第016話「あーちゃん法廷」

 夕刻。

 時計の針は十七時を指し、空はオレンジ色に染まり始めていた。

 オレの部屋のリビングにて――法廷は開幕された。


 原告人 シャン

 被告人&弁護人 オレ

 検察官&裁判官 あーちゃん先輩


 権力に偏見と偏りを感じる。

 はたして、オレは無罪を主張できるのだろうか。


「では、これより、モー君有罪裁判を行います」


 すげぇ、始まると同時に判決出てるよ。

 闇法廷かここは!


「異議あり!」


「異議は認められません!」


 ちょっと待て!じゃあ、【異議】の【意義】がないじゃないか!


「異議ありの意義がないことについて、異議あり!」


「面倒くさいので却下です!」


 南無三!


「モー君、素直に認めれば刑期は短くて済むよ」


「刑期?お主様は捕まるのか?」


 シェンはびっくりしたようにオレを見た。


「大丈夫、あなたがいない間、この子は私が立派に育て上げるから!」


 よよよ、とハンカチで涙をぬぐうあーちゃん先輩。

 こいつ……面白がってやがる。

 あーちゃん先輩は面白そうに見ているが、シェンはそれどころではない。心配そうにオレに縋りつくと涙をためた瞳でオレを見上げる。


「お主様は我様が嫌がったから捕まるのか?我様が素直にお主様を受け入れればそれでいいのか?」


「おーい。本気で泣きが入っているぞ」


 オレはあーちゃん先輩を見ると彼女はバツが悪そうにポリポリと頬を掻きながら「冗談よ。冗談!」とシェンの頭を撫でながら謝る。


「本当か!お主は我様を謀っておらんじゃろうな?」


 心配そうな顔でオレとあーちゃん先輩を何度も見比べる。


「ああ、大丈夫だ」

 

 オレが頷くとシェンは安心したように「そうか……よかったのじゃ」とその場にへなへなと尻もちをついた。


「もう、モー君が女の子を襲うなんてそんな甲斐性あるわけないじゃない!」


 あはははと笑いながらあーちゃん先輩。

 もしかして、オレって馬鹿にされてます?


「まあ、そんなことはどうでもいいとして」


 その扱いは男としてどうなのよ。というオレの意思は無視された格好だ。だが、ここで何かを言ってしまうとまたぶり返しそうなので止めることにした。

 無意味な火種は起こさない。オレは安全第一なのだ。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 シェンの恰好があんまりだということで、彼女いは巫女服に着替えている。


「獣耳に尻尾……おまけに巫女服のコスプレ――オプション価格五千円也……モー君にこんな趣味があったなんて……」


 あーちゃん先輩。それは誤解です。

 風評被害もいいところです。


「そ、粗茶ですが……」


 オレはウサギのイラスト付きマグカップに注がれたコーヒーをあーちゃん先輩に、狐のイラスト付きマグカップをシェンの前に置いた。


「お主様、我様はコーヒーは苦手なのじゃ」


「大丈夫。これはココアミルクだ」


 マグカップはバイトの帰りに雑貨店で購入していたものだ。

 シェンはココアを一口飲んでぱぁっと表情を明るくする。


「甘味!甘味なのじゃ!」

  

 ちなみにあーちゃん先輩のマグカップは我が家に常駐している。ついでに言うと、箸とかスプーン、歯ブラシまで先輩の分がある。そして、一室を【秘密のお部屋♡】をして占拠している。

 オレの家が植民地化されてる。

 いずれは開拓され、あーちゃん先輩の領土となってしまうのではないかとオレは心配している。


 『ここは私の避難所なんだからね♡』というのが彼女の言い分なのだが、人の内を勝手に避難所にしないでもらいたい。あーちゃん先輩がどうしても彼氏と会いたくない時にオレの家に逃げ込んでくる。

 オレはあーちゃん先輩の彼氏を未だに見たことがない。名前すら知らない。オレにとってあーちゃん先輩の彼氏は謎の人物Xなのだった。

 それはともかく、深夜とかに家に入り込むのは勘弁して欲しい。

 オレにもプライベートというものがある。まあ、二人の前ではその秘密性はティシュペーパーよも薄いのだが……

 

「じゃあ、改めて……この女の子はどこのどちら様なのかしら?」


 あーちゃん先輩はひと息ついてから質問を開始した。


 □■□■□■□■用語解説□■□■□■□■


【オプション価格五千円】

 オ客サン、ココカラ先ハ【有料】ネ。

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