よくある冒険者ギルドで絡まれるテンプレの話

もふっとしたクリームパン

ある女冒険者の話



 よくある冒険者の立身出世物語の序盤で、よく使われるテンプレってあるじゃない。主人公が冒険者になる為に冒険者ギルドに行ったら、強面おっさん冒険者に絡まれるってヤツ。アタシ、まさにソレを経験したことあんだよね。アタシのその体験談、聞いてくかい?



 まず前提として、当時のアタシはまだ十代前半の乙女で、か弱い印象があったのさ。ま、今のアタシの姿からじゃ想像しにくいだろうけど、冒険者になる前の話だから誰だってそんなもんじゃないかね。…で、そんなアタシが冒険者登録の為に冒険者ギルドに行った時、そのテンプレってヤツが起きたのさ。か弱いアタシは顎に傷跡がある強面おっさん冒険者に絡まれて逃げられず、うっかりスキルを使っちゃったんだよね。そしたら、もう、アタシを心配する心の声が聞こえて来たわけ! わかる?! この時のアタシの気持ち!! あぁそうそう実はアタシ、心聴スキルってのを持ってんのよ。簡単に言うと相手の心の声を聴くことが出来るスキル。と言っても発動するのに条件があるから便利ってほどじゃないし、スキルの発動がバレた時点で無効化されるし。珍しいらしいけど、アタシ的には頼りになるようで頼りないスキルって感じ。それよか、身体強化系のスキルが欲しかったわ~。アタシの旦那が持ってんだけど、ほんと羨ましい。素手で大岩を粉砕出来るとか……あっと、そうそう話の続きね。



 アタシに絡んで来た強面おっさんが表向き「お前なんかが冒険者なんてやってけねぇよ」ってゲラゲラ笑ってんの。でもねスキル発動で聞こえて来た心の声がさ、『本当に危ないからやめときな』『可愛い女の子なのに、危険すぎる』『せめてもう少し成長してからじゃないと心配だな』…って全部こんな感じの声ばっかり聞こえんのよ。腕掴まれてそのまま隣接してる酒場に連れて行こうとされたけど、『隣の酒場、確か柑橘系のジュース置いてたよな』『細いな…うまいもん食わせてやらねぇと』『メシ食いながら事情を聞けたら、行きつけの商店とか別の職場を紹介出来るかもしれねぇ』とか聞こえてきて…もうほんと、人が好過ぎない?!って感じでさ。見た目とのギャップが本気やばかったわ…。



 そうしてたら、アタシと同年代くらいの若い男の子が来たのよ、「その子の手を放せ」って。…見目はかっこいい系の男の子で剣士っぽい姿してたから、いかにも正義感が強い男子って感じだったと思う。その時アタシは強面おっさんの心の声に聴き入ってたから、突然の割り込みに驚いてソイツにもスキル発動しちゃってさ。そしたらソイツから、『まぁまあ可愛いし、ここで助けたら俺に惚れるだろ』『次の女を見つけるまでの遊び相手には丁度いいかも』『胸はちいせぇけど、尻は好みだから楽しめそう』ってそんなんばっかり聞こえてくんのよ。いやぁ、ほんとクズっているんだなって思ったわ。



 どっちについてったかって? もちろん、最初に絡んで来た強面おっさんに決まってんじゃん。青年の方がアタシから手を離さないならって、強面おっさんを殴ろうとしてたから、間に入って青年の方をビンタして、「四股してる、下心丸聞こえのクズ男に惚れる訳ないでしょ!」って叫んでやった。『キープしてる便利な女が四人いるから、コイツも調教してソレに入れてやろうかな』って内容の心の声も聞こえてたからね。ほんと、最低なヤツだったよ。で、ソイツはしばらく赤く腫れた頬を抑えて突っ立ってたけど、「このクソ女!」って殴りかかってきてね。今度は強面おっさんがソイツを取り押さえてくれてさ。強面おっさんが他の冒険者達とギルドの関係者に声かけて何か話したら、ソイツはそのままどっかに連れてかれたよ。その後で強面おっさんと一緒に酒場に行って、メシ食いながらアタシの事情聴いてもらってさ。最初は止められたけど冒険者になるアタシの決意を汲んでくれて、心配だからってバディにまでなってくれたんだよ。新米もいいとこのアタシじゃ、碌に役立たないはずなのにさ。冒険者の先輩としても色々指導してくれて…今じゃ、アタシの旦那様よ、旦那様。ふふ、相変わらず優しくて、この前子供出来たって伝えたら泣いて喜んでくれてさ。妊婦の身体にいい食べ物ばっかり買って来るようになったのはいいけど、子供のオモチャまで一緒に買ってくるもんだから、この前叱っちまった。産まれてもないのに気が早すぎるってさ。



 あぁ、旦那かい? アタシは休業してるけど、旦那だけ今も冒険者家業を続けてるんだよ。昨日から隣町の近くにあるダンジョンに出掛けてる。子供産まれたら一緒に育てたいからって、極限まで働かなくて済むようにお金貯めるんだって張り切っててさ。ほんと今の旦那と出会えて良かったわ~。使い古されたテンプレってやつでも、意外と絡んで来る強面おっさんの方がヒーローの場合もあるみたいだよ、アタシ達の出会いみたいにね。





【完】

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