのですから、後継者なんて不要ではありませんか?」


「オリビアの言う事も正しい。

 だが何時何処で不慮の死を迎えるか分からないし、突然若返りの術が効果を無くすかもしれないのだ。

 最悪の状態に備えて二人以上の後継者を作っておくのがアルファの義務だ。

 子作りが嫌いで死ぬ気もないと言うのなら、二人子供を作った段階で実験を止めてもかまわない」


「いえ、そのような事を言っているのではありません。

 単に疑問に思っただけで、子供が嫌いな訳でも子作りが嫌な訳でもありません。

 父上が満足されるまで実験に協力させていただきます」


「ジェネシスとミアの子供がアルファとして生まれて来る事を願うのだな。

 そうすれば追加の実験など簡単に済ませられる。

 俺様とセイントで確認すれば十分だ」


「そんな言い方をしなくてもいいではありませんか!

 私だって父上に協力する気はあるのです」


 十八にもなって反抗したり拗ねたり、お前は三つ四つの子供か!

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