第9話、まぁ・・しょうがないね

「えっ・・・・はわあぁぁぁぁ、これは私の愛剣の片翼フェリスティリアラグラス。ほっ本物じゃ、会いたかったぞーー」


前世ではオレの妹で勇者だった豊条院 芽芽ほうじょういん めめが自身の身長より大きい剣を抱きしめて狂乱している。


他の3人もそれぞれ似たようなもので夢にまで見た恋人に再会したかのようだ。


オレが「秘匿ストレージ」から取り出したのは かつて勇者パーティだった面々が

メインで使っていた武器のスペアとして保管していた物。

ゲームで言うならレジェンド級の高性能な代物だ。ちなみにメイン武器は神級だ。


将来は分からないが 今の地球では間違っても作れない異常な存在である。


ダンジョンから手に入れたと言っても信じてもらえないだろう次元の違う圧倒的なオーラが漂っている。


「防具は着替えている時間が無いからソレでこの場を凌いでくれ。出来るだろ」


「無論じゃ。これさえ有れば世界すら取れる」


物騒な事を言うな、シャレにならん。



「ダンジョン出る前に回収するからな」


「「「「えええーーーーーーっ、却下‼」」」」


予想通りの反応が返ってくる


「外でソレを見せびらかしたら「危険物」だとか「国宝にする」だとか言われて国に取られるぞ。帰ったらまた出してやるから今は我慢しような」


「確かに この世界でも値が付けられない宝となるでしょう。危険ですね・・・

保管ロッカーに入れたとしても襲撃されて強奪されるのがオチですし」


皆がそれで何とか回収に納得してくれた。外でこんなの抱えてたら命すら危ない。



「ふっふっふ・・・では、オーク共を殲滅して以前の感触を楽しみましょうか」


そんなタイミングで各部屋からオークがなだれ込んでくるから「飛んで火に入る・・」的な状態になった。


彼女たちにあの武器を渡したのは「鬼に金棒」という例えがピッタリだ。


「すまんが私から試させてもらうとしようかのぅ。鏡華きょうかは後ろの集団を抑えてくれ」


「おうっ、て言うか俺にも倒させろや」


「では、速度強化と対衝撃強化を・・・ステキ、流れるように魔法が発動しますわ。あぁ、この感触は久しぶりです」


琴平 涼香ことひら すずかが全員にブーストしていく。

オレも少しは使えるが彼女のソレは別次元の安定感と密度で作用するし持続時間も長い。

とてもではないが真似できない。


やはり攻撃以外の魔法は特に問題ないようだ。


治癒系の魔法も恐らく以前のように使えるのだろう。


魔法そのものが妨害されている訳では無い事がハッキリする。


まぁ当然かな・・そもそも剣で頑強な魔物を切れるのも盾で巨体からくる衝撃を抑えられるのも 全てが魔力を纏わせ使っているから可能であり一種の魔法なのだ。

ソレが出来ない一般人は浅い階層までしか通用しない。


魔法使いの使う高火力な魔法だけが使い物にならない事の方がおかしい。


まあいいか・・オレも戦いに参加する準備だけはしておこう。



「これじゃ、これこそが私の剣技。飛べフェリスの翼‼」

芽芽 めめが斬撃を飛ばすと廊下に溢れていたオークの集団が体を分断されて崩れていく。直ぐにゲームのように消えていき多くのアイテムが一面にドロップされていく。

そして

斥候と遊撃担当の轟 春奈とどろき はるなが素早くアイテムを回収していく。

プロの探索者にとって アイテムを無事に確保する事が一番大事な作業とも言える。

特に肉などの食材がドロップした場合、乱戦で踏みつぶされては何の価値も無い。


「しゃあ‼、こっちもメガシールドバーッシュ‼」


後ろでも轟 鏡華とどろききょうかが本来の盾スキルを使えたようだ。

まるで巨大なローラーで手前から押しつぶしていくようにオーク達が潰れていく。

こちらもその後はドロップアイテムの絨毯が出来上がり轟 春奈が奔走する。


えっ、チートすぎる?いやいやー


これくらい出来なかったら数人のパーティで魔王の軍団と戦えないから。


ゲームと違って現実は敵が順番に出てきて各個撃破されてくれるなんてあり得ないし、魔王まで至るという事はつまり敵の軍団をほぼ壊滅させた後を意味する。


そりゃあ人間の権力者も勇者パーティを恐れる訳だね。


本来ならここに魔法攻撃の援護も加わって前衛の負担も減るんだけどね・・。


「マコっち、アイテムポーチに入りきらないから魔法で収納して欲しいかも~」


「ハイハイ・・・ポーターの真くんは仕事しますよー」


「うひひ、今の見た目でスネてると可愛いよー」


「よせ・・」


オレが足元に通常のストレージゲートを開くと春奈がポーチの機能を反転させてドバドバと拾ったアイテムを流し込んでいく。

前世パーティの時から違和感無く阿吽の呼吸で行われる普通の作業だ。


今のアイテムだけで1日ダンジョン探索した以上の収穫があったぞ。

強大な武器を手にした彼女達にとって凶悪なトラップは盛大なご褒美に変わる。


命がけで戦っているはずなのに彼女達はもの凄く楽しそうだ。


勇者パーティの頃は狩りを楽しむなんて有り得なかった。


皆が幸せそうな顔しているのを見れて良かった。(泣)


