第2話:オメガとアルファ
神暦3103年王国暦255年1月1日17時:ジャクスティン視点
いまだに会場の雰囲気が落ち着かず、俺様に対する刺々しい気配が放たれてくる。
この二十年、ずっと俺様がオメガを女王に回している恨みだろう。
だが、後継者を得られない王家を優遇するのは公爵家の義務なのだ。
「サザーランド公爵家令息ジェネシス様」
いよいよ俺様の初孫が成人の儀式を受ける。
少し緊張しているようだが、堂々とした態度だ。
流石俺様と息子が手塩にかけて育てた男だけのことはある。
「はい」
確率千分の一だから、子供や孫が必ずアルファになれるわけではない。
いつも女王に強運だとなじられる俺様ですら、三十二年間で二人しかアルファの子供に恵まれていないのだ。
「判定の儀式を受けてもらいます」
ジェネシスには、ベータと判定された時でも十分生きて行けるだけの知恵と技術を授けてあるから、オメガ落ちしない限り大丈夫だ。
確率九十八・九パーセントでベータになるのだ、大丈夫、ベータになる。
「はい」
今回の成人式でも、三四八人の貴族が七三五人の子供を参加させて、アルファは独りもおらず、オメガが六人いただけだ。
ジェネシスがオメガ落ちする事など百分の一しかない……
「ジェネシス、オメガ」
「「「「「ウォオオオオ!」」」」」
ブチ殺す!
ジェネシスに手を出す奴は問答無用でブチ殺す!
★★★★★★
「サザーランド公爵、落ち着かれたか?」
「ああ、なんとかな」
俺様も今回だけは全く手加減できなかったのだろう。
会場にいる貴族の大半が、成人式とは思えない傷だらけの状態だ。
意識が飛んでいる間に大暴れしてしまったようだ。
「お爺様……」
あれだけ堂々としていたジェネシスが、小鳥のように怯えている。
オメガ落ちしてしまった事で、性格まで弱くなってしまったのか?
オメガ、オメガとアルファだと?!
「サザーランド公爵。
いつも公爵には色々と世話になってきた。
今回も六人ものオメガを余に献上してもらった。
だから公爵の孫に関しては、特別に家に引き取ってもらってかまわない」
じゃかましい、女王!
俺様は頭が破裂しそうなくらい痛いのだ!
急激に前世の記憶と知識を思い出して頭が爆発しそうなのだ!
「「「「「オオオオオ」」」」」
エマ女王の言葉を受けて会場がどよめいた。
感嘆だけでなく恨みや妬みが籠っているのが分かる。
自分の孫だけは女王に差し出さない俺様と、女王の依怙贔屓を恨んでいるのだ。
「成人式を続けさせていただきます。
ウェルズリー王家王女ミア様」
今年は珍しくエマ女王の子供が一人だけだ。
これまで一人のアルファも生まれなかったエマ女王は、アルファとして多くのオメガ性奴隷とベータ側室を囲っているので、毎年複数の子供が成人式に参加する。
「はい」
年を追うごとに女王のオメガ性奴隷とベータ側室が増えるのは、千人を超える子供が儀式を受けてもアルファを得られない女王の焦りだ。
とはいえ、幾ら王家でも無制限に子供を生ますことはできない。
「判定の儀式を受けてもらいます」
公爵家以下の貴族なら、平気でベータの子供に過酷な条件で平民に落とせる。
だが王家ともなると、少なくとも乞食のような生活はさせられない。
ある程度裕福な平民ぐらしを保証しなければ威信にかかわる。
「はい」
そこで、どうせ平民になる方が百倍も多いのだからと、有能な貴族子女と婚約させておいて、成人式の後で結婚させるのだ。
ミア王女の婚約者はジェネシスだったのだが……
「ミア王女殿下、アルファ!」
やった、ほとんどの貴族に恨まれながら女王を手助けしてきた甲斐があった!
これで女系も使って何とか繋いできた建国王の血筋が次代に残ったぞ!
「「「「「ウォオオオオオ!」」」」」
「どけ、私こそが女王陛下の正統な後継者だ!」
アルファ判定を受けたミア王女が群がる貴族達を押しのけてこちらにやってくる。
思いっきり悪い予感がするのだが、どうする?
前世の記憶が蘇った以上、王女であろうと愛孫を渡す訳にはいかん!
「サザーランド公爵、そいつは元々俺の婚約者だ!
性奴隷としてメス堕ちさせて俺の子供を孕ませてやる。
大人しく渡すのなら、その抵抗するような態度は見逃してやる」
このクソガキ、もうオス化してやがる!
「じゃかましいわ!
てめぇのような尻の青いクソガキに大切なジェネシスを渡せるか!
死にたくないなら尻尾まいて出て行きやがれ!」
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