第48話 決戦(1)

 用務員おじさんの中年パンチが炸裂した。


 ぶっ飛ばされる腐れダンジョンマスターらしき少年、最早、ひと間違いの可能性はないだろうと本気でぶん殴った。


 まあ流石に顔パン一発じゃ気絶もしないのか速効で復活してこちらをにらみつけて来たけどね。

『こっの! 図に乗るなよ人間がぁあーー!』


 灰色に光る魔法陣が空中に展開される、その魔法陣からは合成混魔が何体も現れた。こちらはバリーを魔法で転移させてセーフティポイントに送る。

 致命傷はないから後はリエールを信じるしかないな。


『よくもまあアレだけ舐めた真似をしでかしたバリーを助けたり出来るね? 君こそ英雄願望持ちの頭のおかしいヤツなのかい?』


 別に英雄願望くらい持ってる人はいるんじゃない? こんなファンタジーな世界だし、前世で住んでた日本でも口に出さないだけで人から称賛とかされたいって人は普通にいたし。


 ただ俺のはそんなんじゃないけどね。


「………お前と話す事なんてないんだよ」

『あ~らら、随分と嫌われたね。まっボクも汚い中年野郎なんて大嫌いだけどね!』

 魔法陣から出現させた合成混魔を用務員おじさんにけしかけて来た。どうやら指示とかなくても動くタイプの僕らしい。


「………ふ~~~っ」

 呼吸を整える、既に魔法による用務員おじさんの強化は終えている。これで歯が立たないならどの道逃げるしかないな。


 …………まっ絶対にヤツはぶっ倒すけど。

 地を蹴る、雷光を纏ったおっさんは直線で腐れダンジョンマスターを目指す。

 当然モブ敵が通せんぼ、魔法を唱えた。

 『雷光演舞らいこうえんぶ』、雷を纏った用務員おじさんが合成混魔の巨体を薙ぎ払う。


『雷の超級魔法か! やっぱりまだ上があったわけだ!』

「………」

 追加で更に増える敵、雷だけじゃ足りないか。流石に魔法に強い魔物だから一瞬で消し飛んではくれない。


 なら消し飛ばせる魔法を使うまで。

 『金剛万雷こんごうばんらい』、虹彩の粒子を纏った雷が上空から降り注ぐ、群がる合成混魔を一瞬で掃除した。


『魔法耐性をガン無視する魔法の雷か! そう言うのがあるから魔法ってやっかいなんだよ!』

「…………シッ!」


 接近成功、数度打ち合う、小柄なのに力は強くて体幹もしっかりしてるな。流石は腐ってもダンジョンマスターって事か?

 『ハァアッ!』

 大振りな回し蹴り、一歩下がり間合いから出る。

 目の前を素通りしていく足の足首を掴んで勢いのままにぶん回す。


『!?』

「オラァアッ!」


 そして地面に叩きつけた。

 ゴスッと言う重く鈍い音が聞こえる、すると掴んでいた足首の感覚が消える、『転移』か。

 一瞬逃げたのかと思ったがヤツは直ぐに姿を見せた、場所は上空。


 黒く発光する槍を幾つも空中に出現させていた。バリーが使っていた。『呪殺の魔槍』かあれ。

『素早く動く中年野郎とか最早ゴキかなんかだね、近づきたくもないから……これで死ね!』


 『飛行』を発動、一気に加速して腐れダンジョンマスターとの距離を可能な限り潰す。

 ヤツの魔法が放たれた、黒い発光する槍が用務員おじさんに向かって物凄い速度で放たれる。


 しかしAGIを極限まで高めた効果なのかその槍の動きは用務員おじさんには捉える事が出来た、空を飛行しながらの曲芸よろしく紙一重で全て躱す。

 腐れダンジョンマスターは追加でドンドン黒い槍を出現させて用務員おじさんを狙ってきた。


 しばらく腐れダンジョンマスターに好きに攻めさせる、そして頃合いを見て全ての槍に包囲された。

『これで……終わりだ!』

「………」

 『魔法反射』を発動した。


『ハッ!?』

 ここまで温存しておいた切り札だ、まさかずっとギリギリで魔法を回避してたヤツが『魔法反射』を使ってくるとは思わなかったみたいである。


 もしもエコーとのバトルを見られてたりしたらヤバかったけど、それらしい視線を感じる事は無かったのでこの魔法にワンチャン賭けたのだ。


 放たれた黒い槍が全てヤツ自身へと攻撃対象を変更して襲い掛かる。

『くっ………無駄だよ!』

 腐れダンジョンマスターは魔法を解除した、その反射の速さは大したもんだ。


 しかしそのスキがあれば用務員おじさんはお前に触れられるくらいは訳ないだよね。

「…………『封鎖の術印』」


 腐れダンジョンマスターの身体に鎖を模した呪印が浮かび上がる。

 これは魔法をかけられたヤツだけがしばらく魔法を使えなくなる魔法である。


『なっ……貴様!?』


 これでこのムカつく腐れダンジョンマスターをボッコボコに出来るね。

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