この後もすごい勢いでフロアーを駆け抜けオークを殲滅していく。


もう少しで上りの坂道というタイミングで見つけたのは無残な姿となった人間の死体。ストーカーしていた連中だろう。


ここまで距離が離れていると助けようとしても不可能だ。


「アチャー・・あの頃を思い出すねー」


遺体の状態はダンジョンの現実を思い知らされる。


鈍器で殴られ頭蓋骨は陥没し 手足は在らぬ方向にねじ曲がっている。


中には手足を引き千切られ齧り取られた後まで有る。


前世でさんざん見ていなければリバース必至な光景だ。


「こんな場合はどうするんだ?」


「出来れば回収、無理なら探索者専用のキャッシュカード 俗に言うギルドカードを回収すれば認識票代わりに成るのぅ。今回は遺体も回収した方が良いじゃろ」


オレが持って帰るのか・・・・


「そんな顔するでない。心配せずとも彼らの所持しているアイテム袋は無事みたいじゃし それに入れていけば良いだけじゃ」


ああ・・そうか。彼らもこの階層まで問題無く降りてくる上位探索者だ。

高額のアイテム袋を持ってても当然か。


その手の事は気にした事無かったな。


「真さん、前世の感覚で遺体の扱いを考えてはいけませんわ。

色々と面倒ですのよ。

特に今回は彼らが私たちを尾行していたのを知ってる人も多いですから」


「ひょっとして、オレ達が殺したと疑われるのか?」


「あり得る話じゃ。妬みや やっかみという感情も入るしの・・。

特に警察は最初にその点を疑うじゃろ。

彼らは事件を解決した方が手柄になるからのぅ」


えーーっメンドクサー。このまま放置したほうが良いんじゃ・・


「真にゃ悪いが持って帰るのに賛成だぜ。ダンジョンをナメて軽く考えている探索者は一定数いる。そんなバカ共の良い見せしめになるだろうさ」


「私たちみたいに深く潜るパーティに付いて来る危険性も知らせないとねー」


そんな訳で早くも撤収する事に成る。


上の階層まで無双状態をつづけ、ストレージの中はとんでもない数のアイテムが収まっている。


「むしろじゃ、これほどのアイテムを持ち帰るからこそトラップの証拠になるぞ」


「本当に真さんが同行して無かったら困ったですよね」


いや、煽ててもだめだぜ、涼香さん。

オレが居なかったら今日は探索してなかっただろが。


一階層上がるとダンジョンは正常な姿となりモンスターの濃度も普通になった。


「まだここの階層の魔物は強いのじゃ。じゃから もう少しな・・」


などと、武器を回収しようとするとゴネられた。


さすがに階層が浅くなると他のパーティの反応も多くなり、見られると問題なためシブシブ愛する武器を手放したが。


気持ちは分かるけど、ここは心を鬼にして隠さないと色々とマズすぎる。


潜航時間は3時間半くらいかな、短くも長い疲れる探索だった。




ダンジョン入り口の広場に入ると彼女達の顔つきは厳しくなり殺気すら感じられる。


「おいおい、深緑の鏃しんりょく やじりさん達がキリキリしてるぜ」


「珍しいな・・いつもは静かすぎるくらいなのに。大方、一緒のガキがヘマでも仕出かしたんだろうぜ」ひそひそ


オープンな席の酒場から失礼な会話が聞こえてくる。



「保安担当の責任者を呼んで緊急よ」


受付に来るなり威圧を込めた琴平 涼香ことひら すずかの言葉がホール全体に聞こえる勢いで響きわたる。この中で彼女が一番大人っぽいから役割なのかな?。


「あの・・どのようなご用件で・・・」


「緊急なの、急ぎなさい‼」


「はっ、はひっ」


受付嬢はマンガのように狼狽えて走っていった。


意図的に周りの耳目を集めているようだ。

六階では今も大量のオークがうろついているし危険な状況を伝える責任があるのだろう。


長くなりそうだな。


オレは明日も学校なんだけど・・・・





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