第8話:戦友
神暦3103年王国暦255年1月10日20時:ジャクスティン視点
手入れの行き届いた清潔な大広間は幸福が満ち溢れている。
アルファ、ベータ、オメガの身分に関係なく会話が交わされている。
それどころか身分を超えたパートナーとダンスが行われている。
「よく俺の誘いを受けてくれたな」
この心地よい場所を作り出した漢が声をかけてきた。
「ふん、戦友の誘いを断るほど俺様は無粋じゃない」
俺様の傲岸不遜な言動も、こいつが相手だと甘えになってしまう
「わっははははは、王国一の暴れん坊がよく言う。
無粋を超えて乱暴者ではないか」
「それは相手が目に見えない敵意と嫉妬を向けて来るからだ。
純粋な気持ちで歓待してくれれば、乱暴な言動はせん」
「わっははははは、言葉に出さない敵意と嫉妬こそ貴族の証しだろう?」
「本当のアルファ貴族なら、たとえ勝てない相手でも正々堂々と敵意と嫉妬を出して挑戦するべきだ。
それができないのなら、最初から舞踏会や晩餐会など開かない事だ」
「俺もそう思うが、アルファにもピンからキリまでいる。
自分より強いアルファに従いたいアルファもいれば、卑怯な手段を使ってでも勝ちたいアルファもいる。
それくらい実戦経験豊富なジャクスティンなら分かっているだろう?」
「分かってはいるが、腹が立ってしょうがないのだ。
これから行われる腐り切った罠の数々を思うと、怒りをぶちまけたくなる!」
「ぶちまければいいではないか。
ジャクスティンがその気なら、何時でも手を貸す。
だいたい、正々堂々戦えと言うジャクスティンがこれまで何をしてきた?
簡単に斃せる女王と戦わずに立ててきた。
アルファらしく振舞えと言うのなら、女王を斃して新王朝を建てろ!」
確かにその通りだ、俺様の言動は矛盾していた。
本当のアルファなら、女王を殺すか屈服させて新王朝を建てるべきなのだ。
それもしてこないで、他のアルファ貴族を非難するのは卑怯だった。
「リアムの言う通りだ、これまでの俺様が間違っていた。
アルファならば女王を斃して自分の思う通りの王国法を作るべきだった。
オメガの扱いも、俺様が王になっていれば変えられていたのだ」
「ジャクスティンが王位を避けた気持ちもわからない訳ではない。
アルファ同士が際限なく争えば、魔獣を斃している時間が無くなる。
王家が自然に滅びてから誰かが王を名乗る方が良いと言う考えも分かる」
「そう言ってくれると多少は慰められるが、俺様が間違っていたのは確かだ。
もっと早く王家の打倒を決断すべきだった」
「いや、まだ遅くはないぞ。
王家が恩知らずな行いをしてくれたら、忠誠心などと言う建前を捨てられる。
強い方の味方に付くと言うアルファの本能通りに動ける」
「アルファの本能と人間の理性……その時どちらに強く惹かれるか、難しいな」
「ジャクスティンらしくもない、弱気な事を口にする。
確かに人間は理性的な所がある。
特にベータになった者は理性で行動する事が多い。
だがアルファとオメガは違う。
本能に突き動かされて動く事が圧倒的に多い、特に発情期は理性が効かなくなる。
今回の王女の言動も、アルファらしさに溢れていた。
ある意味あれこそがアルファ本来の考えであり、正義なのだ」
「確かにリアムの言う通りだ、アルファらしく本能で動くのが正解だ。
だがそのために国や人が滅ぶのは不味い。
発情期であろうと、多少は理性を残して行動しなければならない。
王家を滅ぼして新王朝を建てるよりは、王家から分離して新王国を建てるべきだ」
「なんだ、それは、つまらん結論だな」
「お前につまらないと言われようと、俺様には家臣領民がいるのだ。
そう簡単に王国貴族のほとんどを敵に回した戦いなど起こせない。
まずは独立分離、建国宣言をして敵を絞る」
「まあ、確かに、ジャクスティンが独立建国を宣言すれば、同じように独立建国を宣言する者も現れるし、傘下に加わりたいと言う者も現れるだろう。
ウェリントン王家打倒を宣言するよりは、遥かに敵の数は少なくなる。
悪い方法ではないと思うが、つまらん、おもしろくない。
一番面白くないのは、この決断をしたのが、初孫がオメガになったという腑抜けた理由だからだ!」
「その理由が一番アルファらしくないと言いたいのか?」
「そうだ、アルファならば、息子であろうが孫であろうが、オメガに成ったのなら番にして護ればいい!
強いアルファが弱いオメガを護る事こそ、この世界の真理だ!」
「リアムの言う真理に関しては、俺様も少々思う所がある。
時間をかけて実験したい事があるのだ。
その結果次第で、この世界の常識が覆るかもしれない」
「ほう、何か面白い事を考えているようだな。
だったら俺も高みの見物を止めて積極的に加わるか?」
「いや、暫くはそのまま中立でいてくれ。
面白くなると分かったら手伝ってもらう。
それまではこの国の人間が滅ぶ事がないように、行き過ぎた戦いにならないように、歯止めになってくれ」
「……無条件で味方してやる気だったのだが、そこまで言うのなら待ってやる。
だが、万が一負けそうになったら黙っていないからな。
この国の人間が滅ぶことになっても味方するからな!
あの時助けてもらった命の恩は、生きている内に必ず返すと誓ったのだ!」
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